4-Ex3. 父親に後押しされたから少しだけ正直になった(2/2)
約2,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
仄暗い部屋、雰囲気も良い中で、ムツキとサラフェの猫を撫でながらの他愛もない会話が始まる。
「それで、お義父さんのことだけど、サラフェのことを溺愛していたし、ナジュのお父さんとは少し違うけど、勢いはやっぱりすごくて……」
ムツキは今日見たサラパパのことを思い出して話し始めた。彼との決闘で驚かされたのはもちろんあるものの、それよりも印象的だったのはやはり彼の娘への愛情の深さである。
サラパパは剣の勇者を辞退する際に、今までの功労から生まれた地域の領主となった。その領地は決して世界樹の樹海に近くない。
この世界には、主な移動手段がまだ馬車ぐらいしかない。娘に会うため、ムツキを見定めるために、彼が遠路はるばる来たことはとても大変でよほどのことだった。
サラフェもそのことを分かっているからか、今日のサラパパの娘を思う素直過ぎる行動に心を揺り動かされ、少しだけ素直な気持ちを口に出せるようになったのだ。
「えっと、それに、娘のことをあれだけ心配できるのは、すごく良い人なんだろうなって思って安心したよ」
「……当たり前です。サラフェの自慢のお父様ですよ? もちろん、あまりにも過保護ですから、だいたいは厄介だと思うばかりですけど」
普段は父親に悪態を吐くサラフェだが、彼女なりに父親の愛情を受け取っており、自慢の父親と豪語していた。
「厄介……なのか?」
「もしかしたら、今度挨拶しに行ったときに、いきなりムツキさんのことを刺すかもしれませんね」
「あはは……そんな……まさかね?」
ムツキはさすがに認めると言われたからそんなことはないだろうと思った。しかし、サラフェはあたらずといえども遠からず、サラパパのことを十分に理解していることが窺える冗談を披露する。
もちろん、彼女にしても冗談で言っている節がある。本当にサラパパがそう思っているとは、彼女も夢にも思わない。
「……ふふふ。そうですね。でも、とってもひどいんですよ?」
サラフェは少し嬉しそうにいくつかエピソードをムツキに話す。そのエピソードたちはどれもサラパパが暴走気味であり、同時にやはり深い愛情を持っているからこそ、そのような行動をしてみせるのだと容易に理解できた。
行動そのものはいずれもやはり褒められたものではない点もサラパパらしさがある。
「あはは……お義父さんはすごい面白いな。面白いだけじゃなくて、なんだかんだで行動力もあるし、闘いも強かったしな。前の剣の勇者って言っていたけど、さすが水の勇者の父親だなって思ったよ」
「まあ、サラフェももう、元とか前とか言われる立場ですよ。手続きを済ませて、水の勇者ではなくなりました。今は地方領主の娘という肩書だけですよ」
「いや、そんなことはないぞ」
ムツキはサラフェの言葉に首をゆっくりと横に振った。
「え?」
「いや、俺の妻だからさ。その肩書? を忘れないでほしい」
「ふふふ……そうでしたね。4番目ですけどね」
「順番はどうしてもできてしまうが、順番で愛情の量を変えないぞ」
ムツキは真剣な眼差しでサラフェを見つめる。その眼差しにサラフェは自分の顔が赤くなっていくことを感じ、明かりが仄暗くてよかったと安堵した。
「そうですね。ムツキさんはそういう人ですね」
「あの時は本当にありがとうな。お義父さんと面と向かって、そういう話をするのは恥ずかしかったんじゃないか?」
「もちろん、恥ずかしかったですよ」
「そ、そうか……」
「でも」
「でも?」
「恥ずかしかったけれど、お父様がここまで来てくれて、やはり、サラフェも自分に素直になって行動をしなければ、と思いました。だから……サラフェはムツキさんのことを愛していると素直に伝えることができました」
「……あ、ありがとう」
ムツキの言葉に、サラフェは小さな溜め息を吐いた。
「……そこはお礼じゃなく、サラフェのことをどう想っているかを言ってくれるところでは?」
「あ、あぁ、そうだな……俺はサラフェを愛している」
「……他の人は?」
「意地悪を言わないでくれ……。ここで、も、は違うと思ったから……。みんな、愛しているんだ。俺の大事な妻だから」
サラフェの意地悪な物言いにムツキは困ったように頭を静かにポリポリと掻いている。
「ふふふ」
「あはは」
サラフェが小さく意地悪な笑みを浮かべて笑い、それにつられてムツキも小さく笑う。2人だけでこのような時間を持ったことのなかったからか、彼も彼女も新鮮な感じがした。一線を引いていた彼女が確実に彼に近付いている。
「……ん」
「いいのか?」
やがて、サラフェはムツキの方をしばし見つめた後にゆっくりと目を閉じて、唇を少し突き出す。彼はここまで進むとは思わず、彼女に確認してしまう。
「……優しいキスまでなら。まったく……女性にそういうことを言わせるのが趣味でなければ、雰囲気で察してください」
「あ、あぁ……」
ムツキは手を猫から離して、そのままサラフェの肩に優しく触れ、少し抱き寄せるようにキスをする。
付き合い始めの恋人がするような、唇どうしを軽く触れさせるような、ライトキス。
彼女が目を開くと潤んだ瞳で彼を再び見つめた。
「この先は……また覚悟が決まったときにお伝えします」
「覚悟って……まあ、焦らずにゆっくりと愛を紡いでいけばいいさ」
「愛を紡ぐ……ですか……ちょっとそのキザな言い方は減点ですね。サラフェは好みません」
「えぇ……そうか……覚えておく」
その後、ムツキは仔猫を回収してサラフェの部屋から出た。
「っ……」
彼女は扉が閉じた後すぐ、我に返ったように顔が真っ赤になり、無言のままベッドにうつ伏せになって身悶えていた。
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