4-74. 起きたから説明した(1/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
翌朝。ムツキがむくりと身体を起こし、まだ焦点が定まっていないような寝ぼけ眼のまま、右手で目の辺りを軽くこするような動作をする。彼はぼやけた視界では頼りないと思い、左手でさわさわと周りの物を触ってみる。すると、とても柔らかいものに手が触れた。
「んー……ん? あれ? 柔らかいクッションなんてあったか?」
枕とは違う柔らかい何かに触れて、無意識のうちに5本の指の腹でなぞるようにしたり軽く押したりしながら感触をしっかりと確かめてみる。
「んんうっ……」
「うわっ! メ、メイリ!?」
女の子の艶っぽい声が出た瞬間に、ムツキの頭は急に覚醒して、視界が一気に鮮明になる。彼が声のした方を見ると、少し服がはだけたメイリが彼の方を向いて眠っていた。彼は先ほどの手の位置から察するに、自分がメイリの大きな胸を触っていたことに気付く。
「んっ……あ、ダーリン……正気に戻ったの?」
メイリが小さく声を漏らした後に、目をぱちぱちと動かし始め、ムツキにそう声を掛けた。
「え、しょ、正気? 何があったんだ?」
「……僕の口から言わせるの?」
ムツキが状況を飲み込めていないままにメイリへと問うも、メイリは恥ずかし気に視線を彼から逸らして、彼に聞こえるか聞こえないか程度のとても小さな声でボソッと呟く。
彼はこれ以上開かないほどに目と口を開けて、少し間抜けな顔をする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……まず、ミクズは?」
「隣にいるじゃん。僕の逆側」
メイリにそう言われて、ムツキがそちらの方を向くと、すやすやと眠っているミクズがいた。彼は優しい笑みを浮かべて何の気なしにミクズの頭を撫で、耳を少しふにふにと触る。
「たしかに……まだ寝てる……そう言えば、添い寝してもらったんだった」
「ダーリン、本当に覚えてないんだね……僕たちにしたこと……」
「ど、ど、どどど?」
ムツキは言葉にならないほどに動揺した。彼がよくよく見ると、メイリだけでなくミクズの服も寝巻きがはだけて人族のような白い肌がちらりと見えている。思い出そうにも何も覚えていないので、彼の額に冷や汗が流れ始める。
メイリは自分自身の身体を抱き締めるように両手を交差させて腕を掴む。視線はまだ逸らしたままでチラリとも彼の方を向こうとしない。
「ミクズが添い寝をやめた後に呪いのせいで起きた不機嫌なダーリンが……【バインド】を唱えて……」
「バ、【バインド】!? そ、それで?」
「欲求不満だったみたいでそのまま……」
「なんだって!? 自分でダメだと言っておきながら、俺は……そんな!」
ムツキは寝ぼけてしたことを大抵覚えていないため、自分のしたことの重大さや愚かさを後から気付くことがある。
「ふふっ……メイリ、誤解するような言い回しはそこいらでしまいにしておくのじゃ」
ここでようやくミクズが小さく笑い声をこぼして起き上がりつつ話に参加する。狐でありながら、狸寝入りをしていた。
「ミクズ! ……誤解?」
「欲求は欲求でも睡眠じゃ。今のお前さまが嫌がっているようなことを自分からはしておらんのじゃ」
ムツキはバッとメイリの方を向くと、彼女は舌をちろっと出してイタズラが成功したときと同じ笑みを顔に貼り付けていた。
「……てへっ。嘘は言ってないけどね。ダーリン、眠たくてそのまま眠っちゃったんだから」
「メイリ、驚かすなよ……【バインド】で拘束した後の女の子に、したのかと思ったじゃないか」
ムツキが溜め息をこぼして俯いていると、メイリが起き上がって彼の背中に身体を寄せた。彼は背中に温かく柔らかいものが当たっている感触を覚える。
彼女は彼の耳元で口をゆっくりと開く。
「むふふ……ごめんね。でも、そういう欲求不満でケダモノなダーリンも嫌いじゃないよ? あと、【バインド】も嫌いじゃないよ?」
「……元に戻ったらレパートリーの1つに入れておく。覚悟しておけよ?」
「きゃっ」
「はいはい、さて、与太話はそこまでじゃ。その元に戻るためには、メイリが試練を達成しなければならんのじゃからな」
ムツキとメイリの雰囲気に水を差すのも野暮かと思ったミクズだが、いつ終わるか分からないイチャイチャを見続けているとジト目が戻らなくなりそうだと思い直して話を終わらせる。
「そうだな。ところで、みんなは?」
「留守番じゃ。試練に集中できるように我がお前様とメイリを隔離したのじゃ」
「そうか。そろそろリゥパが大変な気がする……少し戻ったらダメか?」
「リゥパには悪いが、放っておけ。そちらにかまってやれるほどの余裕があるか分からんのじゃ。それほどの試練じゃ」
ミクズは神妙な面持ちでムツキとメイリを交互に見ていた。
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