5-Ex9. 新しい世界は苦しい今より永遠を思うことで
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楽しんでもらえますと幸いです。
何もない空間、もしくは、空間という枠や言葉さえも意味を持たず、点なのか、線なのか、面なのか、立体なのか、それさえも分からない何か。
光があれば闇がある。しかし、光さえもないこの何かでは、闇さえもない。
その何かに存在するものが魔力とニドである。かつて毒蛇の王と呼ばれていたニドは今、この何かで創世神となるために様々なことを繰り返し行っていた。
「くっ……思いのほか厄介ではないか」
ニドは何度も失敗した。
大地を創ろうとして失敗した。草を創ろうとして失敗した。太陽を創ろうとして失敗した。木を創ろうとして失敗した。月を創ろうとして失敗した。動物を創ろうとして失敗した。風を創ろうとして失敗した。石を創ろうとして失敗した。空気を創ろうとして失敗した。水を創ろうとして失敗した。岩を創ろうとして失敗した。火を創ろうとして失敗した。光を創ろうとして失敗した。砂を創ろうとして失敗した。虫を創ろうとして失敗した。鉱石を創ろうとして失敗した。生命を創ろうとして失敗した。目に見えるものを創ろうとして失敗した。目に見えないものを創ろうとして失敗した。
これを創ろうとして失敗した。
それを創ろうとして失敗した。
あれを創ろうとして失敗した。
どれを創ろうとして失敗した?
「だが、問題などない。まだ試していないものはたくさんある」
ニドは数々の失敗を経ていた。しかし、未だに新しい世界の兆しは訪れず、しかし、決して諦めることもせず、しかし、糸口は見えず、しかし、試していないものも多い。
ニドは神の住まう空間に毒蛇たちを住まわせたまま、新しい世界の創造に腐心していた。神に住まう空間は必要最低限のものしかない。生きられるが生き続けることしかできない。ニドはそのような空間で仲間たちとともに住むことを良しとしなかった。
仲間と永遠に安寧秩序の中で住める世界。
楽園と呼べる世界。
ニドの想いは強く、一方で溢れるばかりの想いによって、焦ることもあった。
「何か……そう、根本的な何かを私は忘れているようだ」
何十回、何百回、何千回、何万回、何億回、何兆回。
大地や生命などの単体だけでなく、それらを複数同時に創造することもしながら、幾度にも重ねた試行結果は徐々にニドを答えへと近付けていく。
時折、神の住まう空間に戻っては毒蛇たちの変化を見て、時には仲間の最期を看取ることもあった。
「最初に伴に渡ってきてくれた毒蛇たちはとうの昔にいなくなってしまった。彼らが亡くなる前に永遠の世界を創れなかったことが痛ましく思う……」
ニドは創世神になったことで死という概念が消え去ってしまったことに気付いた。ニドの仲間たちは子孫を増やしては亡くなり、子孫を増やしては亡くなり、を繰り返し、幾巡もしている。
かつて、ニドを王と慕っていた毒蛇たちがすべて亡くなってしまった結果、今の毒蛇たちはニドを身近な王ではなく、敬い慕うべき格上の神として崇め奉っていた。
ニドは悲しんだ。
「私は……同胞たちと同じでありたかった……同じ位置で笑い合いたかった。王とは組織で統率を取る上での役割でしかなく、組織から脱すればその位置に意味などない。意味など見出さなくてもよいのだ。だが……神では……いや、これは私が望んだことの弊害か……」
たまにそう呟くニドの言葉は本心だった。
「この悲しみはいずれ時間が解決してくれるだろうか……」
ニドはそこでふと気付く。
「……時間」
ニドは試していなかった。
ニドの創ろうとしていた世界は永遠を軸にしていた。
だからこそ、ニドは永遠と相反する時間という概念を無意識に外していたのだ。
「時間があるからこそ、誕生も成長もあるのか。そして、終わりも……必ず……」
ニドは長考した。
それが時間にしてどれくらいか、ニドも毒蛇たちも測っていなかった。
だが、ニドの長考も永遠ではない。
「何度も生まれ変わるように、幾度も巡りに巡る世界を創ろう。私たちの得意とする脱皮が生まれ変わりになるように、時間という概念に沿いつつも反するようにすればいい」
ニドの世界創造はやがて時間の概念を持って苦しみながらも動き出した。
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