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隊長の過去

 思わず言い淀んでしまう。ヒーラーでさえ、真実を話したら敵になるかもしれないんだ。

 サマリを治療してくれて悪い気もしたが、俺は嘘をつくことにした。


「……ちょっと俺の依頼に付き合ったせいで重症を負ってしまって」


「でも、あなた方の最新の受注はコボルト五体のはずですが……」


「……なるほど。ヒーラーはそんなところまで調べているのか」


「え、ええ。どのモンスターが脅威になるのか。それによってランクを上下させ、そのモンスターと戦う兵士がいたらそれ相応の準備をしておかなければなりませんから」


「確かに、コボルトじゃこんな怪我にはならないよな」


「そうですね。コボルト相手では精々かすり傷程度だと思われます」


 ……くっ。万事休すか。もう、彼女には真実を話さなければならない。

 意を決し、俺はつばを飲み込んでから口を開ける。しかし、先に声を出したのはヒーラーだった。


「……もしかして、ギルドの『粛清』に遭ったのではないのですか?」


「粛清?」


「サマリさんは村から来た人間ですから……。あっ! い、今のは聞かなかったことにして下さい……!」


「いや、君の推測は正しいよ」


「……え?」


「俺とサマリは、確かにアレグをリーダーとした兵士たちに殺されそうになった」


「でも、生きていますよね?」


「まるで、俺たちが生きてるのが不思議って感じだな」


「普通はそう思います。アレグさんたちから逃れられた人間は居ませんでしたから」


「じゃ、俺とサマリはアレグの襲撃から生き残った最初で最後の人間ってことか」


 その言葉だけで察したのか、ヒーラーは目を伏せた。それは喜びとも悲しみともつかない複雑な表情だった。


「そう……ですか。アレグさんが……」


「君は、俺たちにとって信頼できる人間なのか?」


「私は村の人だろうと国の人だろうと関係なく、人を救うためにこの仕事をしています。ですから、その辺りは安心して大丈夫です」


「そうか……」


「止めるのですか? ギルドのやり方を」


「それをユリナ隊長に言うところだ。これからな」


 目の前のヒーラーが信頼できる人物なら、ここにアリーを置いていっても問題ないだろう。

 俺はサマリの横にアリーを寝かせると、そのまま出口へと歩き出す。準備は整った。後はユリナ隊長に真実を聞くだけだ。

 だが、俺の歩みはヒーラーによって止まってしまった。彼女が興味深いことを口にしたからだった。


「……ユリナ隊長に言っても無駄だと思います」


「何だって?」


「ユリナ隊長とヴィクターさんが主導になって、この計画は進んでいるんです。モンスターの脅威に備えるために村と協力するという名目で国の長を騙していますから、直接国に直談判してもダメです」


「やっぱり、ユリナ隊長も絡んでたか」


「ユリナ隊長をどうするおつもりですか? やはり……」


「ユリナ隊長は間違ってる。領土を広げるために人々を……村が守ってきた歴史を消し去ろうとしているんだからな」


「……彼女は、昔は違ったんです」


「違った?」


「ユリナ隊長は、昔は村と国の協力を真剣に考えていた人でした。そのために、彼女は実際に村に赴いて村人との交流を積極的に行っていた程ですから」


「なら、今はどうしてあんな計画を考えるようになったんだ?」


「ある一人の男性の死によって、彼女は変わったんです。その男性とユリナ隊長で、本来の計画……国と村が協力してモンスターを退治する計画を発足させていました。ただ……」


「ただ……?」


「……その男性は村人によって殺害されたのです。ある日、村に出たモンスターを狩っていた男性。その狩りの後、疲労が溜まっていた男性を、村の人達は寄ってたかって殺したのです」


「何……!?」


「ユリナ隊長はその男性を想っていました。だから、彼が殺された時、彼女の中で何かが壊れてしまったのでしょう。それからは本来の計画を歪めて、村を滅ぼすために動いているんです」


「……それを俺に話して、どうするつもりだ?」


「きっと、あなたはユリナ隊長を……。ですから、彼女にはそういう過去があるってこと、覚えておいてほしいんです」


「例え過去がどんなに悲惨でも、他人に迷惑をかけていい理由にはならない」


「そう……ですよね」


「男を殺した村人に対する復讐なら、俺は何も言わない。けど、ユリナ隊長は直接手を下さなくとも多くの村人の命を奪い、村の歴史を消し去ってきた。それを許すわけにはいかない」


「分かっています……」


「サマリとアリーをよろしくお願いします」


「……はい。帰ってくることを期待していますね」


 ユリナ隊長に会いに行くため、俺は彼女がいる城へと向かったのだった。

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