4-11. できる人が限られているからすぐに誰のしわざか分かった (2/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキが何の気なしにサラフェを姉呼ばわりすると、彼女は顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。彼は彼女の方へと向かおうとするが、ナジュミネが離してくれなかった。
「さ、サラフェ、大丈夫か?」
サラフェは怒っているような喜んでいるような、自分でもどう表情にすればいいのか分からないといった様子でムツキをキッと睨み付ける。
「っ……。ムツキさん、わざとでしょ?」
「ごめん……弟っぽいって言うから……つい……ごめん……」
「あ……いえ……そうですよね。サラフェが言ったんですから……きつく言ってすみません……泣かないでくださいね? 男の子でしょう?」
ムツキがシュンとした顔で俯くので、サラフェは少し口ごもった後に自ら謝り始めた。いつもは彼女の方が彼を振り回しているのだが、子ども相手となると調子が狂いっ放しだった。今の彼女はナジュミネ同様に、子どもへの保護欲求、養育欲求などの様々な母性的な愛情に加えて、男女の愛情が入ってきていることで頭が混乱している。
そのような彼女を見て、キルバギリーが珍しいものを見たような表情になっていた。
「ムッちゃん……私にも言って! リゥパお姉ちゃんって言って!」
リゥパがたまらずムツキにそう要求した。彼女はあまり年齢を感じさせる表現を好まないのだが、子ども姿のムツキにはお姉ちゃんと呼んでほしくなり、目をキラキラさせながら懇願している。
「えーっと、リゥパお姉ちゃん?」
「きゃー! 子どものときのムッちゃん、かわいすぎー!」
余りの嬉しさに、リゥパは数度飛び跳ねた後にムツキの顔に頬ずりをした。ナジュミネはリゥパの頭を押さえて離そうとするが、リゥパも負けじと彼に頬ずりを続けている。
「リゥパ、それしか言ってないぞ……あと、すごい頬ずりしてくるな……」
「んふふ♪ んふー♪」
普段、頬ずりをあまりされないからか、ムツキは照れ隠しのようにリゥパの言動にぶつぶつと言い始めた。リゥパはそれすらもかわいいと思い、笑みが零れ続けている。
「ダーリン! 僕も! 僕も!」
続いて、メイリが手を挙げて、ムツキに頼み始める。この頃には彼もみんなの反応が新鮮だからか、はたまた、これくらいのことで嬉しそうにするから気を良くしたのか、楽しそうに要求に応じていた。
「メイリお姉ちゃん!」
「うおー! キュンキュンがギュンギュンだー♪」
「キュン……ギュン……? なんか……喜んでもらえたのだけは分かるよ……」
メイリの表現に理解が追い付かず、ムツキは苦笑いをしていた。
「つまり、胸の高鳴りがすごくて高揚しちゃった結果、心だけじゃなくて全身が非常に力強く勢いのある動きになった状態……かな」
「……ありがとう、メイリ。真面目に解説してくれて」
メイリがいつになく真面目に解説してきたので、ムツキは素直に礼を言った。
「えっと、俺も……いいかな?」
「お、珍しいな! えっと、コイハお姉ちゃん……」
いつも少し引っ込み思案で一歩後ろで物欲しそうに我慢しているコイハが珍しくムツキに要求してきたので、彼も思わず嬉しくなって少しはにかみながら呼んでみた。
「……ふっ……これは……効……く……」
コイハはそう呟いた後、満足そうな笑みを浮かべて膝から崩れることもなく、身体を真っ直ぐ棒状にしたまま倒れた。
「コイハ! 大丈夫か!? 急に固まって倒れたけど!」
コイハはしっぽをぶんぶんと振ってムツキに返事をする。彼と目を合わせないようにしているのはとても恥ずかしがっているからだ。
「はい! マスター、ここは公平に! 私にもお願いします!」
先ほどまで思案顔でムツキを眺めていたキルバギリーだったが、周りの状況を見て羨ましくなったのか、彼にみんなと同じ要求をした。彼はゆっくりと縦に頷く。
「キルバギリーお姉ちゃん」
「……オーバーヒートしそうです」
「しそうですって……煙出ているけど、大丈夫か!?」
キルバギリーはニコッと笑った後に動きがそのまま停止していた。煙は出っ放しである。
ユウがようやくみんなを注意し始める。
「ムツキもみんなも……遊びすぎ! 不公平になるから全員が言われるまで待ったけど……いくら制限の指輪が効いているからって、ムツキは私でも完全に制限や制御ができないから、結局、いつもよりはスキルも高いんだからね? 朝のナジュみんみたいに暴走しないってだけで……みんなやりすぎると暴走する可能性はあるんだから!」
「……ごめんね……ユウちゃん……許して?」
ムツキはユウに怒られて、サラフェの時同様にシュンとなってしまう。その状態のまま、子どものときに呼んでいた呼び方で彼は彼女のことを呼んだ。
「はうっ……ダメだよ……この頃のムツキ……超絶かわいい……何されても許しちゃう……もう怒れない……ズルい……」
「俺が小さい頃にユウをそう呼ばせていて、毎回、このやり取りしていたよな……」
ムツキがそろそろ真面目に、何でこうなったのかとか、元に戻るにはどうすればいいのかとか、を考えようと皆に言おうとしたところで、ナジュミネが彼をぎゅーっと抱きしめる。
「旦那様! 妾にも! 妾にも! 妾もお姉ちゃんって言ってほしい」
「あ、そうだよな……ナジュミネお姉ちゃん?」
「え」
「え」
「え」
「え」
「え」
「え」
「んんっ……一生離さない!」
「ムッちゃん……ナジュミネにしちゃダメでしょ……なんで悪化させるのよ……」
ナジュミネ以外の女の子が全員、びっくりした顔でムツキの方を見つめていた。
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