5-2. 始まりは忙しいよりもゆっくりで(2/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
クーは何かに気付き、のそのそと歩いてアルの隣、暖炉の側に移動して温まり始める。
「最近はのんびりできてよかった。この前の温泉もよかった」
「そうだな。アニミダック、レブテメスプと来たから、この寒い時期にほかの始祖も出てくるかと思ったけどな」
ムツキの口から出てきた名前は、創世神に唯一神のユースアウィスが作り出した4人のうち2人である。
アニミダックは、ムツキによく似た魔人族の始祖の1人で、ムツキよりもひょろっとしていて背が高く、色白の顔、黒い長髪、黒い瞳、瞳の色に負けないほどに目元の濃いクマをしている。
レブテメスプは、少年時代のムツキによく似た人族の始祖の1人で、黄緑色の髪をマッシュルームカットにして、目が丸っこい優しい形をしており、灰色の瞳を有している。
「ふふ、たしかに。しばらくは出てくれなくていいがな」
「まったくだ」
ナジュミネの他愛のない言葉に、ムツキは同じく他愛のない言葉で返す。暑い時期から寒い時期へと変わる頃にはいろいろとあったが、それ以降に特段困ったこともなく、彼らはのんびりと楽しく日々を過ごせていた。
「……この雪も解け、花が咲く季節になれば、ようやく旦那様と季節を一巡できたことになるのだろうな」
「そうだな。また一緒に樹海調査をしたり、みんなと何かしたりしような」
ムツキにはナジュミネを含めて、7人の伴侶、パートナーがいる。
創世神ユースアウィスから順に、魔人族の鬼族のナジュミネ、妖精族のエルフ族のリゥパ、人族のサラフェ、レブテメスプが作った女性型ロボのキルバギリー、獣人族のコイハ、半獣人族のメイリ、と多種族で構成されているハーレムなのだ。
「むう。みんなもいいが、2人きりで何かしたい……かな。ちょっとしたお出かけとか……ね?」
「そうだな」
ナジュミネは普段こそハーレムを取り仕切る管理者を担っているが、2人きりの今、ここぞとばかりにムツキに擦り寄って甘えた声を出す。
甘えられたムツキも満更ではなく、二つ返事で安請け合いをしてしまう。
「……へぇ、姐さん、堂々と抜け駆けかな?」
「いけませんね。抜け駆けはいけません」
ソファに座るムツキとナジュミネの両側からジト目をした2人が現れる。
少し中性寄りのかわいらしい声でナジュミネを姐さんと呼ぶのは、半獣人族で黒狸族のメイリである。
半獣人とは人が動物的な耳や尻尾などの特徴も持っているようなイメージだと理解すれば早く、彼女の場合、耳、尻尾、肘から先の腕と手先、膝から下の脚と足先が狸のようになっている。
彼女の肌の色や髪の色は黒く、少年のようなショートヘアに真ん丸な顔、真ん丸な目、真ん丸な茶色の瞳は小動物的な可愛さを引き立てる。しかし、その幼い顔立ちと低身長には似合わない大きな胸が半袖のシャツ越しでも存在を主張していた。
もう1人の丁寧な言葉遣いをしているのは、キルバギリーだ。
彼女の髪は灰色のポニーテイルに、瞳も同じように灰色であり、肌とも外装とも言える表面は薄橙をベースに少し光沢のある薄い虹色が掛かっているかのようである。
「おわっ! メイリ!? キルバギリー!? お、おはよう」
「あ……おはよう、メイリ、キルバギリー」
ムツキは驚きのあまりに声が裏返りかけて、ナジュミネはしまったという顔を隠さずに冷や汗を一筋垂らしていた。
「おはよう、ダーリン、と抜け駆け姐さん」
「おはようございます、マスター、と抜け駆けナジュミネさん」
「……返す言葉もない」
メイリとキルバギリーの少しばかりイタズラっぽくトゲのある言い方に対して、ナジュミネは返す言葉もないという言葉通りにうな垂れるように顔を俯かせている。
さらに、メイリとキルバギリーの矛先はムツキにも向かう。
「ダーリンもひどいよ、ねー?」
「マスターもひどいですよ、ねー?」
「俺も返す言葉がないです」
メイリとキルバギリーの2人の息がぴったりと合った責めにムツキもナジュミネ同様にうな垂れた。
すかさず2人はムツキとナジュミネの前に回り込んで立ちはだかり、びしっとムツキに指を指して大きく口を開く。
「罰として、ダーリンは姐さんだけじゃなくて、女の子全員と2人きりで何かをすること!」
「することです!」
「はい」
ムツキは言われるがままに承諾する。彼からすると強めの罰ではないのだが、モフモフの時間を削られるという意味では少し思うところがあった。
なお、彼のモフモフへの愛はハーレムの女の子たちから見て度を越しているので、中々一緒にモフモフを楽しむ気になれない。
「姐さんはダーリンとの添い寝を2回スキップ!」
「そ、そんな……」
ナジュミネはこの世の終わりのような愕然とした表情をする。ムツキの夜のお供は交代制のため、ハーレムの女の子たちの営みだけでなく、モフモフたちの添い寝が加わって、毎夜代わる代わる添い寝なり営みなりをする。そのため、スキップをされてしまうと次の番まで案外長く、誰もが悲しみに暮れてしまうのだった。
「メイリさん、そこは容赦を。いつもイタズラで許してもらっていますし」
「たしかに! じゃあ、スキップ1回!」
「……ありがとう」
ナジュミネは目尻に涙を浮かべて礼を小さく述べていた。彼女にとって涙を浮かべるほどの救済措置である。
「えっと、俺に容赦は?」
「ダメ」
「ダメです」
ムツキがついでとばかりに自分への容赦を要求するも、メイリとキルバギリーの両手が素早く交差し、息ぴったりにそれぞれがバツ印を示す。
「えー……そんな……」
「ってことは、ムッちゃんはみんなと2人きりで何かをするのは不服ってことかしら?」
「そういうことになりますね」
ムツキが少しがっかりしたように言葉を吐くと、その言葉に反応して階段の方から別の女の子2人の声が聞こえてきた。
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