5-35. 試練は与えられるより自ら課すことで(2/2)
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レーヴァテイン。ナジュミネが父親から受け継いだ鬼族の武器であり、当代最強の鬼が持つ最強を示す証でもある。
レーヴァテインは所有者によって形状や大きさ、名前が変わる。ナジュ父のときは大きく武骨な金砕棒で閻羅蛮帝という名の武器だったが、ナジュミネが手に取ってからは、全体が炎のような光を放ち揺らめいている細身の杖とも剣とも呼べるような姿へと変貌を遂げていた。
なお、名前はナジュミネの希望によってムツキに命名権が移り、彼が前の世界で知った神話になぞらえてつけたものである。
「どうして急にそんな武器を」
メイリがナジュミネの持つ武器から目を離さないままに問う。
「……今の妾には出す必要があった。レーヴァテインはたしかに当代最強の鬼たちが継いでいる鬼族の最強の武器だ。だがな、これにはそれ以上の意味がある」
ナジュミネの言葉から震えは消えていた。彼女は顕現させたレーヴァテインを振り回すわけでもなく、突き出した右手を微動だにさせずにただ見つめている。
「それ以上の……意味?」
「そう、父から言われたこと。これはただの武器ではなく、鬼族最強という誇り、これを出すことは、たとえ死ぬことになろうとも決して逃げないという不退転の決意だ。だからこそ、戦いの度に無闇に出すような武器ではなく、容易に御せる戦いに出す武器でもない。辛く、自分の心が折れそうなときに、ここぞという時しか出さない」
ナジュミネがナジュ父から聞かされた話。古臭いと一蹴することもできる話を、彼女は真正面から受け止めた。気が引き締まる思いで父親の訥々と出てくる話を聞き、脈々と繋がれてきた武器に込められた想いに聞き入った。
まるでいずれ心の拠り所になると確信していたかのように、彼女は一字一句聞き逃さなかった。
その話を今、彼女は反芻するかのように話す。
「つまり、行くと言うんじゃな?」
「わわっ……ミクズ? コイハから代わったの?」
「そんなにびっくりせんでもよいのじゃ。それに、行くなら我の方が都合いいのじゃ。で、行くのじゃろう?」
コイハがいつの間にかミクズと交代してから急に彼女が話し始めたので、メイリはびっくりして跳び上がった。
ミクズは白銀の髪の上にちょこんと乗せたような狐耳と金色の九尾を一緒にパタパタさせてメイリの問いに答えて、その後、彼女はナジュミネに再度問う。
ナジュミネはこくりと縦に頷く。
「あぁ……」
「でも、外は……」
「メイリ、安心せい。姐御はじきに大丈夫になるじゃろう」
メイリは途中で口を止めたが、その言葉に続いたのはミクズだった。
「あぁ、大丈夫だ」
「大丈夫って……姐さん、足、まだ震えてるじゃん」
メイリは心配そうな表情でナジュミネを見つめ、ナジュミネはふっと笑ってから自分の脚を思いきり叩いた。
その後、ナジュミネは悪戯っぽい笑みとともにチロッと舌を出す。
「ははは……まだな。いや、今はそうだが、樹海の中に入ってしまえば大丈夫だろう。だから、不退転と言っても、最後の一押しに使っただけだ」
「え? どういうこと?」
メイリはナジュミネの言葉で心配そうな表情から不思議そうな表情へと変わり、尻尾をパタパタと床を掃くように左右に動かす。
「ほう。さすが、姐御じゃ。我も同じことを考えておるのじゃ」
ミクズは笑い、尻尾の代わりにどこからか取り出した扇子をパタパタと動かしている。
「え? もしかして、分かっていないの僕だけ!? ずるいよ! 2人とも教えてよ!」
「メイリなら思いつくのじゃ。ハビーなら気付かんのじゃろうけど」
「なんで、そこでダーリンを引き合いに出して……ん? ダーリンが……あ……そっか、世界樹は今……そっか……」
メイリもまた気付き、ナジュミネとミクズの方を見て肯く。
「まあ、つまり、ハビーが危険な可能性も増すわけなのじゃ。外もそろそろ終わるようじゃから、アニミとレブテメスプを連れて行くのじゃ。決戦の時は近い!」
「試練くん、お留守番よろしく!」
「カッテニ、オコシテオイテ……キヲツケテ、イッテコイ」
メイリが手を振って部屋を出ると、試練くんはムツキのベッドの上で不服そうな物言いながらも見送りの言葉を贈る。
次いで、ミクズが部屋を出て、最後にナジュミネはまだ足が少々おぼつかないものの、しっかりと歩き出した。
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