5-38. 能力は今の世界より新たなる世界で
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ニドの突き立てられた牙が世界樹に残されている魔力を吸い始め、枯渇させようとしているほどにズズッと勢いよく吸い取っていく。
「ああああああああああああああああああああっ!」
聞こえてくる叫び声は、ユウのものでもサラフェのものでもなく、ましてや、リゥパやキルバギリーのものでもない。
その甲高い叫び声は、世界樹から浮き上がるようにして現れた世界樹の化身ユグが出しているものだった。本能的に隠れていたはずのユグという幼女姿の化身は、たまらず外へと出てきてしまい、叫んでのたうち回ってから息も絶え絶えの様子で横たわる。
「世界樹の!? ニド、何を!? うぐっ!」
ユウの悲痛な叫びは世界樹が吸収しようとする魔力量の大きさがけた違いに跳ね上がったことによって、言葉にならない声になっていく。
「ユースアウィス、お前を守るものは何もない!」
「ぴぎっ!」
ユウが痛みを覚えて自分の脚を見ると、ふくらはぎに噛みつく蛇の形をした小さな触手がいた。その触手の伸びた先ではニドが同じように触手に噛みつかれていた。
彼女の柔らかそうな肌から血が滲み、触手はそれすらも舐め取るように動く。
「少量でいい……必要以上に欲しない……ふはっ……ふはははははっ……ふははははははははははっ! ついに得たぞ! 創世神しか持ち合わせぬはずの……あのバカすら持ち合わせぬはずの【創世】の力を!」
「やっと! うっ……ここは特に魔力が……っと、ユウ! サラフェ! リゥパ! キルバギリー!」
「ムツキ!」
「ムツキさん!」
「ムッちゃん!」
「マスター!」
「これは……ニド、一体、何を!」
「ふはっ! ちょうどいい時間だ! まさに私の予想どおりだ。ふはっ……ふはは……ふはははははっ! ふははははははははははっ! ふははははははははははっ!」
ニドは大きな口を最大まで開いて高らかに笑う。
「うっ……ぐっ……まずいな……身体の中の魔力が急激に減っていくな」
「はっはっはっ! 何もまずいことはない。その能天気な頭に1つ教えてやろう。世界樹と同じほどの魔力を持つお前が、お前1人が犠牲になれば、みんなが助かるのだぞ?」
ニドは、まるで独り言のように、まるで囁くように、まるで悪魔の誘惑のように、ムツキに打開策を提示する。
しかし、その打開策の代償はムツキにとって、極めて大きすぎた。
「本当か!?」
「嘘など言ったところで、そこの創世神に見破られるだけ」
「…………」
ムツキがバッとユウの方を振り向くと、ユウは少しだけ目を合わせた後に口を開こうとする素振りを見せた後に俯いた。
ニドの言葉に嘘は1つもなかった。
「まあ、それはお前が自分を犠牲にユースアウィスを守るか、ユースアウィスを犠牲に自分を守るか、だがな。このままなら、ここにいない女どもは助かるだろう。そして、先に魔力が枯渇するだろうユースアウィスをそのまま犠牲にすれば、お前は残った魔力の中で最強のまま、まるで神になったかのように好きなことができるだろう。神のいない世界はやがて朽ちるだろうが、そうだな……お前の生きている時間よりも長く存続するだろう」
ニドは間違いのない言葉を紡いでいく。
ただし、それはあくまで選択肢の1つを言っているだけに過ぎない。選択肢の1つであるはずの打開策だが、切迫した状況、ニドの自信たっぷりの言い回しに、周りの空気がそれしかないといった雰囲気に染まる。
「ニド、お前はユウに代わってこの世界を支配するつもりだったんじゃ?」
「……はっ?」
「……えっ?」
ムツキの言葉にニドは目を丸くして素っ頓狂な声をあげる。それにつられてか、ムツキも素っ頓狂な声を続けてあげてしまう。
ニドはムツキに目を凝らして、口の端を上げた。
「おやおやおやおや……これは、これは、まさか、本当にそう思っていたのか? こんな阿呆な女神の手垢がつきについた世界をこの私が創り変えると? バカもここまでくるといっそ愛嬌にすら見える。私はこの世界にもう用はない」
「え、じゃあ、どうするつもりだ?」
「はあ……言ったはずだが? 新世界の神になる。それは、この世界を創り変えることに非ず。世界樹から吸い取った魔力と【創世】の力によって、理想の新世界を構築するのだ」
「新しい世界を創る?」
ニドの立てていた計画は、比喩ではなく本当の意味で、新たな世界を【創世】で創り出すことだった。既存の世界を飛び出し、新たな世界を創る。まさに神にしかできない御業をニドは実行に移そうと画策していたのだ。
「ふははははははははははっ! 考えることのできない駒ごときが、打ち手のことなど分かりようもない。私は新たな世界を創る。それだけだ。そして、それはお前たちに関係のないことだ。それではご機嫌よう。半壊していく世界を見て、どちらかを選択するがいい」
ニドは世界樹の樹海から消え、樹海の外の遠い場所で待機していた毒蛇たちとともに、自身が創る新たな世界へと飛び立っていった。
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