4-58. 並の試練じゃないから戸惑った
約2,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ナジュミネたちが今まさに五重塔へと行こうとしたとき、颯爽と試練くんが現れた。試練くんはこんなにペース早く試練が終わっていくので、少し楽しくなっていた。
「グッドイブニング! エブリワン! オマエラハ、サイコーダゾイ! シレンニ、シンシニムキアウ、ソノスガタハ、マコトニウツクシイゾイ! サテ、シレンハブジニ……アレ? シロイケナミノオンナト、オコサマガ、イナイデハナイカ? シレンヲ、クリアシタトイウノニ」
試練くんはそこにいるはずのムツキとコイハがいないことで不思議に思い、周りを見渡すもそこには巫女姿から着替え直した女の子たちや戦う準備をしている妖精たちがいた。
「試練も大事なのだが、そう言っている場合でもない。旦那様がコイハに攫われたのだ。今のコイハでは嫌がる旦那様に無理やり何かする可能性もある」
上が紅、下が黒の軍服を着て、帽子を目深に被った本気モードのナジュミネが試練くんに伝える。
覚醒した九尾のコイハはナジュミネに匹敵するほどの魔力を持ち、ユウでさえも影響を受ける力を有している。警戒なしに相手にできるわけがなかった。
「ムツキにばっかり怒っちゃダメだよね……今考えたらちょっとだけ可哀想……ちゃんと謝らないと。みんな、サポートは任せて」
青いフリルドレスに身を包み、大きめの白い帽子を被ったユウは幼女姿に戻っており、先ほどのムツキへの怒りが少しバツ悪く感じたようで申し訳なさそうにしている。
彼女は自分が影響を受けることも加味して、コイハに直接会わない形で全員のサポートに回ろうと考えていた。
「ムッちゃんはきっと自力で抜け出しきれないから助けを待っているに違いないわ。みんなで助けに行かないとね。あの変な塔もどうなっているか分からないし……あと、私も割と限界近い……」
薄緑色の長袖に茶色の胸当て、濃い茶色の長ズボンを履いたリゥパがムツキ成分を求めてそろそろ限界を迎えそうになっていた。限界を超えると、彼の追加の甘いお仕置きを身悶えながら待つしかできなくなる。
「そうですね。いつも助けてもらっていますし、今回は少しでも恩を返しましょう。さっきは思わずお仕置きと言ってしまいましたが……」
サラフェは昨夜と似たような青系の服装をして、まるで男性貴族のような出で立ちで刀を腰に携える。
そのしっかりとした出で立ちとは裏腹に、彼女の言葉が最後の方にごにょごにょと誰も聞き取れないくらいの声量になっていた。怒りに身を任せた自身の発言が少し恥ずかしくなったようである。
「ダーリンもコイハも助けないと!」
何故かとは言わないが、ボタンが弾けそうになっている黒っぽい襟付き半袖シャツと黒系の半ズボンを身に着けたメイリが尻尾をぶんぶんと振り回しながらも準備体操をしている。
女の子たち全員にかかっていたコイハの瞳の効果は多少薄まっており、ムツキへの怒りは若干残しつつも彼の心配もし始めていた。
試練くんはそれを見て、うんうんと肯く。
「ソウカ! ダガ、シラン! シレンノエイキョウダトシテモ、シレンガイノコトニ、クビヲツッコマナイゾ! ツギハ、クロイカミノオンナダ! ジツハモウ、ジュンビガ、デキテイル! コレダ!」
試練くんはムツキがいないため、さっとメイリに試練の紙を渡して終わった。
「えっ、早くない? しかも、渡し方が雑になってない? まあ、いいけど。えっと、なになに……うげっ。これ、本気で無理だよ……チェンジできない?」
そこに書いてあったのは『ムツキを【変化の術】で変化させろ』だった。メイリ以外の全員もこれには少し固まる。
黒狸族が得意とする【変化の術】は魔力量によって抵抗値が存在する。この抵抗値は基本的に自由に下げられたり上げられたりするものではなく、術者と被術者の魔力量によって決定されるのである。
メイリとムツキでは、彼女の魔力量など無いに等しく、つまり、彼女が彼に【変化の術】を成功させるのは現状100%無理なのだ。
「ナラン! チェンジナド、デキルワケナカロウ! シカシ、ゼッタイニデキナイモノハ、シレンニナランゾイ! ガンバルトイイゾイ! イチニチノアイダニ、フタツモダシタカラ、ツカレタゾイ! ヤスム!」
試練くんが絶対にできないことはないと言って動かなくなる。
その言葉はメイリに届いている様子もなく、彼女が深い溜め息とともにへたり込んでしまう。
「ダーリンとの魔力差を考えたら、万が一も成功しないよ……みんな、ごめん」
ナジュミネ、ユウ、リゥパ、サラフェがメイリの周りに集まり、寄り添うように彼女の身体に手を触れさせていく。
「大丈夫だ」
「大丈夫」
「大丈夫よ」
「大丈夫です」
「みんな、応援してくれるのは分かるけど、せめて、姉さんや今のコイハくらいは魔力がないと箸にも棒にも掛からないんだよ……」
メイリがいつになく弱音を吐いていると、全員が首を横に振った。
「らしくないぞ。いつものメイリならできると信じている」
「メイりん師匠ならできる! 私の師匠なんだから!」
「メイリは胸が大きいからきっと魔力もそこに蓄えられるわ」
「メイリさん、キルバギリーもイタズラ隊隊長のことを応援していますよ」
「……今、さらっと変な応援というか何かなかった?」
メイリが複雑な表情をすると、ナジュミネがリゥパを後ろで小突きつつメイリに話しかける。
「ま、まあ、まったく当てがないわけではない」
「姐さん、当てがあるの?」
メイリが藁にもすがるような思いでナジュミネを見ると、ナジュミネは小さく縦にこくりと肯いた。
「コイハが言っていただろう? 過去にメイリと似た雰囲気の黒狸族と化かし合いをしたと。妾が思うに、メイリにも先祖の何やらがあるかもしれんし、今のコイハなら魔力を高める方法を知っているかもしれん」
「そうかな? そんな都合いいことあるかな?」
「どうだろうな。だがな、妾が思うに、この試練、なんだかんだで繋がっている気がしている。妾たちの絆のようにな」
ナジュミネがそう言いきると、メイリはパっと笑顔を取り戻して縦に頷いた。
「姐さん……わかった! だったら、なおさら、ダーリンとコイハの所に行かないと!」
女の子たち全員が立ち上がり、ムツキの待つ五重塔のある方を見つめた。
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