4-69. 必死だから懇願した(2/2)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
メイリは座布団を移動させてミクズの真横に座る。
「ね、ねえ、それ、ほんと? 数日でできるもの? 僕、みんなをがっかりさせずに済むかな?」
メイリが真横から訊ね始めると、さすがにこの距離の近さにミクズは思いきり面を喰らう。警戒心の欠片もないこの状況に危うさを感じつつ、信頼されているようにも思えて、どこかくすぐったい気持ちになる。
「……はっはっは。それはお主次第じゃな。じゃが、できない相談ではないのじゃ」
「ど、どうやって!?」
メイリが目をきらきらと輝かせて、ずずいと前のめり気味に訊ねている。ミクズはこのままの勢いだとメイリに話を持っていかれそうだったので、一旦、目を閉じて茶をゆっくりとした動作ですする。
「……ほぅっ……茶葉と同じじゃよ。雑に扱わず、丁寧に扱えば、というやつじゃ」
「ど、どういうこと?」
「まあ、落ち着け。まずはおさらいからじゃ。【変化の術】は相手の魔力の大きさによって抵抗力を持たれる。術者の魔力よりも被術者、つまり、掛けたい相手の魔力が大きければ大きいほど掛けることが難しくなる」
「うん、そうだよね。ダーリン、魔力が大きすぎて全然掛からないんだよ……」
ミクズのおさらいの説明に、メイリはうんうんと力強く肯く。
「先に言っておくのじゃが……今のやり方じゃ我や姐御ほどの魔力を持っていようが、なんならユウほどの魔力を持っていても無理じゃよ?」
「えっ! それだけの魔力を持っていても無理なの!? えーっ! でも、さっきできるって」
メイリは目をこれ以上ないほどに見開き、両手を頬に当てて口を開き、驚きをめいっぱいに表現している。
「驚きすぎじゃ。えっとな、それはお主のやり方が自分の魔力をそのままで相手の魔力に変化しろと命令をしているからじゃよ」
「相手の魔力に命令?」
「そうじゃ。考えてもみるのじゃ。自分よりも力のない奴にいきなり、「お前今から変われよ」なんて言われて変わる奴なんておらんじゃろ。それが相手を、相手の魔力を雑に扱っているということに等しいんじゃ」
「な……なるほど?」
メイリはミクズのたとえ話に若干首を傾げながらもなんとか理解しようと努めている。
「まあ、たとえ話じゃから、分からないなら分からないでいいのじゃが」
「えっと、なんとなく分かる気がするんだけど、まだちょっとかな」
メイリが腕組をして、眉間にシワを寄せている。まだおぼろげにイメージを掴み始めてきたといった表情だった。
「で、じゃ。丁寧に「恐縮ですが、ほんの少しでいいので、変わってくれませんか、お願いします」くらいに相手に寄せた言い方で言えば、いくら相手の方が強かろうと聞いてくれることもあるじゃろ?」
「それはそうだね」
「そう。それも自分と親しい間柄ならなおさらじゃ。我やメイリはハビーとパートナーなのじゃから、ハビーの魔力もそこまで頑なに変化を拒まんのじゃ。お願いの仕方だけ覚えればよい」
「ってことは、ダーリンの魔力を丁寧に扱うというかダーリンの魔力にお願いする方法を覚えれば、ダーリンが【変化の術】にも掛かるってこと?」
「まあ、たとえ話に近付ければ、そうじゃな。実際は自分の魔力の質を相手の魔力の質に寄せることで変化の呼び水のようにさせるのじゃが」
ミクズの言葉での説明はそれで終了する。ただし、それでできるようになるわけではない。理屈の上での説明であり、それを実践する必要があった。
「申し訳ないんだけど、その方法、教えてほしい!」
「その前に……お主、それを本当に知らんのか?」
今度はミクズがメイリに質問を始める。メイリは何のことやらといった様子で少し首を竦めていた。
「え、なんで?」
「むしろ、その方法を教えてくれたのは黒狸族のライバルじゃ。実際に、黒狸族の方が相手を変化させる力が強かったのじゃ」
白狐族は【狐火】で出した狐火と【変化の術】を組み合わせることで多彩な方法を持っていた。一方の黒狸族は【狐火】を持たないために【変化の術】を磨きに磨き上げて、白狐族の狐火さえも利用する形で白狐族との化かし合いを制することもあった。
「そ、そうなの? でも、黒狸族では僕が一番【変化の術】を上手く使えたんだけどな……」
「そもそも、なんで半獣人族の黒狸族なんておるんじゃ?」
ミクズがここでようやく先ほどの疑問について再度話を持ち上げた。
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