第28話「王都」
お久しぶりです。高校時代に執筆していた本作品ですが、ぼちぼち続きを書いてみようと思います。当時の感性や表現方法等、私自身が変化していますので違和感を覚えられるかもしれまんが、作品の基本的な指針は変えないつもりです。それでも良ければ、未熟な文章ですがまたお付き合い下さい。(/・ω・)/
※物語構成を練り直したので、一部話数を削除しました。
ヴァルカン王国は四季に恵まれた気候と豊かな土壌を持つ土地である。その中でも王都グラードは山脈から海洋に向かって流れるサヴァ大河のほとりに位置し、数ある支流の合流地となっている。古くから山々の富んだ土壌を下流へと運び、農耕と商業が発達してきた。
実際、俺たちがアクスポートから通ってきた街道も、海洋に向かう数多の支流の一本に沿って建設されているのだ。また王都の歴史を辿ると水運要所として発展を遂げており、例を挙げると北方のメルアー帝国と西方のブクレル自治区の中間交易地点となっている。
「ううっ~!やっと着いたねえ~!楽しかったけど、久々にベッドでゆっくり寝たいよぉ」
シャルが両手を上げ、背筋を伸ばしながら馬車生活に別れを告げている。俺たちは検問を越え、王都のギルドへと馬車を返却手続き中であった。検問では幼子3人だけという点が幾分怪しまれたが、所持していたギルドカードを見せると、案外すんなりと通してくれた。
王都の街並みは独特であった。俺たちの故郷シーモア自治区は、温暖な気候と海洋に面していることから湿気対策として通気性が良い木造建築が多かった。
しかし、ヴァルカン王国は広大な領土を持ち多文化が混在している。そのため、年季の入ったレンガ造りのマンションもあれば、大理石の教会、モスクのようなドーム状の建築物など多種多様である。
俺たちはお互い迷子にならないよう気を付けながら、ギルドで購入した街地図を片手に目的地へと足を運ぶ。教育機関は幾つかあるが、目指すは郊外の小高い丘にあるグラード帝国大学である。ここには唯一魔法学部があり、北方帝国の魔法大学と双璧をなしているという。これから俺たちはこの美しき街並みを背景に、華やかな学生生活を送るのだ!
だが問題はいきなり訪れた。
「ダメです。中等教育を満たしていない方は、本学への入学を認められません」
「はあ。そうですか。」
「...え?」
ソフィアが間の抜けた声で大学受付のお姉さんに応じるが、頭が追いつかない。
5年前からせっせと目標を定めて準備して、シリルやオリヴィアを泣かせてまでここにやってきたのに、『受験資格ありません。いやあそうですよねえ。知らなかった僕たちが悪いですぅ。ごめんなさい☆』で済ませられるわけがないだろう???
往生際が悪いのは承知だが、ごねるしかない。
「ちょっと待ってくださいよ!道中入学については調べましたが、高額な学費を除けば門戸は開かれてるとお聞きしたんですが...」
「あー...それは昨年度までですね。実は近年の工業化を契機に、中産階級からの入学希望者が急増しまして。でも、大半は魔法適正がないのに魔法学部を志すもので、弊学としても困ってたんです。そこで今年から、中等教育で適正の判別を経たうえ、教員の推薦制に移行したんですよ」
「そ、そうですか...」
撃沈。いやいやいや、やばいマズいぞ。そんな話は聞いてない。
全ての算段が狂うんだが??
金ならあるし、ここは金に物を言わせて無理やり入学を認めさせるか?いや、受付のお姉さんにそんな力はない...。となればその中等教員とやらを買収して推薦状みたいなものを書かせるか?いやいや、やってることがまんま貴族か何かのドラ息子過ぎるし、入学者の質を絞ろうとしてる大学側からバレたらただでは済まないだろう...。
よし、ここは一旦シャルを見よう。
うん。いつも通りシャルかわ。シャルと目線が合うが、シャルはおどおどとしている。不安なのだろう、やはり俺がどうにかにしないと...。そう思っていると、肝が据わったソフィアに先を越された。
「では、要するに実力があることを示せば、入学を認めてもらえるということですね?」
「ええ。一応規定では入学試験を通過すれば大丈夫ですが、その...おそらく貴女たちの年齢だとかなり厳しいですよ...?」
「構いません。日程と試験内容を教えてください」
ソフィアはテキパキと説明事項を聞き出し、必要書類や試験項目をメモしている。
す、すごい...。
「はい、クリスさんとシャルの分です。試験日程は明日、内容は一般的な読み書きと数学、そして魔法実技です。余裕ですよね?」
ソフィアは仏頂面でぶっきらぼうに呟く。どうやら受付のお姉さんに苛立ちをぶつけているようだ。幼さを理由に実力を舐められたのが、彼女のプライドに響いたらしい。
お姉さんも決して舐めてるわけでなく純粋な心配で言ってくれたのだと思うけど、そんなことは関係ないのだ。まあ俺だって女の子に間違われるの嫌だし、ソフィアにとっては子供扱いが嫌なんだろう。むしろその反骨心がなければ、クリスくんとシャルちゃんの冒険は終わってたから結果オーライである。
俺たちはソフィアに感謝しつつ、ひとまず試験に備えるため本日の宿へ戻った。
「いやぁ~、一時はどうなるかと思ったけど良かったねえ。ソフィありがとうだよ~!」
「あれくらい普通ですよ。むしろ、クリスさんが引き下がった方が意外でした」
「...面目ない」
あれ、やっぱり俺ってコミュ障なのかな。一時期克服したと思ったけど全然そんなことなかったようだ。ぴえん。男らしくもないし、ソフィアにもっと失望されてる気がする...。
ここは話題を変えねば...!
「そ、それよりもさ。試験って本当に余裕なの?魔法実技はともかく、特に座学もあるみたいだしさ」
「う~ん、そうだよねぇ。そもそも私は《回復魔法》と《防御魔法》しか使えないし、何だか心配になってきちゃったなぁ」
「まあそれについては大丈夫でしょう」
ソフィアはそう言って、試験内容を説明してくれた。
試験求められるスキルは三つ。一つ、講義受講の基礎である読み書き。二つ、複雑で難解な魔法理論を読み解くための数学。三つ、魔法適正、つまり才覚の測定である。
そのため、俺もシャルも簡単な読み書きはオリヴィアが教えてくれたのでクリア。数学に関しては、シャルはいつも眉と口をひそめてぐぬぬと唸っていたが、それでも一般よりできる子のはずだ。となると、あとの問題は魔法適正をどのように測定するかだろう。
「ソフィアは余裕そうだね。以前にもこんな試験を受けたことがあるのかい?」
「ええ、私の故郷がそんなところでしたから。似たような経験はあります。おそらく自分が得意とする魔法を発動して、その有用性や強大性を示せば問題ないはずです」
ソフィアは普段に増してムスッとしながらも答えてくれた。
ソフィアの故郷か...。深い話はいまだに聞いてないけど、やはり色々ありそうだ。でも試験に関しては、特定魔法を指定される形式でないことに安堵する。治療魔法しか使えないシャルが詰んじゃうからね。
そうやってテーブルで試験について話してると、当の本人であるシャルが遠くでうずうずし始めたのが目に入った。長い馬車旅だったから、久しぶりの柔らかいベッドの感触を楽しんでいるのだろうか。ベッドの反発を活かしてお尻でぽんぽん跳ねているし、何かぶつぶつ言っている。
「...うん。これくらいの柔らかさなら動きやすいね。シーツも肌触り良いし。広さも十分...」
「あの~、シャルちゃん...?一体何の確認をしているのかな?」
「ふぇっ!?」
シャルはいたずらがバレた子供のように、可愛らしい悲鳴をあげる。内容はあまり聞こえなかったが、何やら良からぬことを企んでいるに違いない。
王都に到着したということは、順当にいけばもうすぐ学生生活が始まるというだ。つまりそれは、俺と一緒のベッドで寝ることができなくなるのを意味する。そういう約束をしているのだ。
まったく、人が君の明日の心配をしているというのに、本人は呑気なものだ。...いや、もしシャルの企みが俺の予想通りなら、まさか今日勝負を仕掛けようとしてるのか!?
明日第一の人生の岐路なのに??
う~ぬ、むしろ一種の願掛けか...?俺と肌を重ねることで受かる的な...?
(あれ、願掛けは目標達成まで何かを我慢するんだっけ...?わからん!)
「———」
...気が付けば、ソフィアがまたジト目でこっちを見つめていた。何か久しぶりだ。
まあ真剣に試験内容の対策をしていたのに、急に現を抜かしてるんだもんな...。当然か。
「———」
やばい気まずい。沈黙が怖い。目線が怖い。今日の失態といい、何だか逃げ出したいよ。
うーん、よし!もう考えても仕方ない!寝ようか!!!
思い立ったが吉日とやら。俺はベッドに腰掛けているシャルをそのまま押し倒し、勢いよくシーツを被る。ベッドは相変わらず2つしかないし、ソフィアはもう一つを使ってくれ。シャルは急な出来事で「えっ?ええ??」と喚いているが知らない知らない、あー聞こえない。
「んじゃおやすみ!明日はがんばろー!」
「ふあ、ふぁふがろー」
「———」
聞こえる音からして、ソフィアはしばらくテーブルから動かなかったが、俺はシャルを強引に抱きしめて寝る体制に入る。
流石のシャルも緊張してか、じっと動かず体温が高くなっていく。俺から積極的な行為をすると、緊張してそれ以上の行為ができなくなるのは実証済みだからね!...あれ、なんか勢いで動いちゃったけど、俺これソフィアの前で何をやってるんだろうか...?
キィ、バタンッ
遠くで勢いよく扉が占められた音が聞こえた。頭からシーツを被ってしまっているので目視はできないが、おそらく、確実に、絶対にソフィアは呆れて部屋を出てしまったのだろう。
...明日謝ろ。昔から焦ると奇行に走る癖もそろそろ直さねば...。
そう反省しながら、ゆっくりと目を閉じる。シャル湯たんぽが温かい。段々とシャルも落ち着いてきたのか、「ふふ、ふへへ」と嬉しそうに抱きしめ返してくるが、もう気にしない。
入学したらいつから寮に入れるか不明なので、最後に一緒に寝る日がいつになるか具体的に分からないのだ。だったら、それまではこれでいいじゃないか。
そして、迎えた試験当日。シャルは試験に落ちた。




