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※奇襲数十分前

 ……今頃、けーくんやユニちゃんはどこで何をしているのだろうか。

 授業中だというのに、私はぼーっと空を眺めてそんなことを考えてしまっていた。空は青く、気持ちのいい風が私の体を取り囲んでくれる。

 今日は魔法の練習ということで、外にいる。大体は疲れる学校の授業だけど、退屈な座学じゃないのが幸い。だって、ずっと座って話を聞くなんて、つまらないもん。

 せっかく学校にいるなら、動いて楽しめるような授業がいっぱいあるといいなー。

 こんなことを言うと、けーくんに怒られるだろうか。もしかしたら、同調してくれるかもしれない。

 ……うーん、やっぱり無いかな。けーくんは真面目だから、私を窘めてくれるかも。


 今日の魔法は私の得意な炎の魔法。

 先生はいつも通りに手順を授業を受けているみんなに説明していく。教科書とまったく同じ内容をただ朗読するだけじゃダメだよ先生。ちゃんとコツを教えてほしいよ。

 教科書と変わらない先生の説明で出来る生徒はそう多くないだろう。

 そんな、教科書では教わらない部分を教えてくれるのがサマリお姉ちゃんなのだ。お姉ちゃんは本当に凄い。感覚的に物を教えてくれるんだけど、ちゃんと的確に教えてくれる。

 前に聞いた話だと、お姉ちゃんは本を読み込みながら独学で必死にマスターしたらしい。その苦労が、教える立場になって生かされているのだろう。

 ……だったら、お姉ちゃんから簡単に教わった私は教え方が下手くそになるのかな? うーん……そうならないために、ちゃんと授業を受けないといけないなあ。


「こら、アリー。私の聞いていますか?」


「あっ。ご、ごめんなさい。少し上の空になってました……」


 頭の中で考え事をするのはいいけど、先生の話はちゃんと聞かないとダメだ。

 私は正直に話すと、頭を下げて謝った。


 先生は納得してくれたようで、話を続ける。

 そうして、先生の話が終わった後に各々の練習が始まったのだ。


「さて……頑張るぞっ」


 えーっと、今日の魔法は『ザブゴラ・ヒノ』だったっけ。サマリお姉ちゃんがいつも使ってる魔法より数段威力が上の魔法。

 でも、体力の消費が激しいらしい。だから、熟練者ほど『テーゼ・ヒノ』で対処することが多いらしい。


 杖を持って、教科書に書かれている呪文を頭の中で反芻する。

 恥ずかしがらずに呪文を唱える。心の中にしっかりとしたイメージを持つ。全ての意識を魔法を出力する場所に集約させる。

 この三つを守れば、サマリお姉ちゃんのように凄い魔法が放つことが出来るはず。

 ……でも、何だろう。前と違って、サマリお姉ちゃんの真意がハッキリと分かるような気がする。

 もしかして……メルジスした影響なのかな。それで、サマリお姉ちゃんの考え方が少し浸透したのかも。


 その影響があるのか無いのか、私は簡単に『ザブゴラ・ヒノ』を発動させることが出来たのだった。


「アリーちゃんすごーい! どうやってやったのー?」


「え? えへへ……イメージかな?」


 恥ずかしくなって思わず顔を隠してしまう。

 各所から湧き上がる拍手。私が簡単に今回の魔法を唱えてしまったことに対して、賞賛してくれる。

 暖かい気持ちが流れ込んでくる。きっと、けーくんもこの想いがあったからうぃーくんを倒すことが出来たんだ。

 ……うぃーくんのことは、私がずっと覚えている。この国に迷惑をかけたことも、旅団で私が守っていた頃のことも、全て……。


「……納得いきませんわっ!」


 ほとんどは私に拍手してくれた。けど、一人だけ私に対して不満を述べる人間がいた。

 彼女だけ、いつも私に突っかかってくる。庶民である私がどんどん上達していくのが気に食わないのか、言いがかりにも近いことでいつも火花を散らしている。

 まあ、私は意に介さないからノーダメージなんだけど。無視しても、彼女は諦めないところが凄い。

 彼女は確か……ああ、名前を覚えていなかった。だって、私を嫌ってくる相手の名前なんて覚えたくないよー。

 でも、きめ細やかなブロンドヘアに整えられている顔立ち。それだけで彼女がどこかの令嬢だと分かってしまう。

 制服は同じタイプのものなのに、彼女が着るだけでランクがアップしているかのようだ。

 勝ち気な性格を模しているのか、彼女のキツい眼差しが私を睨みつける。


「どうしてワタクシではなくて、あなたなんですの!? 先に魔法を覚えてしまうのが!!」


「あ、あの……そう言われても……」


「ワタクシは家を背負ってここにいるというのに、あなたは特に家柄がないと言うではありませんか。そんな娘がどうして……分かった! きっと予め予習してたに違いありませんわ! そうやって、優越感に浸るだけに予習を!」


「う……うぅ……ゆ、優越感は特に感じてないんだけど……」


 ただ、『予習』については反論できないかもしれない。でも、だから何だというのか。

 それぞれのペースで魔法を使えるように出来ればそれでいいじゃん。どうしてそんなことを言うのかな?

 彼女は親指の爪を噛みながら、とっても恨めそうに呪詛を唱えてくる。


「卑怯ですわ。どうせコネか何かで魔法を先に教えて貰ったのでしょう?」


「コ、コネじゃないよ……」


 確かに、ここに入学できたのは私一人の力じゃない。けーくんの活躍があって、けーくんが稼いできてくれたお金で通えてるんだ。

 でも、ここで学んだことはちゃんと吸収して自分のものにしている。それに嘘偽りはない。

 いつか、けーくんの役に立てるように……サマリお姉ちゃんと並んで戦えるように……いつも一生懸命……とは言えないかもしれないけど、とにかく私なりの全力で学習している。


「いいえ! 絶対にコネで――」


 そこで、先生の喝が入る。怒られるのはもちろん令嬢さんの方だ。

 それはそうだ。私に因縁をつける暇があったら、魔法を使えるようになってみたらどうなのかな?

 ……でも、私だって調子に乗ってはいけない。暮らしてみて分かったけど、学校というのは旅団のように集団での動きが重要になる。

 だから、一歩先に行きすぎてしまうと反感を買ってしまうのも当たり前なのだ。

 うーん……こういう時、どうすればいいかけーくんとサマリお姉ちゃんに聞いてみようかな。

 ……大体、サマリお姉ちゃんの方は想像がつくんだけど。


 たっぷり絞られた令嬢さんは私の方を向いて悔しそうな表情を顔に出す。

 そして、苦し紛れにこんなことを呟くのだった。


「い……今に見てなさい……! いつか後悔させてあげますわ……!!」


 け、結構です……。なんて言ったら、また怒ってしまう。

 だから、私は苦笑いをしながら授業の続きを受けるのだった。

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