5-11. 数々の呪いは嘆きよりも優しさで(3/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
お風呂で身も心も綺麗さっぱりしたムツキは再び自室へと戻る。すると、リゥパもサラフェも起き上がっており、何故か、サラフェが枕をぎゅっと抱きしめながらリゥパに警戒している様子だった。
「2人とも、おはよう……どうしたんだ?」
ムツキが2人に声を掛けると、サラフェはリゥパを見つめたままで、リゥパがバツの悪そうな顔をして彼の方を向く。
「あ、ムッちゃん、おはよう。あはは……ちょっと私がからかっちゃって」
「からかうって言っても、ものには限度があります!」
サラフェは相当怒っているようで、ムツキの方を一切向かずにリゥパが動こうものなら戦うことも辞さないような臨戦態勢だった。
ただし、ムツキからは、彼女が威嚇をしている小動物のようで少しかわいらしく見えていた。
「ごめんってば。もうしないから、ね?」
「信じられません!」
取り付く島もない様子に、リゥパもさすがにやり過ぎたと理解して、ムツキの方を見て助けを求めた。
彼はまだ状況が掴めないでいるが、女の子たちには仲良くしていてほしいという気持ちがあるため、リゥパの方を向いて軽く肯いた後に仲介を始める。
「まあ、何があったかは分からないけれど、落ち着いて」
「落ち着いていられるような……なっ!」
ムツキはひとまずサラフェの横に座った後、彼女の小さな身体と枕ごとぐいっと抱き寄せて、少し強引に抱きしめた。彼はそのまま彼女の髪の毛を梳くように撫で始め、耳元で小さく優しい声を出す。
彼女は意外とちょっと強引なくらいが好みのようだと、最近彼が理解してきた。
「よしよし。もしかして、泣いた? 怖かったのかな? でもな、仲間の誰かを信じられないとか、そんな悲しいことを言わないでくれ。リゥパには俺からキツく言っておくから、な?」
「うぅーっ……もう……分かりました。たしかにここで何をしていても始まりませんね……ご飯にしましょうか」
「……もうちょっとだけこうしていたい」
「ぐっ! ダメです! 離してください!」
ただし、サラフェの好きなちょっと強引なくらいというものの加減が非常に難しく、少しでもその範囲を超えると再び拒否状態に陥るのである。
「まだまだ素直じゃないわね」
先ほどまで困っていたリゥパはその2人の様子にクスクスと笑うが、サラフェがキッと睨みつけると笑いを止めた。
その後、3人が1階へと降りると、ダイニングテーブルの周りにはメイリ、コイハ、ナジュミネがいて、取り皿やカトラリー類を並べて食事の準備をしていた。
「おはよう、メイリ、コイハ、ナジュ」
「おはよう、ダーリン!」
「おはよう、ハビー」
「おはよう、旦那様」
全員の挨拶が済んだ頃に、たっぷりの野菜が盛りに盛られた大皿を両手や尻尾で運ぶケットが現れる。
「ご主人、ちょうどいいところニャ! ご飯ができたニャ! 手を洗って座ってほしいニャ!」
ケットがテーブルに大皿をドンと置くと色とりどりの野菜が一瞬だけ宙に浮く。次の料理を運ぶためにケットは大忙しで台所へと戻っていく。
「今日のあーん係はメイリだな」
もちろん、食事でもムツキの持つ呪いが発動する。食事不可の呪いである。彼はこの呪いのせいで、自分で食べる動作をしようとしても無意識に食べる動作をやめてしまい食べ物を自ら摂取することができないのだ。
なお、飲む動作はできるので、水さえあれば数日は生き延びられる。
「任せて! ベストなタイミングでベストタイムを目指すよ!」
「あはは……人のご飯でタイムアタックをしないでくれよ」
ナジュミネが当番表を確認して伝えると座席がなんとなく決まりつつ、メイリが高速で口へと運ぶ仕草をしていたため、ムツキは苦笑いをしながら彼女をやんわりと諭した。
やがて、朝食が並び終わると、各々がトングを交代で使って自分の皿に盛りつけていく。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
ムツキ、ナジュミネ、リゥパ、サラフェ、メイリ、コイハの6人の声が一斉に揃う。
ユウが寝坊しているが、彼女は起こされると大抵不機嫌になるため誰も起こそうとしない。キルバギリーは食べる時間が決まっており、朝食の時間帯に摂取しないために不在の場合もある。
「ダーリン、あーん」
「あーん」
メイリが料理をムツキの口へと運び、ムツキはそれをまるでひな鳥のように待ち構えている。ぱくりと彼が口を閉じると、メイリが手に持っているフォークをゆっくりと優しく閉じた口から抜いていく。
「美味しいな」
「よく噛んで食べてね。じゃあ、あー……んっ……あんっ」
「んぐっ……げほっ……メイリさん、変な声を……って、ムツキさん!」
突如聞こえるメイリの艶っぽい声に、サラフェは動じてしまいむせてしまう。
サラフェは最初、メイリのイタズラかと思いきや、彼女の尻尾辺りにあるムツキの手を見て矛先を彼へと変えた。
「え?」
「え? じゃありません! 食事中にメイリさんの尻尾をそのやらしい手つきで触るのはやめてください!」
「やらしいって……ん? 食事中以外ならいいのか?」
「そ、それはメイリさんに聞いてください!」
その後、誰からともなく笑いが起こり、結局、全員が最終的に笑いながら話しながらと楽しく朝食の時間を過ごした。
ムツキはこのように生活が困難になる様々な呪いが掛かっており、みんなの介護がなければ満足に生きていけないレベルである。
しかしながら、それ故に彼は他の人との繋がりの大切さを知ることができて幸せだと感じており、自分ができることに全力を尽くそうと思えるのだった。
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