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※最初のキッカケ

 サマリお姉ちゃんの料理を堪能して、私は満腹感で満たされていた。

 美味しそうに食べる私を見てサマリお姉ちゃんも嬉しくなったのだろう。お姉ちゃんは次々にパンを私に運んできたのだ。

 もちろん、パン好きな私は全部平らげたんだけど、すごくお腹が膨らんだと思う。いや、膨らんだよ絶対に。

 こんなにお腹いっぱいになるのは何時ぶりだろうか。……初めてかもしれない。旅団でもここまで食べたことはない。盗賊団の奴隷になっていた時はなおさら。

 これまでにない幸福感を感じながら、私は休憩がてらサマリお姉ちゃんの家を覗くことにした。

 彼女の家はまさに設備が整っている素晴らしい家だ。台所はもちろんお風呂場もある。それに、ベッドで寝るためだけのお部屋まであるのだ。

 こ、これが先輩の実力なのかな。

 色々なお部屋があって感動したけど、私はその中で棚の中にあった本に興味を持った。

 棚は私が夕食を食べた居間に設置されてある。


「へー、色んな本があるんだ……」


 思わず声に出して言ってしまったけど大丈夫。

 サマリお姉ちゃんは夕食の後片付けをしに台所に行っているからね。

 棚に羅列されてある本の種類は様々だ。サマリお姉ちゃんの趣味の本もあれば魔法の本もある。だけど、私が注目したのは装飾品に関する本だった。

 装飾品に関する本を手に取り、ページを開いてみる。内容は腕輪やティアラ等の体に装着する装備の作り方だった。

 なんと、この本に書いてある通りに作れば、色々と良いことがあるらしい。例えば、足が早くなったり直感が鋭くなったり……。

 普通は単なる思い込みの効果だと思うけど、私は旅団でこんな話を聞いたことがある。

 世界には魔力を秘めた宝石が散らばっていて、それを加工して身につけてモンスターと戦っている村や国があるらしい。

 そして、盗賊団もそのような装飾品を集めようと躍起になっている時もあった。結局手に入らなかったみたいだけど。

 興味を持った私はその本をペラペラめくり始めた。


「あ、その本興味あるの?」


 突然、サマリお姉ちゃんは私の後ろから本を覗いてきた。

 驚いた私はサマリお姉ちゃんをぼーっと眺めている。


「最初は私もその本で装飾品を作ろうと思ったんだけどね。その本、素材がどこで手に入るか書いてないんだよねー。それに、たまたま集まったこともあったけど作ってみたら失敗したし……アハハ」


 確かに、作り方は丁寧に書かれてあるけど素材の取得場所は全然書かれていない。

 でも、私には分かる。素材の名前だけだとちんぷんかんぷんだけど、一緒に描かれている絵で分かるのだ。

 旅団にいた時、色々な素材を私は見てきた。そのどれもが記憶に焼き付いている。それは直後に奴隷としての生活を強いられていたからかもしれない。

 奴隷生活の間、私は旅団での記憶を毎日思い出して苦しさを紛らわせていた。それがこんな形で役に立つなんて……。

 それに奴隷の時だってそう。盗賊団が話している内容を、私は耳で必死に聞き続け、頭の中に叩き込んでいた。奴らの隙を見つけるために聞いていたけど、その中に素材の話もあった。盗賊団の話だから眉唾ものが大半かもしれないけど、知識が無いよりましだ。

 盗賊団については、結局けーくんが助けてくれた。私はそんなけーくんの役に立ちたいことを探していた。

 それが、見つかったような気がする。


「欲しいならあげるよ? どうする?」


 私はサマリお姉ちゃんに向かって力強く頷いた。

 それを見たお姉ちゃんも同じく頷いてくれた。


「そっか。私が持っててもしょうがないしね。よし! それはお姉ちゃんからのプレゼントにしよう!」


 ありがとう、お姉ちゃん。

 私はお姉ちゃんから貰った大切な本をぎゅっと胸の内に抱きしめた。

 これでけーくんの役に立つことができる。けーくんの家に居候しているけど、今まで自分にやれることを探していた私。その答えが、ここでようやく見つかった。

 待っててねけーくん。


「さーて栗毛ちゃん。お腹が一杯になったら一緒にお風呂入ろうか?」


 その時、私は抱きしめていた本を落としそうになった。お、お風呂? お姉ちゃんと?


「何びっくりしてるのよ。女の子同士だし問題ないよ。それに、栗毛ちゃんの裸はすでに見ちゃってるじゃない。今更恥ずかしがる必要ないよ」


 いや、それはお姉ちゃんが私を勝手に脱がしたんだよね? しかも、けーくんがいる時に私の服を捲って見せたよね?


「ほら、私がちゃんと体洗ったげるから! ……昨日まで傷が傷んで全然洗えてなかったんでしょう?」


 肯定の意味で、私はそっと頷く。

 確かにそうだ。お湯を掛けると体中の傷が痛みだす。だから、出来るだけお風呂は避けてたのだ。

 サマリお姉ちゃんの言うことは正しかったけど、彼女は何を勘違いしたのか変なことを言い出した。


「あれ? もしかして、病気になるとか心配してる? それは安心して! ちゃんと私の魔法で作った水だからね! いやー、こういう時魔法って便利だよねー。もし魔法がなかったらお風呂なんて発明されてないんじゃないかな?」


 サマリお姉ちゃんの魔法がこんなところで役に立つとは。

 これはけーくんにも教えないと。

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