5-28. 助言は闘争より逃走で(1/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
4人の始祖はムツキに似ている。いや、実際はムツキが4人の始祖に似ている。5人とも、創世神ユースアウィスことユウが好みの顔にしているからだ。
ただし、全く同じということもなく、その中でもムツキが最後かつ丁寧に創られたこともあり、一番の美形に仕上がっている。
「これがユースアウィスの新しい男か。たしかに儂らのいいとこ取りをしたような姿だな」
ムツキを見てそう呟くのは、レブテメスプ同様に人族の始祖とされるタウガスだ。
彼は顔に刻まれた深めのシワや長めの白髪という見た目から、まるでムツキが老いた時のような姿をしている。ムツキよりも少しばかり身長も鼻も低く、目も少し鼻に近く、眉が太いのが違いと言えば違いである。
ゆったりとした白いローブを着ているため、その容姿もあいまって賢者のような格好である。
「ユースアウィスもほんと悪い女だよなあ」
タウガスの次に言葉を放つのは、アニミダック同様に魔人族の始祖とされるディオクミスだ。
彼はムツキと同じくらいの年齢に見える若さで、橙色のウルフヘアーを小さく揺らしていて、始祖の4人の中ではムツキに最も近い雰囲気を持つ。
服装は若々しいというよりとげとげしく、全身を黒いレザー系の服装で固め、所々に見える銀色のビスがパンクな印象を与える。極めつけは左目を覆っている黒い眼帯で、ファッションのためかケガのためかは傍目には分からない。
「2人がタウガスとディオクミス」
ムツキが二人の名前を頭の中に刻むように呼ぶ。
昏い洞窟の中、ムツキの【ライト】で照らし出される3人は、傍から見たら顔のよく似た兄弟や親せきが出会ったような状況に見える。
しかし、その出会いは決して温かいものではなく、2人がニドの方から現れたことはムツキと敵対する者たちだと意味していた。
「タウガス! ディオクミス! 2人とも無事かニャ!?」
「あー……」
「あー……」
ケットが懐かしい顔を見たと言わんばかりに声を掛けると、タウガスとディオクミスは互いに顔を見合わせてから、小さな溜め息を吐いてからバツ悪そうにケットの方に顔を向き直す。
「ニャ?」
「残念だが、こいつの【強制操作】のせいで基本的には操られているな」
タウガスが身構える。武術の心得があるかのような構えは、それだけで威圧感を生じ始めている。さらに、いくつかの触手が彼の身体に纏わりつき、軽装鎧のような形状へと変わっていく。
「俺っちのせいじゃねえ」
ディオクミスは毒蛇の形をした触手を手に取る。すると、触手が集まり、鎖付き鉄球のような武器へと変わった。さらに、タウガスの時同様に触手が身体に纏わりついて軽装鎧の形になる。
「お前の【強制操作】を真似られたのが原因だろうが!」
「それを【応用と発展】でレベルアップされたからこんなことになってんじゃねえか! 俺っちの【強制操作】だけじゃ、ニドが2人以上を同時に操れるほどのコスパはねえ!」
「威張ることか!」
「俺だけに非はねえって言ってるんだろうが!」
洞窟に2人の怒号が響く。彼ら以外に音を出すものがないため、洞窟中、果ては洞窟の外まで響いているかのように音が反響している。
「相変わらず仲が悪いニャ……」
「巨乳派のこいつと仲良くなる気はない!」
「貧乳派のこいつと仲良くなる気はねえ!」
貧乳派のタウガスと巨乳派のディオクミスは昔から言い合うことが多く、喧嘩や小競り合いは日常茶飯事だった。だからこそ、2人でいることが長かったという皮肉さえもあり、今の共闘も本人たちにとって不服そのものだった。
「ある意味、仲が良さそうだが……というか、胸の大小で争うなんてやめろ! 女の子の価値はそんなところで決まらないだろう!」
ムツキは戦うことになりそうで身構えつつも、何故か女性の胸についての論議について持論を出し始めた。
「うるさい! 信念なしが!」
「うるせえ! 節操なしが!」
「は、ハーレムに多様性があるだけだ! みんな違って、みんないいんだ!」
2人から口を揃えて反撃を喰らってしまい、ムツキが若干狼狽えつつも負けじと持論を繰り出す。
「何でもいい奴はすっこんでろ!」
「いや、何でもいいわけじゃ……」
しかし、ムツキの旗色が徐々に色褪せて白けてくる。
「じゃあ、顔か! 余計にタチが悪いじゃねえか!」
「いや、顔とかそういうわけじゃ……えっと、性格とか、愛とか……」
ムツキの旗色はさらに色彩が乏しくなって白けてしまう。
「性格? 愛? 儂らはニドから聞いて知っているからな? お前のハーレム、美女や美少女ばかりで見た目重視なんだろうが!」
「そ、それはユウが」
「なっ! てめぇの女のせいにしてんじゃねえ! どうせ、てめぇが好きそうな女をユースアウィスが考えて選んでいるだけじゃねえか!?」
ムツキの旗は完全に白くなった。
「ぐう……仰る通りです……人のせいにしてすみません……」
「最初はいいことを言っていたはずニャのに、ニャんだかんだで言い負かされているニャ……ニャんで言い負かされるかもしれニャいのに自信満々に持論を持ち出したのニャ……さっきからいいとこニャしニャ……」
「ぐう……」
ムツキは本来争いそのものが苦手なこともあり、何かを守るための戦いでないと今一つで、基本的に自分が責められる立場の言い合いにめっぽう弱い。
「さて、ユースアウィスを取られた腹いせが済んでスッキリした」
「最悪ニャ……」
タウガスのスッキリとした表情に、ケットがボソッと呟く。
「ああ、俺っちもスッキリした。最悪で結構だ。人の女を盗った上に、好みに難癖をつけてきたんだ。それくらいの悪態で済ませるだけありがたいと思ってもらわねえとな。まあ、じゃあ、本題だ」
「本題?」
ムツキの不思議そうな表情を見て、タウガスとディオクミスは身構えたままに頷く。
「逃げろ」
「逃げろ」
2人の口から予想外の言葉が飛び出した。
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