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聖女さまは取り替え子  作者: 灯乃


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『叱咤激励』

「走れ走れ走れ! 足を緩めるな、情けない惰弱者どもが! おまえたちの本気はその程度か? だとしたら、おまえたちはとんだ腰抜けだ!」


 広々とした訓練場に、よく通るアルトの声が響き渡る。

 そこで行われているのは、騎士団に入団したての新人たちへの手荒い歓迎の儀式――ではなく、ここトゥイマラ王国の勇猛な騎士たちの中から、選りすぐりの精鋭たちを集めた魔導騎士団の対魔獣訓練である。

 訓練場一面に散らばる自律稼働型の高速移動ターゲットを、ダークグリーンの騎士服に身を包んだ騎士たちが、次々に射貫いていく。

 中型魔獣の暴走状態を再現したターゲットは、どれも複雑で予測不可能な動きをするのだが、すでに幾度も実戦を経験している騎士たちにとって、さほど手こずるものではない。

 ただ――。


「ホラホラどうした! 足を止めるな、気合いを入れろ! もうダメだと思ってからの一歩が、おまえたちを強くするんだ! これくらいで弱音を吐く根性なしなど、誉れ高き我が王国の騎士団にはいらん! 根性なしは根性なしらしく、おうちに帰ってママのミルクでも飲んでいろ!」


 訓練開始からから延々と続けられている罵詈雑言に、一糸乱れぬ陣形を維持したまま魔導武器を操っていた騎士たちが、額に青筋を立てながら大声で喚く。


「……っだらあぁああああ! オイ、どこのどいつだ! ウチの聖女さまにこんな『叱咤激励』を教えやがった大バカ野郎はーっっ!!」

「そこは言わないお約束ってやつですよ、団長ー! これは、我が国の騎士養成学校の伝統みたいなモンなんですから! 強いて言うなら、俺たち全員が同罪ですうぅううー!」

「うわあああぁああーっ! この罵倒されながら戦うカンジが、ちょっと癖になりそうで怖くなってきてるのって、俺だけ!? ねえ、俺だけ!? 違うよね、誰か違うって言ってーっっ!!」


 ……一国のトップエリート集団とはとても思えない有様だが、非常に残念なことに、これがトゥイマラ王国魔導騎士団の現状だった。

 それから一通り訓練が終わった頃、弾むような軽い足取りで現場にやって来たのは、この国の王太子、クラウス・フィン・レイズ・トゥイマラ。

 彼は癖のない金髪にアメジストの瞳、そして三国一の美女と讃えられる王妃譲りの美貌を持つ、十九歳の青年である。そのすらりとした体躯に穏やかな物腰と相俟って、若い女性たちからは『美し過ぎる王室男性ランキングナンバーワン』、『ほほえみの初恋泥棒』などと言われていた。

 そんなクラウスが満面の笑みを浮かべ、トゥイマラ王国の聖女――ウィルヘルミナ・カルティアラに声を掛ける。


「お疲れさまです、ウィルヘルミナさま! 私と結婚してください!」

「……お疲れさまでございます、クラウス殿下。今日は、どうなさいましたか?」


 ものすごくナチュラルにされたプロポーズを、いたって真顔でスルーしたウィルヘルミナに、クラウスはまったく笑顔を崩すことなく答えた。


「はい! 実は、先ほどからディアナさまとご夫君のイグナーツどのが、こちらでの訓練の様子をリアルタイム映像でご覧になっていたようで……。もしウィルヘルミナさまがよろしければ、午後のお茶をご一緒させていただきたい、とのことです。いかがなさいますか?」


 その問いかけに、ウィルヘルミナは少し考えてから首肯する。


「了解いたしました。自分でよければ、喜んでご一緒させていただきます」

「そうですか! では、そのようにお伝えしておきますね!」


 トゥイマラ王国の王太子は、今日も元気いっぱいだ。

 クラウスは一見して線の細い印象の青年だが、上背はそれなりにあるし、騎士としての訓練も充分に積んでいる。

 だがウィルヘルミナは、十二歳のときに騎士の道を志してから、魔力を持たない身でも問題なく働けるよう、毎日コツコツ筋肉トレーニングに励んできた。そのお陰か、女性としてはかなり立派な体格となることができたし、身長も騎士養成学校の同輩たちに劣るものではない。


 実際、ほんのわずかとはいえ、クラウスと相対すると見下ろす形になるくらいだ。クラウスならば――一国の王太子という身分に加え、見た目も性格もいいとなれば、その妃となりたがる麗しい女性など、いくらでもいるだろう。

 なのにクラウスは、ウィルヘルミナが聖女と認定される前から、いったい何をとち狂ったのやら、顔を合わせるたびにプロポーズをしてくるようになっていた。まったく、わけがわからない。


 相手は自国の王太子であるし、聖女認定されるまではなんの疑問もなく『将来仕えるべき主』と見定めていた相手だ。

 クラウスは幼い頃から次代の国王に相応しい才覚を見せる子どもだったと聞く。学業に優れ、人望もあり、魔導武器の扱いにも長けている。

 美的感覚については、学友たちから『おまえにも苦手な分野があることに、ちょっと安心している自分がいる』と言われるウィルヘルミナにはよくわからないけれど、彼の外見や装いが王族に相応しい優雅さを備えていることに、異論はない。

 よって、ウィルヘルミナが彼に敬意を抱くことに対しては、なんの疑問を抱く余地もないのだが――。


(……うん。今日もクラウス殿下の背後に、ぶんぶんと元気に振り回される尻尾の幻影が見える)


 ウィルヘルミナがクラウスと出会ったのは、騎士養成学校の実習訓練で、南の砦に赴いたときのことだ。

 当時、凶暴化した魔獣の襲撃が頻発していた南の地には、魔導騎士団が援軍として駆けつけており、そこにクラウスも『国王からの預かりもの』として参加していたのである。

 とはいえ、魔導騎士団の面々はクラウスを特別扱いしている様子はなかったし、厳しい現場では誰もがみな同じように泥まみれになっていた。そのため、彼が自国の王太子であることに、しばらく気がつかなかったくらいだ。


 騎士養成学校の学生たちが担当していたのは、怪我人の初期手当と、通信伝達。砦内部の清掃業務。その他諸々の雑用関係。

 もちろん、実戦で魔導武器を手に取る機会などあるはずもなく、とにかく現場の空気に慣れること、というのがその実習訓練の目的だった。

 だが、いったい何がどうなった結果だったのか――ある日突然、クラウスがウィルヘルミナに対し、やたらとキラキラしい笑顔で『私と結婚してください!』と言ってきたのである。


(あれは、本当に意味がわからなかったな……。反射的に、クラウス殿下の頭をどついて正気に戻そうとした自分は、別に悪くないと今でも思う)


 当時は、呆気に取られて自分たちの様子を見ていた同輩たちが、真っ青になって「ウィルー! ちょ、おま、なにやってんのー!?」「気持ちはわかるけども! わかるけどもー!」と、喚いて叫んでの大騒ぎになってしまった。

 そして、気絶したクラウスは医療棟行きとなり、ウィルヘルミナは半日間の自室待機のうえで、ひとり寂しく反省文を書く羽目になったのだ。


 存外頑丈な頭蓋骨の持ち主だったクラウスは、いったい何が楽しいのやら、それからもことあるごとにウィルヘルミナにプロポーズ攻撃を続けている。当然ながら、彼女の姿に気付くなり仔犬のようにすっ飛んできて『結婚してください!』と叫ぶ彼には、そのたび丁重に断りの返事をしていた。反省文を書くのは、面倒なのだ。


 しかしクラウスは、彼女が何度プロポーズを断っても、まったく意に介した様子がなかった。たまに、ちゃんと言葉が通じているのが不安になったけれど、どんな訳のわからない遊びだろうと、いずれ飽きるだろうと思っていたのである。

 それなのに――だ。

 その後、ウィルヘルミナが聖女であると判明したお陰で、それまでの人生すべてがひっくり返ってしまった。


「まあ……。それでは、ウィルヘルミナさまはその南の砦で、汚染痕ポリュシオンの出ていた魔導騎士さまの手当をされたことで、ご自身が聖女であることがおわかりになったのですね」

「はい。その折は、砦中がひっくり返るような騒ぎになりましたよ」


 午後のティータイム。

 王宮の庭園で開かれた茶会に集まったのは、騎士服を着たウィルヘルミナとクラウス、そして清楚な印象のワンピースをまとった銀髪の女性と、彼女の装いに合わせたシンプルな衣服を着た青年だ。

 銀髪に美しいブルーグレーの瞳の女性は、大陸南東の大国ミロスラヴァ王国からやって来た聖女、ディアナ・ザハールカ。その隣に座る、黒に近い褐色の髪に藍色の瞳をした青年は、彼女の夫であるイグナーツ・ザハールカだ。


 ディアナの要望で実現した茶会で話題になったのは、やはり互いが聖女であると判明した際の驚きについてである。

 もっとも、ディアナが自身の持つ聖女の力に気付いた経緯については、彼女をこの国で保護したときに概ね聞いていた。そのため、この場で主に語ることになっているのは、ウィルヘルミナのケースについてだ。


「自分が生まれてすぐの頃に、領地で流行病がありましてね。そのため、自分は十歳になるまで、祖父母の住まう国境近くの小さな村で過ごしたのです。ようやく状況が落ち着いて、自分が領地へ戻ったときには、すでに魔力もあってないような状態だったものですから……」


 ウィルヘルミナは、小さく苦笑を浮かべて言った。


「祖父母は、自分が魔力を持って生まれた子どもであることを、両親に知らせていたようなのですが。当時の両親は流行病への対処で忙殺されているときでしたし、その後も流行病の後遺症に苦しむ兄のケアに努めておりましたのでね。毎日従者たちと遊び回っている自分については、『元気であればそれでヨシ!』という扱いだったようです」


 いろいろな事情が重なって、両親も兄も、すくすく育って騎士養成学校に入学したウィルヘルミナが、元来魔力を持って生まれた少女であったことを、すっかり失念していたらしい。


「自分自身も、魔力があった頃の記憶がほとんどないのですよ。ですから、自分が聖女であることがわかったときは、家族揃って本当に驚いてしまいました」


 特に、自分たちのウッカリのせいで、この国の聖女発見が遅くなってしまったことを知った両親の取り乱しようは、尋常なものではなかったと聞く。

 生家にウィルヘルミナが聖女であったという知らせが届けられた直後、母はその場で卒倒し、父は王宮へ謝罪のため飛び出していったらしい。

 そして兄は、倒れた母の介抱をしながら『この家は、私が継ぐ。おまえは心置きなく、聖女としての務めを果たすように』と、落ち着いた声で連絡してきた。

 体が弱く、穏やかで優しい人という印象ばかりの兄だったが、彼がいればあの家は大丈夫だと、素直に思えたことを覚えている。


 その後、通信魔導具越しに父から『すまああぁあああああああん!!』と鼓膜が破れそうな大声で謝罪されたときには、なんだか妙に気分が落ち着いてしまった。

 たとえどれほど驚きの事実に直面しようと、自分以上に動揺している人間がいると逆に落ち着いてしまう法則というのは、どうやら迷信ではなかったようだ。


「そうだったのですか……」


 ウィルヘルミナの話に、ディアナが吐息交じりの声で頷く。

 艶やかな銀髪に白い肌、折れそうに華奢な体と可憐な美貌を持つ彼女は、同性のウィルヘルミナから見ても実に魅力的な女性である。ゆっくりとした口調で語る声も言葉も、柔らかく耳に心地よい。

 ディアナが、気遣わしげな様子で問うてくる。


「ウィルヘルミナさまのお兄さまは、今はご回復なさっているのでしょうか?」

「はい。体のほうは、すっかりよくなっているそうです。両親も、兄の回復ぶりに大変喜んでおりましてね。今は兄が騎士の資格を得られるよう、家族一丸となって努力していると聞いております」


 五歳年上の兄は、領地で流行病が発生した初期において罹患してしまっていたため、ウィルヘルミナとともに祖父母の元へ身を寄せることができなかった。元々、頑健とは言い難い体であったせいか、流行病の後遺症も随分長引いてしまったらしい。

 ウィルヘルミナの生家であるカルティアラ伯爵家は、建国当時から続く武門の家柄だ。その後継者には、当然ながら騎士の資格を持つことが求められる。しかし、流行病のために騎士養成学校への入学が叶わなかった兄は、いまだ騎士資格を有していない。


 そのため兄は現在、王都から招いた教師たちに魔導武器の扱いを学んでおり、彼らの許可が下り次第、騎士資格取得のための外部試験を受ける予定だと聞いている。ただ、幼い頃から十代の半ばまでをほとんど寝たきりで過ごしていたせいで、やはり体力的にかなり厳しいところがあるようだ。

 それでも、なんの迷いもなくウィルヘルミナの背中を押してくれた兄は、本当に立派な人だと思う。


(医者たちも、兄上がここまで回復したのは、奇跡のようなものだと言っていたからな……。まさかこんなことになるとは夢にも思わなかったが、あまり無理をしないでいただきたいものだ)


 そんなことを考えていると、ディアナがほっとしたように息を吐いた。


「そうなのですね。ウィルヘルミナさまのご家族がご健勝のようで、安心いたしました」

「ありがとうございます、ディアナさま。ところで、ディアナさまとイグナーツどのには、午前中の訓練の様子をご覧いただいていたと伺っておりますが……。その、随分驚かれてしまったのではありませんか?」


 一応、自分が歴代の聖女たちとは少々――否、かなりかけ離れた力の使い方をしていることは、自覚しているのだ。

 そのことについてはとうに開き直っているけれど、はじめてディアナの姿を見たときには「ほほう、これが噂に名高い聖女さまというものか」と、ついウッカリ自分のことを棚上げして感心してしまった。


 美しくたおやかで、彼女が歌う『聖歌』はどこまでも透明な調べで響き渡る。

 まさに人々が思い描く理想の聖女像そのもののようなディアナがこの国にやって来たとき、ウィルヘルミナは少々申し訳ない気分になった。

 もしウィルヘルミナが正しく『聖歌』を歌える聖女であれば、彼女を護衛し戦う魔導騎士団の面々が、午前中の訓練時のような愉快な嘆き方をしなくとも済んだはずだ。


(いや……自分が『聖歌』の歌唱訓練をろくに受けていないのは、その辺について少々無頓着だった、お祖父さまとお祖母さまの責任だとは思うんだが)


 生まれてすぐにド田舎の農村へ預けられ、そこで自由奔放な育てられ方をしたウィルヘルミナに、祖父母は一応『聖歌』の歌唱訓練を施そうとしてくれたらしい。

 しかし、彼らが余生をのんびりと過ごそうと居を構えた彼の地は、今思い出してもとんでもない山奥であった。

 人の数より家畜の数が多いような農村において、日常的に必要とされるのは美しい歌声などではなく、放牧した家畜を呼び戻すための大音声によるコマンドである。その点、幼い頃から牧羊犬とともに牛追いの手伝いをしていたウィルヘルミナは、村人たちから重宝される非常にパワフルな子どもだった。


 実際、そのときの大声で家畜に呼びかけながら山野を走り回っていた経験が、今の『叱咤激励』において、かなり役立っているとは思う。

 だが、ここ一年ほどは下町暮らしをしていたとはいえ、ディアナは元々ミロスラヴァ王国の重鎮貴族の家で育てられた、深窓のご令嬢だ。そんな彼女にとって、ウィルヘルミナの聖女としての働き方は、かなり衝撃的だったに違いない。

 そう問うたウィルヘルミナに、ディアナは楽しそうに笑って言った。


「そうですね。まるで驚かなかったと申し上げると、嘘になってしまいますけれど……。ウィルヘルミナさまの凜々しいお姿は、大変眼福でございましたわ。ねえ、あなた?」


 軽く小首を傾げて彼女が同意を求めた夫のイグナーツ・ザハールカは、たしかクラウスと同い年の十九歳。

 はじめて顔を合わせたときの彼は、いかにも傭兵らしいラフな印象のジャケットに無骨な革靴、革手袋という姿で、油断なく周囲を伺う目つきには獣のような鋭さがあった。

 だが今、ディアナの隣で穏やかな微笑を浮かべているイグナーツは、まるで貴族の子弟と言っても通じそうな柔らかな雰囲気を纏っている。

 元々、ディアナの護衛役も兼任する専属従者だったという彼は、低く穏やかな声で口を開いた。


「ええ、本当に。これからどちらの国でお世話になることになったとしても、私は妻の隣に立つ権利を、誰にも譲るつもりはないものですから……。聖女さまが実戦に赴く際、護衛の方々とどのような連携を取るのかを拝見できて、大変勉強になりました。ありがとうございます」

「そうおっしゃっていただけて、安心いたしました」


 ウィルヘルミナは、ほっとした。そんな彼女に、夫に愛情深い目を向けていたディアナが、どこか言いにくそうな様子で問うてきた。


「ウィルヘルミナさま。その……先ほど、みなさまの訓練の様子を拝見していたとき、ひとつ気になってしまったことがございまして。ただ、わたくしたちの護衛に付いてくださっていた騎士さま方には、その件については直接ウィルヘルミナさまにお尋ねするよう言われたものですから……。もしよろしければ、この機会にお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「はい。なんでしょうか? ディアナさま」


 同じ聖女である彼女に対し、隠すべきことなど何もない。ウィルヘルミナがあっさりと応じると、ディアナの表情が柔らかく綻んだ。


「ありがとうございます。――先ほどのウィルヘルミナさまは、わたくしのような素人の目から見ても、本当にご立派でございました。大勢の武器を持った騎士さまたちが、目の前で激しく動き回られていても、少しも動じることなく『叱咤激励』を続けていらっしゃって……。わたくしもかくありたいと、心から思いましたわ」


 そこで軽く首を傾げたディアナが、生真面目な顔になって言う。


「ただ、ウィルヘルミナさまが『聖歌』をお歌いになられないのは、何か特別な理由があるのでしょうか? もし、ああいった『叱咤激励』が『聖歌』以上に有効なのであれば、ぜひわたくしも習得したいと――」

「ゴフッ」


 ちょうどそのとき、ティーカップに口を付けていたクラウスが、盛大に咽せた。

 口元に手を当て、ゲホゴホと苦しげに咳き込む彼に、ウィルヘルミナは冷ややかな視線を向ける。そして、王族にあるまじき失態に驚いている様子のディアナに向き直り、口を開く。


「申し訳ありません、ディアナさま。残念ながら、自分の『叱咤激励』の効果は、歴代の聖女さま方の『聖歌』のそれと、ほぼ同等です。ディアナさまのお歌いになる『聖歌』ともなんら変わりはございませんので、敢えて『叱咤激励』を学ばれる必要はないと思われます」

「そう、なのですか? ではなぜウィルヘルミナさまは『聖歌』ではなく、『叱咤激励』を選ばれましたの?」


 心底不思議そうなディアナに、ウィルヘルミナは真顔で告げた。


「自分は、極度の音痴なのです」

「……は?」

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― 新着の感想 ―
か、海兵隊… まぁナギんところも絶対服従方式だったからどこの国も同じなのか だから第一話みたいに、暴走したらあんな言葉遣いになってるんだな
軍人聖女様、いやいやちょっと待って。 声楽は運動よ。合唱部に入った子達がまずするの腹筋背筋の鍛錬だからね。一音ずつ身体全体を使って正しい音を出す練習を続けて、歌劇歌手はマイクいらずの声量になる訳です。…
あっ、騎士聖女様! あいも変わらず凛々しくていらっしゃる。  だが叱咤激励する様子は正直言って、鬼軍曹のそれではないかと。 で、訓練しておられるトップエリートの騎士団の皆様に、良いお知らせが···何に…
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