治療施設にて
サマリがギルドの治療施設へと送られていく。
結局サマリの生死をギルドへ委ねてしまったが、俺は最後まで迷っていた。いや、ヴィクターからギルドの事実を聞かされてギルドの選択肢を選ぶというのはあり得ないだろう。
だが、治療の魔法を使えず、知識もない俺が頼れるのはギルドの医療施設くらいしかない。
ギルド以外の国の施設を選ぶという手もあったが、それこそ怪しまれるだろう。その疑惑はすぐさま広がり、俺たちはこの国で生きづらくなっていく。
まあ、こんな国で生きる必要もないのはあるが……。
それにヴィクターは『ギルドに関わっている全ての人間』が村人殲滅作戦に参加しているわけではないことを暗に示していた。
ギルドの受付嬢や、トロール八体を退治した時に感化してくれたギルドの兵士……。まだ希望は残されている。
「けーくん……サマリお姉ちゃん大丈夫かな?」
「ああ。あいつがこの程度でくたばるはずがないさ」
「……うん」
俺とアリーは、体力を回復させるためにギルドの待合室にいた。
本当は家に戻って休みたかったが、サマリにもしものことがあってはいけない。サマリをギルドという危ないところに置き去りにして、自分たちだけ安全なところで休む。それは俺にはできない。
アリーはサマリを心配しつつも、次第に疲労が顔に出てきている。
囚われて、あんな場面を体験したのだから、さすがの彼女も疲れている。ウトウトと重たそうな目を瞬かせていた。完全に目が閉じる前にハッとして目を覚ますが、またすぐにウトウトする。
ユリナ隊長に真実を聞きに行きたいが、せめてサマリの安全を確かめたい。アリーの前じゃ強気なことを言った俺だけど、今日の彼女は血を流しすぎている。
一度は治療魔法で死を免れた彼女だが、二度目は完全に気絶している。そこで国に着くまでの時間の消費を考えたら、彼女の命は非常に危険だと言えるだろう。
「けーくん、サマリお姉ちゃんが治ったら、これからどうするの?」
「どうした? どっか行きたいところでもあるのか?」
「……ん。まだこの国にいるのかなって……」
アリーが俺に呟く。彼女としては早くサマリの怪我が治り、この国から逃げ出したいのだろう。
だけど、俺にはやらなきゃならないことがあるんだ。ここを放っておいたら村が消えていってしまう。年百年もの歴史を紡いできた村が、モンスターの襲撃と国の陰謀によって数年で衰退してしまう。それは村暮らしの俺からは絶対に許されない。
アリーの気持ちを踏まえつつも、俺は力強く言い放った。
「ユリナ隊長から真実を確かめるまではここにいる」
「そっか……」
「アリーとサマリだけでも逃げてていいぞ。俺はこの国の問題が片付くまでは決して退かないつもりだからな」
「……けーくんとサマリお姉ちゃんが一緒に居なきゃ嫌だよ」
「アリー……」
「けーくんはサマリお姉ちゃんみたいに傷だらけにならないよね?」
アリーは俺にもたれかかる形で抱きついた。いつも近くにいたサマリの代わりに俺の温もりを感じていたいのだろう。
俺はそれを受け入れ、彼女の頭を優しく撫でていく。
「大丈夫だって。今までに俺が負けたことがあったか? アリーを助けた時も、さっきの戦いも……俺は勝ち続けてきたじゃないか」
「うん。そうだよね……。けーくんなら、大丈夫だよね。……ん」
「どうした? まだ心配なことがあるのか?」
「ううん。ただ……私のせいでサマリお姉ちゃんとけーくんが大変なことになったから……」
「アリーが気にすることじゃないさ。これはギルドに来た村人を狙った計画だったんだ。今日、アリーが素材探しに行かなくても、アリーと会わなくても、いつかは起こってたさ」
「ねえ……この国には学校があるんだよね?」
「まあ、そうみたいだな」
「……私も学校に行けば、サマリお姉ちゃんとけーくんを助けられるようになれるかな?」
「学校か。俺は行ったことないけど、きっと自分の力になれるところだろうな」
「そっか……けーくんは村人なんだもんね……」
「だけど、そんな急じゃなくてもいいだろう。疲れただろ? 今はゆっくり休むんだ」
「そーだね……」
俺の言葉に安心しきったのか、緊張の糸が途切れたアリーはそのまま俺の胸の中ですやすやと寝息を立て始めた。
俺が負けないことぐらい、アリーだって分かっているはずだ。ただ、それを俺の口から聞けるまで不安だったのかもしれない。
アリーの寝顔を眺めているうちに、サマリの治療をしていたヒーラーの女の子が治療室から出てきた。
白を基調とした衣装は清潔感を漂わせ、
彼女の焦燥しきった表情を見て心の中で覚悟を決める。もしかしたらサマリは……。
「あの、サマリの容態は……」
「……何とか、というところです。一命を取り留めましたが、絶対安静です」
「そうですか……! よかった」
サマリが生きててくれた。アリーが目覚めたらいい話ができる。
ホッと安堵した俺はヒーラーにサマリに会いたい旨を伝えた。
「すいません。サマリに一目会いたいんですけど……」
「彼女を安静に、というのであれば問題ないです。こちらです」
眠っているアリーを背負いながら、俺はヒーラーの案内に沿ってサマリが寝込んでいる部屋へと通される。
ヒーラーがドアを開けてくれて、俺は彼女にお辞儀しながら部屋の中へと入る。
そこには、いつものサマリからは想像もつかない大人しい彼女の姿があった。意識を失っているから当然かもしれないが、それ以外には特に違いはない。
「本当に良かった……」
「サマリさんがここまでの怪我をすることは始めてなのですが、一体何が起こったのですか?」
「それは……」




