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第22話「旅立ち」

これで第一章は終わりです。


 シルヴィアが生まれ、俺が火竜を倒してからさらに数年が経った。

 今日は311年、日付は1月21日。

 そう、シャルの誕生日の翌日だ。

 昨日をもってシャルも10歳を迎えることができていたのだ。



 その日の昼過ぎ。

 俺はいつも魔法の鍛練をしていた広場にいる。

 いや、ただいるのではない。

 俺は家族であるオリヴィア、シャル、シルヴィアが見守る中一人そこに立っていた。


 いや、俺は立っているとはいえども、実はもう倒れそうなのだ。

 それだけ俺はフラフラだった。

 そして俺の体の所々には切り傷がある。

 またその一方で俺の目の前には仰向けに倒れ込んでいるシリルの姿もある。

 なおシリルの体にも俺の魔法による傷があった。


 そう。俺とシリルは5年前の約束通り、本気で戦ったのだ。

 そしてその戦闘は激しいものだった。


「そこまで!もう終わりよ!!」


 オリヴィアの声が辺りに響き渡る。

 そしてすぐにオリヴィアとシャルはそれぞれ俺とシリルの元に駆け寄った。

 二人は《回復魔法(ヒール)》を使って俺たちの傷を治してくれている。

 


 俺はそれを見て傷の治療が終わるまでしばらく思考を整理することにした。

 


---



 この勝負、結果だけ見ると俺はシリルに勝った。

 かなりギリギリだったが確かに俺は勝ったのだ。


 だが俺にとってもシリルにとっても結果は重要ではなかった。

 確かにこの戦いが行われる理由は、シリルが俺とシャルの旅立ちを認めるためだった。

 しかしこの数年間でシリルはハッキリとは言わなかったが、そのことを容認する言動をしてくれていたのだ。

 つまりこの戦いは勝敗がどうであれシリルは俺の我がままを許すつもりでいてくれた。

 にもかかわらずこの戦いは約束通り行われた。

 


 それには二つの理由がある。

 といっても俺が勝手に思っているだけだから絶対そうだとはいえないけどね。

 

 まぁまず一つ目だ。

 それはシリルの父親としてのけじめだった。

 父として二言目はない。

 シリルはそれを俺に行動で示すために戦ってくれたのだ。

 前にも思ったが俺はそのことがかっこいいと思う。

 

 だけどな。

 シリルにとっては一つ目はあまり重要ではなかった。

 もちろん俺に行動を見せるという意味では大切だろう。

 だがそれを考慮してもこの二つ目の方が、

 この戦いにおいてはシリルに。俺に必要だったのだ。


 まぁ今では恥ずかしい限りだから言いたくないんだが、俺はこの数年間で慢心していたのだ。 

 それをシリルは察してくれていた。

 そしてこの戦いを決行することで俺の慢心を解いてくれたのだ。


 俺も戦い初めて最初のときは、この戦闘に意味はあるのかと思っていた。

 だが戦いの中で悟ったんだ。

 シリルの目的は端から勝つことではなく、俺の慢心を解くことだ、と。

 俺はそれをすごく感謝している。

 そしてこれこそがこの戦いが行われた本当の理由だと俺は思っているよ。




 ちなみに言い訳苦しいが、一応俺が慢心した理由を言っておく。

 これは必要なことだろう。

 

 アーロンさんは昔、俺に「坊主は強い」と言ってくれた。

 その言葉は『俺が使える魔法の凄さ』を意味していた。

 アーロンさんはそういうことを言っていた。

 しかし当時の俺は、その言葉が俺自身が強いと勘違いしていたんだ。

 

 そしてアーロンさんもそのことを使ってシリルを煽っていた。

 まぁ普通に考えればアーロンさんはただシリルを煽っていただけ。

 だがあの人は見た目は脳筋だがとても頭が良く回る。

 まぁじゃないと自衛団の前線における隊長なんて務まらないしな。


 だからここからは俺の想像だ。

 しかし俺はあの言葉の意味はこうも考えられる、と思う。

 アーロンさんはシリルを煽ると同時に俺に対して『純粋な戦闘ではわかんないぞ』

 と暗示してくれたのだろう。



 たしかに純粋に考えると、シリルの剣術と俺の魔法における勝負で力では俺の魔法の方が上なのだ。

 だから俺は自分が強いと思ってしまったのだ。

 しかしシリルにあって俺にないもの。

 つまり経験の差がある。

 俺も言われたときは深く考えなかったが、アーロンさんはそれを伝えたかったのかな・・・。と

 今では俺はそう思っている。

 

 まぁだからアーロンさんの言葉は当時の俺の中で解釈を変えていたんだ。

 決して口や行動に出さなかったが俺は心の中で自分は強いと自惚(うぬぼ)れるようになったのだ。

 前世の経験で戒めがあったはずなのに情けない限りだよ。

 


 

 あとはそうだな。

 肝心の勝負の内容を整理するか。

 

 シリルは強かったよ。

 アーロンさんの予想通りかはわかんないけど、俺が本気を出してもギリギリ勝てるものだった。

 

 ちなみにシリルはもう20代の終わりだ。

 そのため全盛期よりかは力が劣っているにも関わらず、この結果なのだ。

 一体全盛期はどれくらいの力だったのかね・・・。

 イケメンだし、オリヴィアが惚れたのも分かる気がしたよ。


 

 あとよく考えると俺は戦闘態勢になったシリルを今回で初めて見たんだ。

 いつもは優男の雰囲気を出しているが、戦闘態勢になった雰囲気はすごかった。

 もう対峙している俺の緊張がすごいのなんの。

 それに朝に素振り等をしているとはいえ、シリルの仕事はデスクワークだ。

 仕事がそれなのによくそんなに力を維持できているものだとつくづく思った一日だったな・・・。


 まぁそれでもね。

 最終的には俺の魔法の力がシリルの剣術を上回っていた。

 シリルが疲れてきたのもあるが、俺は魔法でゴリ押しができて勝てた。

 しかしこれから先は外の世界に出たときにそれが通用しないこともある。

 やはり経験を積むことが大事なのだ。

 シリルはそう教えてくれたのだ。





 はは・・。

 にしてもよく考えると、まるで前世の父さんみたいだな。

 伝え方は違うけど内容は同じだし。

(人と関わって)経験をしろ。

 つまりはそういうことなのだ。

 前世の俺のままならばこのことは伝わらなかっただろう。

 しかし俺はもうその過ちを後悔して成長したのだ。

 だから今世では絶対にそんなことはしないと決めた。

 そのおかげだろうか。

 やっと今、俺にも分かったよ。

 

 シリル。

 いや、父さんたち。

 ありがとう、ちゃんと想いは伝わったよ。




---




 俺がそう考えている間にシャルは俺の手当を終えてくれた。

 向こうでもオリヴィアがシリルの手当てを終えたようだ。

 それを見て俺たちは家に戻ることにした。




 家に帰ると俺はオリヴィアの夕食の手伝いをした。

 おそらくこれが最後のオリヴィアとの共同作業だろう。

 そう思って俺はオリヴィアに今までの感謝の念を伝えた。


 オリヴィアはこちらこそありがとう。と笑っていた。

 だけどきっと本心はどうなんだろうか。

 オリヴィアはずっと無理をしている気がする。

 俺はそれが気になって仕方なかった。



 ちなみにシリルは家に着くとそのままどこかに行ってしまった。

 やはり俺との勝負で思うことがあるのだろか。

 戦うという条件はシリルから出してきたが、そもそも俺が我がままを言い出さなければ戦うということはなかった。

 彼にも多大な迷惑を掛けてしまったのだ。

 しかしシリルにも父親という立場があったし、嫌な役をさせてしまった。

 俺はそのことを謝りたかった。


 

 やがてシリルは夕食が完成する頃に帰ってきた。

 だがその表情はあまり良くはなかった。

 戦いが終わったというのにいつもの優男の雰囲気に戻ってはいなかったのだ。

 それを見た俺は、心の中で自分でもよく分からない葛藤が起きた。

 そしてとうとう謝りを言い出せなかった。

 俺は自分が情けなかった。



---



 それから俺たちは夕食を食べながらこの数年間に感じたことを互い互いに話し合った。

 楽しかった思い出。大変だった思い出。家族の良いことを実感した思い出。

 なるべくこの別れを重いものにしないように。

 だれもが暗黙の了解でそう考えていた。


 しかしその最中、オリヴィアはふいに泣いてしまった。

 ずっと気を強く保って無理をしてきたが、とうとうその限界が来たのだろう。

 そのことは俺にも分かった。

 

 オリヴィアは泣きながら本心を語ってくれた。

 本当は俺たちを手放したくない、やっぱり成人まで待ってはくれないのか。と。

 

 やはり夕食の手伝いの時、オリヴィアに感謝を伝えて返ってきた答えは本心ではなかったのだ。


 俺はそれを聞いて胸が痛くなった。

 悲しくもなった。

 それは隣にいたシャルも同様の表情をしていた。

 しかし申し訳ないが、それこそもう俺も限界だったのだ。

 これ以上この幸せを感じてしまったら俺がこの生活に依存してしまう。

 それがただただとても怖かった。

 


 俺はせめてもの償いとして、かつて海辺でシャルに見せたように己の弱さを全部打ち明けた。

 今更になるのだが、俺がまだ5歳の時に言ったのは意志は表面上だったのだ。

 二人にはまだ俺の弱さを含めた思いを言っていなかった。

 

 俺がみんなに打ち明けている間、俺はいつの間にか泣いてしまっていた。

 だがみんなはそのことにふれず、俺の話を黙って聞いてくれた。


 やがて話が終わるとオリヴィアは「そうだったのね・・。辛かったでしょ、大変だったでしょ。」と言って俺に寄り添ってくれた。

『オリヴィア自身内心は相当辛かったはずなのに。この人は本当に強いな・・・。』

 俺は彼女にそう思わずにいられなかった。



 また、シリルも俺の我がままの裏の理由を知ってどこか納得している様子だった。

 そして帰ってきてからずっと良くなかった表情が初めて緩んだ。

 雰囲気がいつもに戻ったのだ。

 俺はそこでやっとシリルに我がままを言ってごめんなさい。と謝れた。

 シリルはそれを受けて、「そんなことはない。お前も辛かっただろう」と言ってくれた。

 

 俺は『これで二人に本当の意味で分かってもらえた。もう二人の前で無理をしなくて良いんだ。』

 そう感じた。

 意識的に無理をしていたわけではないが、そう不思議と心の奥底から安堵できた気がしたのだ。



 ちなみにこの様子を我が家で最年少のシルヴィアは大人しく聞いていた。

 まだ詳しく分かっていないようだったが何かがいつもと違うのを察していたのだ。

 実に賢い子である。

 是非将来はシャルのような良い子になってほしいものだ。


 なおシルヴィアはもう4歳になった。

 容姿は生まれた時と変わらず、金髪でエメラルドグリーンの眼をしている。

 身長は以前の俺やシャルのようで100cmほどかな。

 まぁそんな体の成長も喜ばしいが、なによりこの数年間でシルヴィアは元気で活発な子に育ってくれた。

 俺はそれだけで十分だった。

 やっぱり元気が一番だしね。



 しかしシルヴィアには気になったこともあった。

 それは何かというと、シルヴィアは昔の俺と同じでこの歳にして知識欲が強かったのだ。

 そのため「お兄ちゃん!あれはなに?これはどんなものなの?」とよく聞いてきた。


 前世で一人っ子だった俺は『お兄ちゃん』と呼ばれてかなり嬉しかったよ。

 だけど俺はシルヴィアのその言葉を嬉しく思いながらも、最初の頃は知識欲が強いことに疑問だった。

 転生したばかりの俺の行動と同じだったしな。

 だから『俺と同じ転生者か!?』と思って一度だけ日本語や英語で話しかけたこともあった。


 しかしシルヴィアは俺が何を言っているのか分からない顔をしていた。

 まぁそもそも知識欲があるとはいえシルヴィアは歳相当に無邪気なのだ。

 それに後々知ったが、賢い子はあの年齢の頃、なんでも知ろうとするらしい。

 

 つまりシルヴィアの行動はごく普通のことだったのだ。

 俺はそれを聞いて安心していた。



 そして何より今の俺はシルヴィアが転生者ではないと言い切れる。


 それは何故かと思うだろう。

 だが理由は至極簡単。


 それはもしシルヴィアが転生者ならあんな可愛い仕草はできないはずだからだ!

 シルヴィアはもし前世の記憶があるなら普通できない赤面するような行為を平然とするんだ。

 別に憧れはしないが『そこにしびれる憧れるぅ』というわけですよ。

 

 というかマジであの子は天使なんだよ。

 なんでもかんでも『おにーちゃん』って言ってくれるんだぜ。

 シスコンじゃないけどあれは反則よ・・・。


 そしてシルヴィアは今まさに行われているこの家族お別れ会の最中でも、俺がシルヴィアのことを考えるだけで俺を幸せな気持ちにしてくれる。

 それはつまりシルヴィアの功績なのだ。

 だからそれだけでシルヴィアは十分天使だと思うんです。

 

 


 あ、やばい。

 こんなことを思っていたら顔に出ていたようだ。

 家族の視線が怖いよ・・・。

『さっきまで泣いていてその後オリヴィアに慰められて安心したような顔になったと思ったら、コイツ今度はにやけ出したぞ』ということが視線で感じられるぞ。

 しかもハッキリとだ。

 正直めっちゃ気まずい。

 

 どうしよう・・・。

 そうだ。ここは天使さんに助けてもらおう。

 

 助けて天使のシルヴィアたん!


 そう思ってシルヴィアを見たが、彼女は俺に見られて首をかしげていた。

 どうやらまだ完全な天使になりきるまでに時間が掛かるらしい。

 

 俺は結局そのまま家族の視線を感じながらもその夕食時間を過ごした。

 しかし俺のそういう出来事があったからか、不思議と俺たち家族の最後の晩餐はしんみりとした重いものではなくなっていた。 


 結果オーライ。シルヴィアマジ天使である。 





---





 翌日。

 俺とシャルはシリルとオリヴィアとシルヴィアに簡単な挨拶を済ませて家を出た。

 もうこれ以上長く話して別れを惜しんでも仕方がないのだ。

 いつかはスッパリと未練を断ち切らねばいけない。

 

 そして俺たちは海まで行き貿易船に乗り込んだ。

(もちろん乗船料は払ったよ。)

 ちなみにこの船の行き先はヴァルカン王国の港口であるアクスポートだ。


 俺たちの最終目的地はヴァルカン王国の王都にある魔法学校、いや正確には国立の大学機関というべきか。

 その大学機関の中には魔法が学べる学部があるのだ。

 俺とシリルとシャルはそこを目的地として決めていた。



 なお幸い資金に関しては心配しなくても良い。

 陸路で王都まで進む分や帰りの旅費の資金、そして5年分の学費は膨大だったがそのへんは大丈夫だ。

 俺たちが持っているこの資金は例の火竜(レッドドラゴン)の魔核の売却額だから俺が稼いだ金でもあるし、これから5年掛かる資金を差し引いても十分おつりが来る量のだ。

 それにシリルはそのおつりの分も含めて全額おれに持たせてくれたしな。

 目的地について豪遊するつもりもないし、普通に暮らしていて貧困とは無縁だろう。

 

 まぁそのため本来ならば資金や手荷物が持ちきれないほどになってしまうのだが、俺とシャルは今手ぶらであった。

 その理由は、俺が成長して誕生日にシリルからもらった指輪を填めるようになったからだ。

 まだ昔にオリヴィアに買ってもらった黒い外套は着れないが、この指輪はなんとか俺の指に合うようになったのだ。

 なのでその中に今回の旅で必要な物は全て入れてある。

 これで奪われる心配もないだろう。


 まぁ逆に指輪をなくしたら一巻の終わりに思えるかもしれない。

 だが普通に現実で荷物を持つとしたら俺たち二人じゃ運びきれないのも事実だしな。

 どちらかを選ばなければいけないのだ。

 

 それに俺はそんなミスを絶対にしないよ。

 この指輪は俺たちの生活が掛かっているという理由のほかにも大切なシリルのプレゼントなのだ。

 無くさないように日々注意しているし、俺の指から一度も外さなければ問題ないだろう。

 


 べ、べつにこれはフラグじゃないんだからね!?

 俺はちゃんと注意してるんだから!!!



 そう船の甲板にて俺が内心ツンデレ少女の真似をしていると本来いないはずのシルヴィアの声がした。

 

「おにーちゃん-!おねーちゃんー!絶対また帰ってきてね!!私、待ってるから!」


 港を見ると、家で別れたはずのシリルとオリヴィア、そしてシルヴィアがいた。

 はは。なんだかんだ言いながらやっぱり港まで見送りに来てくれたのか。

 でもその気持ちはありがたいよ。

 家で既に見送ってもらったとはいえ、旅立ちは直前まで寂しいものだ。


 それに俺からしても可愛い妹からそんなことを言ってもらえると嬉しい限りだ。

 5年後には絶対帰ってくるから待っててくれよ、シルヴィア。


 あと余計なお世話かもしれないが、俺がいない間に変な人について行っちゃダメだぞ。

 シルヴィアは可愛いし天使だからさ。

 お兄ちゃんは何気にそれが一番心配だったりするんだよ。



「うん!!わかってるよ~!私もクリスも絶対帰ってくるからね!!」


 シャルが隣で叫び返している。

 シルヴィアはそれを聞いて安心したのか笑顔だった。

 仲睦まじい限りで良いことだ。


 だけどそろそろ叫んでも聞こえない距離になってきたな。

 俺も叫べば良かったがもう遅い。

 しかし気持ちはシャルと同じだ。


 俺は叫ぶ代わりに手を大きく振って別れの意を表した。

 オリヴィアとシリルもそれに気が付いて手を振り返してくれた。

 二人には本当に感謝だ。

 帰ってきたら絶対親孝行しよう。

 俺はそう何度目になるか分からないが決意を固めた。



 だがそのころにはもう見えなくなってしまう距離になった。

 

 故郷とはこれでしばらくお別れだ。

 俺はそのことを改めて実感した。


 だが俺とシャルはこの故郷を離れて新しい生活を経験する。

 そして大人の階段を登る。

 それこそが本来の目的だ。

 

 別れは確かに悲しいが、それ以上のものを俺たちは経験して戻ってくる。

 そうだろ、シリル。

 

「クリス、いよいよだね。」


「あぁ、もう後戻りはできない。本当に良いんだねシャル。」

 

「ふっふっふっ!そんなことは思ってませんー!私はもうクリスとずっと一緒だからね!」


 俺はそれを聞いてシャルの頭を撫でた。

 もう頭を撫でたり撫でられたりする歳ではないのだが昔の癖でまだやってしまうのだ。

 シャルはそのこともあり恥ずかしくしていた。

 だけど俺もシャルも笑っていた。


 俺たちはこの先の生活に期待と不安を覚えている。

 だけど不安を表に出してもしょうがないことは分かっていた。

 だからこうしてふざけあって、旅を楽しんでいるのだ。



 俺たちはそんな健気な行動をして周りの人から温かい眼で見られていた。

 だがそんなことは気にしない。

 俺たちは俺たちなのだから。



 そして俺とシャルはこの日、初めてシーモア自治地区から出た。


 

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