5-47. 物語の終わりはバッドエンドよりハッピーエンドで(2/5)
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楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキは考える。どの女の子から説得したら上手くいくかを必死に考えていた。もちろん、彼にはある女の子の顔が浮かび上がっている。
その女の子の名前はナジュミネ。
彼女は、魔人族の中でも鬼族に類する角がない鬼であり、元・炎の魔王でもあり、現在ムツキの第二夫人として過ごしている。彼女はきめ細やかな白い肌をしていて、まるで陶器の人形が動き出したかのような華麗な姿と顔立ちをしつつ、ウェーブの掛かっている真紅の長い髪に真紅の瞳と釣り目がちな目を持ち、紅と白のコントラストがとても美しい美女だ。
「やはり、狙うは本丸か……?」
ナジュミネはムツキのハーレムの中で第二夫人でありながら、魔王だったこともあってか、女の子たちの中でも仕切り役やリーダー役を担っていることが多かった。その彼女が味方になれば、全員の意見をひっくり返すことも容易にできる、まさに四隅に置かれたリバーシのコマのような最強の存在なのである。
しかし、今回は難しい。何故なら、この状況を提案している女の子はほかでもない彼女だからだ。
「……いや、本丸は最後にしておこう。最近、それで失敗しているからな。今回はあえて、外堀から攻めてみよう」
ムツキはそう呟くとナジュミネの部屋をそのまま素通りして、別の部屋へと歩いていきドアをコンコンとノックする。
「はーい?」
「ムツキだけど、ちょっといいかな?」
「ダーリン? どうぞー」
ムツキが向かった部屋はコイハとメイリの部屋だった。彼の中で、頭の回転が速いという意味でナジュミネとメイリは良い勝負をする、という認識から何か妙案を一緒に考えられないかと足を運んだ。
彼はメイリからの許可をもらい、扉を開けて中へと入る。
「なあ、メイ……えっと、着替えているなら着替えていると言ってくれればいいのに……コイハも止めてくれよ……」
そこにいたのは、半獣人族で黒狸族のメイリと白狐の獣人族のコイハだ。
メイリは、肌の色や髪の色が黒く、少年のようなショートヘアに真ん丸な顔、真ん丸な目、真ん丸な茶色の瞳は小動物的な可愛さを引き立てる。しかし、その幼い顔立ちと低身長には似合わない大きな胸が肌着のシャツ越しでも存在を主張していた。
彼女は半袖シャツを途中まで着ているところで手を止めていて、その大きなものを見せつけるかのように立っている。
「俺は止めようと思ったんだけど、メイリが止めるなって合図をしてくるからさ」
コイハはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて、ムツキにそう答える。
彼女は白銀の毛並みが美しく、すっと伸びたマズルや尖った耳、ムツキ同様の切れ長の目の中に茶色の瞳、ふさふさの尻尾と高い身長が特徴的な美しい白狐である。
「えへへ、ドキドキしたでしょ? ダーリン、最近、退屈そうだから、ドキドキがあったらいいかなって」
「ありがとう。実はな、その退屈ってことで、相談に来たんだ」
「ほうほう。話を聞こうじゃないか」
「その前に着替え終わってくれないか?」
ムツキがポリポリと頬を掻いてメイリにお願いをすると、彼女は少し寂しそうな表情をして瞳を潤ませる。
「えー、もうドキドキしなくなっちゃった?」
「ドキドキしっ放しだから、落ち着かせてほしいんだ」
「ん-、んふふ……仕方ないなあ」
ムツキとメイリのやり取りが続いた後、ニヤニヤしながら彼女はシャツをきちんと着た。その後、彼は現状をどうにか打破したいという話で、紅葉ピクニック計画を伝えてみる。
「ふむふむ。なるほどね。たしかに、もうしばらくちゃんとしたお出かけとかしてないもんね。モフモフがあれば家にずっと居たい、なんて言っていた出不精のダーリンが自分から遊びで遠出したいなんて……よほどだね」
「やっぱ、季節を感じることをみんなで楽しみたいんだよな。暑い時季の海は逃しちゃったしな……」
「それは分かる!」
メイリは話をうんうんと肯き、聞き終えるとムツキに同意する素振りを見せる。一方のコイハは頷きつつも表情は固く難しいといった様子で座っている。
「まあ、姐御がハビーを極力家に留めておきたい気持ちも分かるけどな。一度、大切なものを失いかけたら、な」
「もう、絶対に、命を危険に晒すような真似はしないから!」
ムツキが味方になってくれという気持ちも込めて、コイハにそう説得の言葉を出した途端、彼女の顔が先ほどよりも険しくなった。
「絶対? 俺たちの誰か、女の子が危険な目に遭っても?」
「え? あ……いや……」
ムツキはコイハにそう問われて、思わず先ほどの自分の強い言葉をひっくり返さざるを得なくなってしまった。彼に誰かを見殺しにすることなど到底できるわけもなかった。
それは女の子たちの誰もが分かっている。
「……すまない。さすがに言い方がきつかったな。ハビーは、姐御が俺たちにまで家で極力待機するように言っているのは知っているか?」
申し訳なさそうに自分の頭を掻いているコイハの更なる問いに、ムツキは首を振ることなく、口が小さく開くだけだった。
「知っていたわけじゃないが、そうじゃないかとは思っていた」
「それもハビーが誰かのために、とならないようにだ。姐御にそう言われたら、誰も反論できなくなったんだ」
「でも、それじゃ」
コイハはいろいろな言葉を出そうとするムツキを制止した。
「それ以上は言わないでくれ。おそらく、ハビーが今思ったことは正しい。何の解決にもなっていない。外で事件が起きたら、今やっていることなんて、大した意味も持たない。姐御もそれは分かっているはずなんだ。だけど、気持ちの上では……」
コイハの言葉がその先を言いたくないかのように途切れる。言葉の途切れた拍子に、メイリが両手を合わせてポンという音を立てる。
「まあまあ、コイハ、僕はダーリンに賛成かな。そろそろ、思いきり遊びたいしね」
「いや、まあ、俺だって、ハビーに賛成だけどな」
「……サラフェやキルバギリーにも聞いてみよう。他の意見も聞きたい」
ムツキの言葉に、メイリもコイハも頷く。
「そうだね。でも、ダーリン、1つだけ約束して。姐さんを無理に説得しようとしないでね。姐さんの気持ちにきちんと寄り添った上で解決してほしい。そのためなら協力するから」
「あぁ。難しそうだけど、がんばるよ」
メイリの言葉にムツキは力強く肯いた。
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