3-Ex9. 少しの間だが過保護ホラーになった
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
アニミダックが一緒に住むことが決定し、夕食までは一旦解散となった。アニミダックには少し狭めの空き部屋があてがわれることになり、ケットとクーがそこへ連れて行く。リゥパ、サラフェ、キルバギリー、メイリは、自室へと戻っていった。
これはその後の話である。
「ユウ、愛しているよ」
「えー、さっきから、そればっかりー♪」
ムツキはユウを両腕でしっかりと抱き寄せていた。彼女はとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、彼の抱擁を喜んでいる。
「もう離さないぞ」
「やーん♪ こんなにギュってしてくれるムツキ、久しぶりー♪」
ムツキは普段あまり言わないような甘い言葉でユウの心をくすぐっており、愛情表現がかなり露骨になっている。
「ユウはご機嫌だな」
「あ、姐御。まあ、普段、ユウは俺たちに遠慮しているのか、あまりハビーと関わらないからな。もしかしたら、ハビーから関わるのを期待しているだけなのかもしれないが」
ナジュミネとコイハが少し離れた所でムツキとユウを眺めながら会話をしている。
「またどこかに遊びに行こうな。皆でもいいし、二人きりでもいいぞ」
「本当? また皆で海とかもいいね! 今度はダイビングがしたいなー♪」
「ダイビングか。魚やサンゴが綺麗な海をレヴィアに教えてもらおうな」
「やったー! ムツキ、大好き♪」
ムツキはユウの頭を撫でながら、外出の約束を取り付けている。
「コイハ、尻尾がしょんぼりしているが、何気に旦那様にモフモフされたいと思っているな?」
「まあ、そうだけど……あれじゃ、無理そうだからな。そういう姐御こそ、この部屋をうろつき回ってばかりだけど、ハビーに甘えたいからじゃないのか?」
「む……まったくもってその通りだ。しかし、旦那様はユウを離す気配がないから、残念だが、そろそろ妾も自室に戻ろうかと思っているところだ」
「俺も戻るとするかな」
ナジュミネとコイハがそろそろ自室へ戻ろうとするところで問題が起きた。
「あ、ムツキ」
「ん?」
「あの、ちょっとお花を摘みに行きたいなー」
「そうか。よし」
ムツキはそう言うと、ユウを抱き締めたまま、ロッキングチェアか立ち上がり、トイレの方へと向かおうとする。彼女は少し驚いて、パタパタと手足を動かす。
「え? ちょっと待って。ストップ。え? なんで私運ばれてるの? 一人で行けるよ?」
ユウがそう言いながら、ムツキの方を向くと、彼は優しく微笑みながら口を開く。
「もう離さないぞ」
「え……っと?」
「ユウがもう勝手にどっか行かないように、もう離さないぞ」
「え? え? 嘘だよね? え、トイレにもついてくるの? まさか中にまで入ってこないよね? トイレの前で待ってくれるってことだよね? そうだよね!?」
「もう離さないぞ」
ユウには段々とムツキの貼りついたような笑顔と「離さないぞ」の連呼から狂気を感じ取り、真夏の夜のホラーのようだと思い始める。少し怖くなって、力いっぱいに彼を押しのけようとするも、彼は最強であり、女神である彼女でさえも敵わなかった。
「やだー! トイレは1人で行かせてよ! 女の子のトイレに付き合うのはダメだよ!」
「そう言って、どこかに行ってしまうかもしれない。だから、離せないな」
ムツキの真顔はどこか物憂げな感じだが、やはり内容は狂気じみていた。
「やだよ! こうなったら、【テレポート】! ……なんで……発動しないの?」
「俺の周りに【テレポート】キャンセルをつけてみた。これだと、俺以外の【テレポート】は発動しなくなるんだ。さあ、行こうか」
「や、やだー! 女の子の尊厳が! ムツキの変態! 変態! 変態―っ!」
「何を言われても、もう離さないぞ」
「あ、あぁ……そんな……ナジュみん! コイはん! 助けて! お願い!」
ユウの顔が青ざめる。その後、彼女は近くにいたナジュミネとコイハに助けを求め始めた。
「妾は決まっている。旦那様のしたいようにしたらいいと思う。妾は旦那様の意思を尊重したい。そのために全力を尽くそう」
「俺もハビーの意見を尊重する」
ナジュミネとコイハが少し意地悪な笑みを浮かべて、先ほど言った言葉をそのまま使う。
「それ、さっきのアニミダックの時に言ったセリフの焼き直しじゃない! そんなこと言わないで助けてよー! このままじゃ漏れちゃうよー!」
「今日のユウは、まあ、ひどかったらしいからな。少しはお仕置きが必要かなってな」
「メイリにひどいことを言ったらしいしな」
「わーん! ごめんなさーい! もうワガママ言わない! お願いだから、助けてー!」
最終的に、反省内容としていくつかの条件を付けられて、ユウはムツキから少しだけ解放されることになった。
最後までお読みいただきありがとうございました。




