5-44. 生き方は諦めるよりしがみつくで(2/3)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ユグがムツキにしっかりとしがみつき、ムツキはユグの新緑色の髪を優しく撫でる。
「オレ、小さくなるのか!? 小さくなっちゃうのか!?」
「大丈夫だよ、ユウができるって言うなら問題ないさ」
「大丈夫なのかな……オレ、自分が自分じゃなくなるんじゃないかって……怖いんだ……」
その様子を見て、リゥパがユグに近付いて、そっとユグとムツキに聞こえる程度の声の大きさで耳打ちする。
「ねえ、ユグ、知っているかしら? ムッちゃんはね、スレンダーな女性の方が好きなのよ?」
「え、そうなのか? スレンダーって細身ってことだよな?」
「そう、私みたいなスレンダーなタイプがムッちゃんの好みなのよ?」
「え、いや、俺は、ぐふっ!」
どんな見た目の女性でも好きだ、と言いかけたムツキに、リゥパの肘鉄がクリーンヒットし、彼は言葉が続かなくなった。
リゥパは察せと言わんばかりに、キッとムツキを睨みつける。
「ぐふ? ぐふって何だ? ぐふが好きなのか? でも、ぐふって何だ? スレンダーと違うのか?」
「いや、どちらかと言うと……ガ」
「が?」
「……じゃなくて、そうだな、俺はスレンダーなユグも素敵だと思うな。見てみたいよ」
ムツキは何かを言いかけてからやめて、改めて、ユグに向かってそう優しく呟いた。
「……分かった……じゃあ、する」
ユグの了承が得られた。
ここからはユウが主導で事が運ぶ。
「それじゃあ、世界樹の大、大、大剪定をするよ! あ、もう、魔法が使えるかな? 【エリア】【コール】! 使えた! 妖精族のみんな! 力を貸して! 魔力が少なくなったから世界樹を小さくしたいの!」
ユウが試しに【コール】を樹海全体に発信してみると、空気中に魔力が少し戻ってきていた樹海にいる妖精族全員の頭の中に彼女の声が響き渡る。
彼女の頭の中では、世界樹を小さくすることに不安を感じる妖精族たちの声も聞こえてきたが、後からケットやクーが説得してくれたことで多くの妖精族がこれを了承するに至った。
しばらくすると、ユウが満面の笑みを表しながら両手で大きな円を作る。まだ終わったわけではないが、最悪を回避することが始まったために、みんなの顔が和らぐ。
「さて、大仕事が始まる前に、おかえり、旦那様」
ナジュミネはムツキに近付いて、ユグを抱き締めて少しだけ丸くなっている彼の背中にふわっと、そして、ぴたっとくっつく。
「ああ、ただいま、ナジュ、みんな」
「え、姐さん、抜け駆けじゃない?」
「ナジュミネもやるようになったわね。じゃあ、私はこうよ」
ナジュミネがいつも出遅れる方だったため、メイリは彼女のあまりにも自然な流れに驚いた。
その流れに合わせて、いつも先行する側のリゥパも続いた。彼女はムツキの左肩にそっと寄って、自分の頭を彼の身体に預ける。
ナジュミネもリゥパもムツキが樹液でどろどろになっていることなどお構いなしで、ひたすら彼の温もりを求めていた。
「なっ。リゥパまで! 僕もだ!」
メイリも負けじとムツキの右肩側に寄って、ぎゅっと彼の腕を掴む。何がとは言わないが、それが彼の腕に思いきり押し付けられる。
「待て待て、まだ終わっとらんのじゃ……まったく困った者たちじゃ」
「尻尾がバサバサとしていますよ?」
「それを言うたら、コイハの方がきっとすごいのじゃ。今は狐火で声しか出てないがな」
「俺を引き合いに出さないでくれ……」
やれやれと言った雰囲気を出すミクズの9つもある尻尾はそれぞれがぶんぶんと勢いよく振られており、その様子だけを見れば、彼女もまた今にもムツキに飛びかからんばかりの勢いである。
サラフェにそれを指摘され、ミクズが向け先をコイハにすると、コイハは冷静に返した。
「というか、戻らんとな」
「いや、大仕事があるんだろう? 俺よりもミクズの方がいいんじゃないか?」
「しれっと仕事を押し付けおって……嫌な子孫じゃ……」
「子孫は強かな方が生き残れるだろう?」
「まったく、口も割かし達者じゃな……」
コイハはミクズの扱い方が上手くなったようで、自分に適さないと判断した仕事を積極的に頼むようにしていた。
ミクズも自分の方が適していると理解しているだけに反論しづらく、それ以外の時にも身体を借りている以上、コイハに強く出られないことが多い。
「ふふっ……皆さんもマスターも楽しそうで何よりです」
「ほらほら、みんなも! ここから出て! 今日最後の大仕事だよ!」
ユウが段取りを付けられたようで、全員を誘導する。
いろいろとありすぎた1日がようやく終盤へと向かうのだった。
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