5-27. 種明かしは全部より一部で(2/2)
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ムツキは身構えていた状態から少しばかり呆けたような状態になってしまう。
「俺に固有能力がない?」
「別にこの世の全ての者が固有能力を持っているわけではないので、そう不思議なことではありません。そして、固有能力とは、その個体だけが持つ唯一無二の能力なのです」
ムツキは自分が最強であることから、ニドにとって何かしらの有益な固有能力を持っていると信じて疑わなかったが、自分の考えとニドの説明のギャップの大きさに目をパチクリとさせている。
「えーっと……つまり?」
「ムツキ様の持つ能力はたしかに強力ですが、他の種族が有しているものの超強化版に過ぎません。ムツキ様の最大の長所はその膨大過ぎる魔力を身体への負担もなく扱えることですが、それはあくまで肉体的な長所であって、少なくとも私が真似のできる固有能力とは呼べないでしょう」
「あ、そうなのか……」
ニドの淡々としている説明に、ムツキは分かったような分からないような顔を隠すことなく浮かべつつ、どことなく釈然としない気持ちで突っ立つことになる。
彼は異世界から転生して、かつ、この世界で最強であることから、特別だという自負があった。そのため、固有能力というものももちろん持っていて、何か更なるすごい力を有していると言われることを若干期待していた部分もあった。
「あぁ、まあ、強いて言うなら」
「え! 強いて言うなら!? あるのか!?」
ムツキはニドの持って回った言葉に反応する。
「ムツキ様の持つ数々の呪い……それは固有能力かもしれませんな」
「え……呪いが……俺の固有能力」
ムツキはニドの衝撃的な言葉に呆然としてしまう。
「なので、真似るだけ損になりますな」
「ま、真似ると損……」
ムツキは立っていられず、膝から折れて四つん這いの状態で焦点の合わないぼやっとした視界で地面を見つめている。
自分の固有能力が、自分でご飯が食べられない、自分で衣服が脱ぎ着できない、自分で身体や頭を洗うことができない、などの人に迷惑を掛けるしかないものだと信じたくなかった。
「うわあああああっ! 俺だけの能力が呪いなんて、嘘だあああああっ!」
「ですが、他の者でそのような能力というか呪いを持っている者はいないですからな。れっきとした固有能力かと」
「あああああっ! 嘘だ、そんなこと! 嘘だ、そんなことおおおおおっ!」
ムツキは振り上げた拳を地面に何度か叩きつける。地面にヒビが入り、壁や天井にもヒビが走っていく。洞窟がまるで彼の心の状況を表しているかのようにヒビだらけになった。
「ニド、さりげニャくご主人を上げて落としていじめているニャ……」
「絶対にさっきの問答で根に持っているな……」
「そうでしょうね……」
四つん這いで脱力したムツキと、淡々としながらもどこか愉快そうに話すニドを見て、ケット、クー、アルは呆れつつも、先ほどの重い空気から少し変わったことでほどよく脱力できた。
「さて、話を戻しましょう」
「ご主人、本題が始まるニャ」
「話を聞くだけの気力を取り戻すのに時間が……」
ニドの話が再開するため、ケットがムツキの肩をポンポンと叩いて立ち上がるように促すも、ムツキはまだ立ち直れないでいた。
「私が欲しいのはユースアウィスの能力」
「……ユウだって!?」
ムツキの気力が即座に戻って立ち上がる。
「そう、ユースアウィスが持つ、それこそ根源にして究極の固有能力。私は【創世】と呼んでおります。私はそれを欲しております」
「いくら真似られるとしても、ただの妖精族の毒蛇であるお前に、創世神の固有能力が扱えるのか?」
「ええ。当然の疑問でしょう。だからこそ、私は徐々に強くなる必要があった。その前段階として、4人の能力を欲した」
「4人……まさか?」
クーは挑発的な言葉や疑問符でニドの言葉を誘う。話をさせればさせるほど、ニドがボロを出す可能性が高まるからだ。
ニドはニドで、それも承知で言葉を吐いていく。
「ええ。【応用と発展】のタウガス、【創造の両腕】のレブテメスプ、【触手生成】のアニミダック、【強制操作】のディオクミス」
「ということは、アニミダック、レブテメスプが起き上がったのも」
「ええ。私ですな」
「ほう。だが、【強制操作】のディオクミスから真似た方が、お前の都合がよかったんじゃないか?」
ディオクミスの【強制操作】は、操作したい相手の魔力と同量以上の自分の魔力を使用することで、いくつかの制約を除けば、一時的に相手を自由に操作できる。
「さすが、クー様、良い勘をなさっておりますな。故にご自分で推測を深めていただければ」
ニドはクーに【適応】が相手の血を得ることで能力を獲得できるということを勘付かれないようにはぐらかす。
「あ! タウガスとディオクミスはどこニャ!? まだ眠ったままかニャ!?」
「いえ、起きておりますとも」
「ということは、まさか、みんなの方に!?」
「ご安心を。2人はここに」
ニドの言葉に応じるかのように、二つの影が現れた。
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