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はぁ。異世界転生ですか・・・。  作者: まるくす
第2章『学校生活』
28/30

第26話「出発」

 冒険者ギルドでマルクさんと馬車を貸してもらう約束をしてから早1週間が経った。

 今日は311年の2月5日である。

 

 この一週間、ソフィアは俺とシャルと一緒に生活していた。

 俺たちが泊まっている宿屋にはベッドが2つあるので俺は約束通りシャルと二人で1つのベッドを、ソフィアはもう1つのベッドを使っていた。

 また、料理は相変わらずシャルが上手くこなしてくれていた。

 ちなみに初めの頃はソフィアも手伝うと言って料理を作ってくれた。

 だが、その出来は女の子の料理というよりは男のワイルド料理だったのだ。

 食えなくはないが、かといって味もあまりよろしくない料理だった。 


 どうやらソフィアはあまり料理が得意じゃないらしい。 

 まぁもっとも、本人的にはその出来は合格点だったようだが。


 なお、さすがのシャルもそれを見て苦笑していた。

 しかしやがてソフィアの料理を見てられなくなったのか、これからは料理を教えてあげるよとソフィアに提案した。

 そしてやはりソフィアもシャルのお手本の料理を見ると、自分の出来と比べて恥ずかしく思ったのか、その提案を素直に受け入れていた。

 だがそういうやり取りをしつつも、二人は楽しそうに笑っていた。 

 この生活になったことを嬉しそうに。


 あぁ。

 あのシャルに友達ができたのか。

 ソフィアもシャルという友達ができて嬉しそうだし。

 案外あの二人はいい組み合わせだったのかもしれないな・・。


 というか女の子が二人で仲良くしてるのって眼福だよね。

 俺は見ているだけで幸せだよ。

 仲睦まじいことで何よりです。


 

 まぁそんなこともあって、ソフィアはシャルと長年の親友にまで見えるようになっていた。

 ちなみに今二人は、一緒にお風呂に入ったり買い物に出かけたりするまでになっている。

 何も知らない人はきっと、まだ出会って1週間なんてその様子からは想像できないだろうな。


 そしてそのおかげで、シャルの俺に対する依存率も少し減った気がするし。

 多分シャルがソフィアと仲良くなったため、俺の負担度が少なくなったからだろうな。

 といっても別に俺にとってはシャルの想いが負担ではないが。

 むしろ俺という男としては頼られることは大歓迎なのだ。


 しかしこれはシャル自身の問題だ。

 ある特定の人物一人だけと仲良くなっても心理的には良くない。

 特にそれが幼少の頃からの異性ならなおさらだろう。

 俺と離れた生活になったときに、俺抜きじゃ生きてられない状態になっては困るのだ。

 そのため、やはりより多くの人と関わることが重要なのだろう。 

 


 だがそうは言っても、今こういう偉そうなことを思っている俺にしたって知識としてこの事を本で知っていたが実行に移せなかったヤツだからな。

 しかも俺の場合は依存とやかくの前に依存できる相手すらいなかったのだ。

 ボッチですがなにか、だ。

 おそらく前世の俺からすると、今のシャルの状況すら羨ましく思うだろう。

 

 しかし要は俺としても、シャルが俺と離れたときに自律できるようになっていて欲しいんだ。

 だから俺はシャルにその機会をつくってくれたソフィア様々であった。 



 だがその肝心な俺が感謝しているソフィアはシャルの対応とは打って変わって、俺に対しては少し素っ気ない対応をするようになっていた。

 シャルと会わせた日の夕食におけるあの軽い小競り合い以降、そんな感じがずっと続いている。

 まぁあの日に初めて会ったのだから、これが元々の対応なのかもしれないが。


 にしてもソフィアは優柔不断な俺にムカついたのだろうか。

 いや、もしかすると元々女っぽい見た目の俺がそんな男らしくないことをしているから幻滅してしまったのかもしれないな。

 ごめんよ、ダメな男で。


 というか、俺はソフィアに女として見られているのかもしれない気がする。

 着替えとかも普通に目の前でされるし・・・。

 まぁそれはシャルがそうしているから単純にそれを真似ているだけかもしれないけどね。

 しかしどちらにせよこれは、俺という存在を気にしてないと思うんだ・・。


 はぁ。

 これからはもう少し男らしい対応を気をつけよう。

 だからせめて二人とも、俺に対しては異性として普通の対応をしてください・・・。

 実はこのままいくとソフィアだけじゃなくて、そのうちシャルにまで女の子として接しられそうとか思ってて怖かったりする。

 成人になって俺の初体験がシャルにとってはレズプレイのつもりだったとか嫌だぞ。

 俺のショックが大きすぎるわ・・・。


 



 とまぁ、これぐらいがこの1週間で俺が知っている出来事っていうか感じた心配事だな。


 だがまぁ要点だけ見るとごく平和なのだ。

 それだけ日々、この港町を俺たちは楽しんでいた。

 それにソフィアの俺に対する接し方の問題は、俺が男らしいところを見せることで解決するだろうし。

 つまり、これからの旅で俺がかっこいいところを見せればOKというわけだ。

 

 

 さて。

 そんな俺たち三人は今日、冒険者ギルドの建物へと向かっていた。

 マルクさんとの約束通り馬と馬車を取りに行くのだ。

 しかし宿屋には馬車など置いておけないので、実質今日が出発日になるだろう。


 なお移動には1週間ほどかかる。

 そして王都には3月頃までに着けば良い。

 しかし今日はまだ2月初め。


 つまり時間には少し余裕があった。

 なので俺たちは、このアクスポートと王都までの整備された街道をゆっくり寄り道しながら進もうと決めていた。


「あ、クリス。あそこの建物?」


 歩いて目的地が見えてきた頃、シャルが冒険者ギルドの建物を指さして聞いてきた。


 そういえばシャルはここに来るのは初めてだったか。

 まぁ前回は俺が気絶させて宿屋においてきちゃったしな。

 といっても俺自身もここはまだ2回目なんだが。


「うん、そうだよ。あ、でも中には厳つい人たちが沢山いるから気をつけてね。」

「んー、まぁクリスがいるから大丈夫でしょ。」


 俺はシャルに一応注意を促した。

 しかしシャルは気にもとめてない様子だった。

 

 シャルよ。

 どれだけ俺のことを過大評価してるんだ・・。

 俺はまだまだ失敗ばかりしている人間だぞ。

 この前だって、まさにここで失敗したしな。

 そんなに過信していると、いつか痛い目に遭っちゃうよ。


 だがそう思っているとソフィアも俺と同じ感想を抱いたのか、シャルに注意をする。


「シャル、ダメですよ。クリスさんも一人の人間なんですから。いつも頼ることは良くないことです。」


 俺はソフィアのその言葉に何か感じるものがあった。


 しかし改めて思うが、本当にソフィアは物事の摂理を分かっている。

 この年齢でシャルも賢いと思っていたが、ソフィアはその上をいくだろう。

 

 これは俺の持論だが、人は自分の経験を基に思考を造り出す。

 だから経験が過酷であればあるほど本能的に生き延びようとして、仮に幼き日であろうとその考えは下手な大人より高度になっていると考えている。


 もしこの持論が的を得ているなら、ソフィアは一体どんな経験をしたのだろうか。

 

 俺はそれがずっと気になっていた。


 しゃべり方といい、考え方といい、どれも並の10歳の少女が得られるものではない。

 今の俺でさえこれまでの年齢、経験でやっとこれだ。

 しかし、ソフィアの思考は俺とほぼ同じぐらいまで発達していると思う。

 

 これこそが俺がソフィアの言葉に感じる何かの正体だろうか。

 

 しかしそう予想は立てつつも、俺は自分ではこの何かの正体が結局分からなかった。

 


 あと、ちなみにだが、ソフィアは未だその過去を詳しく俺やシャルに語ってくれていない。

 初めて会った日に打ち解け合うためにいろいろ話したが、ソフィアは過去を言うことを避けていたように思えた。

 そして俺もシャルもそれを聞くのはタブーだと感じて過去を問いたださなかったのだ。


 だから俺がソフィアについて知っていることは極めて少ない。

 知っていることと言えば、精々ソフィアが自分の顔をあまり好きとは思っていないことぐらいだろうか。

 可愛い顔なのに何故だろうと俺は思ったが、どうやら自分の赤目が嫌いらしい。

 なお髪で片目を軽く隠しているのもそのためだとか。


 ここから推測するには、おそらくイジメの予感がする。

 この世界の人はいろいろな色を髪や目に持つが、俺は赤目はソフィア以外見たことがないのだ。

 いつの時代でも少し異質であればイジメ、仲間はずれは生じる。

 特に赤目は見る人によっては怖いと感じることも少なくない。

 俺はそう感じないが、ソフィアは自分の目が相手を不快にさせるとでも思っているのだろうか。



 しかし所詮、推測はここまでなのだ。

 それ以上は何もわからない。

 しかもこの推測が事実なのか以前に、ソフィアの問題はイジメだけではない気が俺にはしていた。


 それだけのものを俺はソフィアからこの1週間で感じた。

 初めて見たときはおっとりした子だと思っていたが、過去は相当なものだったのだろうか。


 いつか彼女の口から直接聞けることを願うのみである。




 そう考えつつ、俺はシャルとソフィアと共に建物の中に入った。





---





 建物に入ると、その中は1週間前の情景と変わっていなかった。

 飲食スペースで昼前から酒を飲んでいる男が大勢いる。

 そして座席はほぼ埋まっていた。

 彼らにとっては報酬で得た金は酒に費やすのだろうか。


 あ、でも一週間前の情景と変わってないと言ったが、一つだけ違うところがあった。

 いや、できたと言うべきか。


 建物に入るまではとても騒がしい声が聞こえたというのに、今俺が入ってくると一気に静まったぞ。 

 

 そして酒を飲んでいた男達は一斉に俺の方を見て若干怯えた顔をしている。

 また、中には「ひぃぃ」と軽く呻き声を出すヤツもいた。

 そんなに前の《苦痛ノ体(ペイン)》を使った俺が怖かったのだろうか。

 

 まったく。

 仮にそうだとしても、こんな10歳の男の子を見てその反応はないだろうよ。

 自分で言うのもあれだが、俺はオリヴィアのおかげで結構可愛い顔をしていると思うぞ。

 そのせいで多少は苦労しているが、俺は自分の顔には満足している。

 性的な意味がなければもっと可愛がってもいいんだよ?


 しかし俺がそんなことを思ったところで男達の反応は変わらなかった。


 まぁたしかにさぁ。

 前に少し怖がられた方がいいとは思ったけど、それは畏敬の意味でだよ。

 だからこんなふうに純粋に怯えられると、俺も単純にショックだったりするぞ。


 といっても怖がるヤツらの中に混じって「あの子かわいいよぉ、はぁはぁ。」とか呟いている変態もいたけど。

 

「ん、今日はやけに静かですね。まぁ早く行きましょうクリスさん。」


 だが俺がそんな感想を抱いていると隣からソフィアの声がした。

 そしてソフィアはそのまま受付のお姉さんに話しかけた。

 

 おそらく、マルクさんに取り合ってもらうようにしているのだろう。

 やはりソフィアは行動が早い。

 そして相変わらずマイペースだ。


 この静まりきった状況の中、何か感じたりはしないのだろうか・・。

 いや、おそらく感じた上で無表情を貫いているのか。

 彼女のその点を俺は特に尊敬する。


 それに俺もそれを見習わなくてはいけない。

 どうやら俺はすぐ顔に出るらしいしな。

 そのことはシーモア自治地区を出るときに家族の視線で学んだのだ。

 まぁ中身は20代半ばのヤツが10歳の少女から学ぶというもの変な話だが・・。


 俺はそう思い、心の中で苦笑いをした。

 これぐらいは顔に出してもいいかもしれないが、早速ポーカーフェイスだよ。

 練習は肝心だしね。





 しばらくしてソフィアの受付のお姉さんとの話が終わった。

 どうやら確認がとれたらしい。

 俺たちはお姉さんに案内され、1週間前にマルクさんと話したあの部屋に向かう。


「ねぇクリス。ここっていつもこんなに静かだったの?なんか怖いんだけど・・。」


 しかし今度はシャルが俺の腕に抱きついてそう言う。

 

 その声は少し怯えていた。

 建物に入る前は俺がいるから大丈夫だと言っていたが、シャルもこんな静かだとは予想していなかったらしい。

 まぁ怖さの種類が違うというやつだ。

 もしこれを例えるとするなら、外人によくある『タバスコ等の辛いものをどれだけ食べても平気だがワサビは無理』パターンとかだろうか。

 いや、それともこれは『女子の別腹』パターンか?

 もしかすると、はたまた『幽霊と周りで見守ってくれているという亡くなったご先祖様の違い』パターンだったりするのか。



 ・・・。



 うん。

 大丈夫、言わなくてもいいよ。

 俺も薄々気付いてはいたんだ。

 だけどもういい加減、それを認めなければいけないようだ。

 どうやら俺には物事を言い換える才能はないらしい。

 

 これからは例えるのを止めよう。

 周りから変な目で見られそうだ。


 それに大体なんだろうね。

 よく考えると怖さと食べ物にどんな共通点があるというのだ。

 そして『幽霊と亡くなったご先祖様の違い』ってなんだよ。 

 どっちも死人っていう一つの括りでOKじゃねぇか。

 それ以上それ以下でもないぞ。


 

「シャル、大丈夫だよ。もし何かあっても俺が守るから。」

「・・・!」


 俺はそんな余計なこと思いつつも、怯えているシャルに爽やかに言った。

 シャルは俺の言葉を聞いて少し呆気にとられていたが、すぐに俺の腕をさらに力強く抱きしめる。

 そしてその顔は赤い。

 どうやら照れているようだ。


 ふっふっ。

 普段なら俺はこんな恥ずかしいことを言わない。

 だがこれは状況が状況なのだ。

 怯えているシャルを安心させると共にソフィアに俺の男らしいですよアピールが出来る。

 こんなチャンスはこれから積極的に狙っていかなければな。 


 さて、ソフィア。

 今の俺はどんなふうに見えるんだい。 

 少しは男っぽく見えるかい。


 そう思って俺は自信満々に隣を歩いているソフィアを見る。

 だがソフィアも無表情のまま俺の方を見つめていた。

 自然と目が合う。


 うん、なんだろうな。

 なんか心なしかソフィアの目が冷ややかだぞ。

 なお、その視線から『なにこいつ、なんでこんな痛いこと普通に言えるんだ』という思いが感じる。

 ぶっちゃけ呆れられているな。 


 そしてソフィアはしばらく俺と目を合わせた後、大きくため息をついた。

 いや、今思うと目を合わせるというか少し睨まれていた気がする。

 もっとも、ソフィアの眠そうな可愛い目は睨んでも可愛く見えるだけだからな。


「はあ。クリスさん。そんなこと言ってシャルをからかうのは止めてあげてください。見ててこっちまで恥ずかしくなるじゃないですか。」


 はい、ごめんなさい。


 でも俺だって普通はこんな恥ずかしいこと言わないんだよ・・。

 そこだけ勘違いして欲しくないな。

 まぁそれにからかう気持ちも多少はあるが、これは正直な気持ちがほとんどだよ?

 シャルを守るというのは本当だしな。

 

 しかし俺とソフィアがそう話していると、前を歩いて案内をしてくれているお姉さんが笑った。

 

「ふふっ。この前初めて青髪の君に会ったときはとても怖く思いましたけど、今こうして話を聞いていると全然普通の男の子ですね。なんか安心しました。」

「はは・・。そんなに怖かったですか?」

「そりゃあもうそうですよ。ランク4の冒険者を一撃で沈めちゃうんですもん。これは私たちの業界じゃとてもすごいことなんですよ?しかもそれを成し遂げた人が保護欲を誘うような可愛い君じゃあ余計にです。なんだか見た目と矛盾してて不気味に感じましたよ。」


 そうお姉さんは語ってくれた。

 

 ふむ。

 なるほどな。

 むしろこの可愛らしい見た目が余計に怖さを引き出していたのか。

 例えるなら、遠くから狼の狩りを見ていたが、近づいてみると実はチワワだった感じか。



 ・・あ、また例えてしまった。


 おい俺。学習しろよ。

 こんなんじゃいつまで経っても『合計年齢20代半ばだけど高校生気分』状態から抜け出せないぞ。

 半端野郎はいい加減卒業しないとな。

 どこかの馬面くんも半端野郎には怒ってたし。


 というか話を例に戻すが、まぁあれだな。

 相変わらず我ながらナッセンスな例えだ。

 狼がチワワに見えたらそいつは病院に行った方が良いよな。

 話の論点的には(まと)を得ているのかもしれないが、やはり例えには現実味があってこそだろうし。


「はい、着きましたよ。ここでギルド長が待ってるのでどうぞ入ってください。」 

 

 しかしそう考えていると、お姉さんはそう言って例の部屋の前に立ち止まった。

 いつの間にか着いたらしい。

 俺はお姉さんにお礼を言って部屋に入る。

 もちろんシャルとソフィアの二人もだ。



「やあ、よく来たね。まぁとりあえず座ってくれ。」


 部屋に入るとマルクさんがそう言って出迎えてくれた。

 俺たちはその言葉通りソファーに座る。

 するとマルクさんは早速その懐から1枚のカードを出した。


「さて、これがクリス君もギルドカードだ。受け取ってくれ。」


 そう言って、俺はマルクさんから銀色に光ったカードを渡された。   

 

 はて、なんで銀色なのだろうか。

 といってもまぁ、既に俺の中で大体こういうことだろうと予想をしている。

 そして、それがもし当たっているなら非常にめんどくさい。

 だからここは敢えて気付いていないフリだ。

 この世の中は思っていると案外その通りに起こりやすいしな。

 

 だがやはり俺のそんな健気な思い虚しく予想が的中する。


「あぁ、あとそのカードが銀色なのはランク4を示しているよ。ちなみにカードの色はランクが下から順にアルミ、鉄、銅、銀、金、となっているから。あと下三つは現物を使っているけど銀と金は重くなるからメッキにしているんだ。だから売ったりしても意味ないよ。」


 マルクさんはそう淡々と言った。

 何か問題でもあるかねといった表情だ。

 

 まったく。

 こういうことをするから大人はあまり好きではないのだ。

 まぁそれが仕事等で取引重心の社会人なら当たり前だとは分かっているけどさ。

 

 ちなみに何故俺がランク4を示されるのが嫌なのかというとだが、

 俺たちはこれから警備がしっかりしている王都に行く。

 そしてそこでは当然何をするにしてもとりあえず「身分を示してくれ」、こう言われるだろう。

 

 しかしそのときにだ。

 10歳の子供である俺が銀色のギルドカードを出すのだ。

 するとそれを見た相手はどう思うだろうか。

 間違いなく不自然に思うはずだ。

 そしてそれがいらぬ問題を起こす気がする。

 だから俺はランク4とかいう今の俺には不必要なステータスがただただ嫌でめんどくさいのだ。



「はぁ、マルクさん。一応聞いておきますがこれ、今からでもせめて銅まで落とせませんかね?」

「ん、クリス君。そこは君も分かっているはずだと思うが?」


 マルクさんは軽く笑って、そう圧力をかけてくる。


 ぐぬぬ。

 なんだよこのおっさん。

 なんでこんな笑い顔が怖いんだ。

 アーロンさんも強面で笑顔が怖かったが、それとは別のジャンルだ。

 そしてこの笑顔を見ていると非常にイライラする。

 なんか自分が操られているみたいだ。 


 しかし俺はその感情も顔に出ていたらしい。


「まぁクリス君、そんな恨めしそうな顔をしないでおくれ。言っておくがランク3と4の間には結構大きな間があるんだぞ。だからこれは誇ってもいいんだよ。もっとも4と5の間もそれ以上に大きいがね。」


 マルクさんはさらに笑いながらそう言う。 


 おい、余計ダメじゃねぇか。

 しかもこの人、絶対俺が心配していることを分かった上でこのことを言っているな。

 質が悪いぜ。

 どうやらマルクさんは初印象では分からなかったが、かなりの曲者だったようだ。

  

 だが、そうなるとこの人がもう少し若い頃はどうだったのだろうか。

 やっぱり今よりさらに曲者だったのかな。

 だとすると、シリルと会っていたと言っていたがシリルの反応が気になるぞ。

 その頃のシリルはめっちゃ尖ってたらしいし・・・。


 

 しかしそんなやり取りをしていると、シャルが我慢できなくなってマルクさんに聞いた。


「ねぇねぇ。カードよりお馬さんは?馬車は?」

「ああ、そのことは心配しなくてもいいよ。この建物の馬小屋にちゃんと準備してあるからね。後で取りに行くといい。」

「はーい。」

 

 そしてシャルはそれだけ聞くと満足したようだ。 

 非常に単純な子だ。

 まぁそこが可愛いのだが。

 しかしそのやりとりも終わると今度はソフィアも口を開いた。


「あ、私からも一ついいですか。」

「もちろんだ。してなにかな。」

「馬と馬車の借りる期間、もうすこし伸ばせますかね?」

「・・・ふむ、そうだな。ちなみに何をするつもりなのかな?」

「いえ、単純に少し寄り道していこうかと。3月までまだ時間はありますし。」

「そうか。まぁ実を言うと3月までに王都に返却してもらえれば問題ないんだ。自由にするといいさ。」

「はい、ありがとうございます。」


 ソフィアは俺の言おうとしてくれたことを言ってくれた。

 気が利くよ。


「さて、他になにか気になることはあるかな?」


 マルクさんはソフィアの受け答えを終えた後、そう言う。

 しかし俺たちは何もなかった。

 そしてそれを察したマルクさんは続けて口を開く。


「ではこのへんでお開きとしようか。クリス君達もこんな老人と長々と話していてもつまらないだろうしね。時間は有限なのだ。」


 マルクさんは自虐にも思える苦笑をした。

 

 なんかマルクさんが『時間は有限だ』というと妙に説得力が感じられるな。

 この人も仕事が大変なのだろう。 

 まぁギルド長といえば書類の山に追われるイメージが強いからなぁ。

 しかしそう思うと、先ほどの曲者っぷりもそんな仕事の息抜きからなのだろうか。

 ・・・なんか少し可愛そうに思えてきたぞ。

 だが俺としては頑張ってくださいとしか言い様がない。



 俺は普通の人生を送りたいが、なるべく書類とは無縁の仕事がいいかな・・。

 マルクさんを見ているとそう思う。

 

 でもこういうことを考えていると、これが波瀾万丈の人生になりそうなフラグに思えてくるよ・・・。

 


 俺はそうならないことを願いつつ、シャルとソフィアと共に馬と馬車を引き連れアクスポートを後にした。







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