4-82. 帰ってきたからいろいろあった
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楽しんでもらえますと幸いです。
メイリが試練を超え、お仕置きも超えた後、ムツキやミクズは無事にムツキの家へと戻った。
お仕置きをされたメイリは目が虚ろな様子でミクズに寄りかかり、立つのもやっとという感じである。
「ただいま」
ムツキの幼い声が聞こえてくると、リビングでいつでも外出できる服を着込んで待機していたユウ、サラフェ、ナジュミネが嬉しそうな顔で出迎える。
そこにケットも現れて、2本の尻尾で喜びを最大限に表現している。
「ムツキ!」
「ムツキさん!」
「旦那様!」
「ご主人!」
ムツキは子どもらしいニコッとした笑顔をして、ふと自分の小さな手を見つめる。彼はこの姿もそろそろ終わりかと思うと、嬉しいような寂しいような気にもなってきていた。
サラフェにしてもらった抱っこは小さくなければされることもなく、コイハやメイリの大きな肉球を触ることは自分が小さいほどの大きさのインパクトがあった。
同じくらいの身長になっていたケットをぎゅっと抱きしめた時の温もりは、大人の時とは全然感じ方が違った。
ただし、子どもだと力の制御はかなり難しい上に、メイリの試練やお仕置きの件もあいまって、大人の営みに飢えていた。つまり、なんだかんだで欲求不満で爆発しそうになっていたのだ。
「メイリも無事に試練をクリアだ! これで終わったんだ! みんな、本当にありがとう!」
「メイリがクリアできたのか! それはよかった! だが、大変だ! キルバギリーが攫われた!」
「っ!? どういうことだ」
これで全てが終わったと思っていたムツキは、キルバギリーが攫われたというナジュミネの言葉に動揺を隠せないでいた。
その後、ミクズがムツキとメイリを連れて去っていった後の話をナジュミネやサラフェから聞かされる。
「つまり、俺やミクズたちが去った後、家を確認するとキルバギリーの姿がなくて、微かに……レブテメスプの臭いを嗅ぎ取ったのか?」
「ワン!」
犬型妖精族の統括である碧色の毛並みのクーの代わりに、大きめのゴールデンレトリーバーがムツキの問いに答える。クーはここ数日、臭いを辿れないかと歩き回っていたためか、疲労がピークになり眠りに落ちていた。
「すまない。妾が皆と相談して、屋内、特にキルバギリーにも配慮しておけばよかった」
「オイラも妖精族全員を出しちゃったニャ……」
ナジュミネとケットの沈痛な面持ちに、ミクズも居ても立っても居られないような表情をする。
「すまぬのじゃ……遊びのつもりだったとはいえ、全員を駆り出すように仕向けなければ、こんなことにはならなかったのじゃ……」
ムツキはすべての言葉に首を横に振った。
「いや、みんな、ありがとう。そのおかげでほかの犠牲者が出なかったんだと俺は思うんだ。もしレブテメスプがキルバギリーを手に入れるために強行策に出ていたら、誰かが傷付いていたかもしれない。レブテメスプがキルバギリーを傷付けるわけがないから、それが最小限の被害なのだと思う」
ムツキはフォローをするためとはいえ、とんでもないことを口走っていると自覚する。
キルバギリーが攫われるだけで済んだことは被害が最小限であることに間違いない。
しかし、彼のその言葉は何かと引き換えにキルバギリーをみすみす攫われてしまったことに自身への不甲斐なさを感じる。
「ですが、記憶の消去を早めている可能性があります……」
「もちろんだ。だから、サラフェの持っているバックアップデータがカギになる。それよりもどこにいるかだ。このままじゃ、助けようがない」
ムツキが考えこもうとした頃に、試練くんが突如目の前に現れた。
「クロカミノオンナ、シレンノ、クリアヲ、カクニン、デキタゾイ! コレデ、スベテノ、シレンガ、クリアサレタ! ヨッテ、オコサマヲ、モトニ、モドスゾイ!」
試練くんがどこからかSFチックな光線銃を取り出す。ナジュミネとサラフェがムツキの前、試練くんとの間に立つが、試練くんが彼女たちを見て首を横に振る。
「オコサマヲ、モトニ、モドスタメニハ、コノコウセンジュウノ、コウセンヲ、アビナケレバ、ナランゾイ。コレバカリハ、シンジテモラウホカナイゾイ」
「分かった。ナジュ、サラフェ、ありがとう。俺なら大丈夫だ」
ムツキは頷き、ナジュミネとサラフェの背中を軽く叩いた。彼女たちが横にズレて、彼は試練くんの目の前に立つ。
「イッカイブンダカラ、ウゴイチャダメダゾイ! エイッ!」
ムツキに七色の光線が当たる。七色の光がそのまま帯のように彼に巻き付いて、彼の全身が七色に包まれた。
その後、大きさが徐々に大きくなり、ビリビリという音が鳴った後、彼の元の身長ほどの大きさになった。ビリビリという音が子供服の引き千切れる際の悲鳴だったようで、彼は今全裸だった。
「お……おぉ……久々な感じがするな。って、服!」
「【狐火】【変化の術】」
ミクズがとっさにムツキのよく着ているビジネスカジュアルな服装を狐火と【変化の術】の組合せで出現させて彼に纏わせる。
「ムツキ」
「旦那様」
「ムツキさん」
「お前様」
ユウやナジュミネ、サラフェ、ミクズがムツキに近付き、ギュっと抱き締める。
「ム、ムッちゃん! もうダメなの……もう許して……」
「…………」
リゥパがムツキの気配に気付き、パジャマの着崩れ姿というあられもない状態で現れる。
メイリはミクズという支えを失って、ベシャっと膝から崩れ落ちたまま、無言でムツキの方を虚ろな目で見つめていた。
「え、メイりん師匠? かなりボーっとしているけど、大丈夫?」
「……旦那様、もしやメイリにもお仕置きとやらをしたのか?」
「うっ」
「ムツキさん、なるべくしないように気を付けると言っていませんでしたか?」
ナジュミネとサラフェはジト目で彼を睨み付ける。ミクズは目を伏せていた。
「……弁解は後でさせてくれ! それよりも今はキルバギリーだ!」
ムツキは分が悪いと感じ、リゥパとメイリに施した魅了の制御を少し緩和した。
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