3-48. いろいろあったが更生させることにした(1/2)
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楽しんでもらえますと幸いです。
樹海近くのムツキの家。
ムツキは全員をテレポートで連れて帰り、椅子に座ってメイリとユウを膝の上に乗せている。彼はメイリに【ヒーリング】をゆっくりと施しつつ、幼女姿のユウをしっかりと抱き寄せて離さないようにしていた。
「まさか、アニミダックまで連れてくるとはな……」
クーが呆れたような声を出し、その視線の先にはボロボロのアニミダックの姿があった。
「…………」
アニミダックは嫌そうな顔をして無言で佇む。彼はユウに取り付けられた封印の腕輪によって、能力を著しく制限されてしまっていた。彼が今できるのは、数本の触手を破壊や暴力以外に使用することだけである。
「旦那様……正気か? こいつをここに住まわせる、と?」
ナジュミネの問いに、ムツキは彼女の方を見つめる。
「まだ決めたわけじゃない。俺はそうした方がいいと思っているだけだ。こんな奴だけど、どんな奴でも立ち直れる機会はあった方がいいと思っている。だから、皆の意見を聞きたいんだ。特にひどい目に遭ったメイリ、キルバギリー、ケット、クー、そして、ユウの意見が聞きたい。もちろん、ナジュやリゥパ、サラフェ、コイハ、みんなの意見も」
ムツキはそういう前置きをしつつ、周りを見渡す。先ほどの哀れな演劇を見た後では、アニミダックに対する女の子たちの心証は決して悪くない。彼が弱体化されているなら、なおのことである。
「……主様、否定とか肯定とかの前に聞くが、ハーレムの女の子を増やすのとは、わけが違うことくらい分かるだろう?」
クーはムツキにそう問い、ムツキはクーを真っ直ぐに見つめて肯く。
「分かっているんだ。ただ、絶対に制限なしに野放しにはできない。でも、この封印の腕輪を付けたアニミダックが外で野垂れ死ぬのも……その夢見が悪いというか……ちょっと俺の顔に似ているのもあって、なんだか……」
ムツキの言葉は歯切れが悪くなっている。彼に理屈などなく、ただ彼の気持ちの問題なのだ。それを理解できるからこそ、クーはそこを追及せずに、ただ1回だけ小さな溜め息を吐いた。
「まあ、決していいとは思わないが、俺は主様の最終的に決めたことに従う。それは変わらない。だが、主様、生き物なんだからきちんと世話をしないといけないんだぞ? 主様はちゃんと世話をできるのか?」
全員が不意に来たこぼれそうな笑いをこらえて唾をゴクリと飲み込む。見た目が犬のクーに、まるで仔犬を拾ってきた子どものようにムツキがそう言われているからだ。
メイリでさえもさすがにこの状況で大笑いするのは躊躇われるようだ。結局、誰もがツッコんでいいものか迷った挙句、ムツキの方を見る。彼はしばらく悩んだ後に頷く。
「あ、あぁ……がんばって、世話をするから、いいかな?」
全員がコケる。自分の世話も満足にできないムツキのその返答は、普通の子ども以上にまったく当てにならない。そもそも、アニミダックが仔犬扱いのままである。
「おい、俺は何扱いだよ……」
「ま、まあ……ご主人にお世話とか無理だから、世話をするニャら、オイラたちがアニミダックの世話をするニャ」
アニミダックはぼそっと不平を漏らす。それを流し見しつつ、ケットは会話をフォローするように入る
「いいのか?」
「大丈夫ニャ! それに、アニミダックはニャんだかんだで古くからの知り合いニャ。ワガママで嫌ニャ奴だけど、悪い奴じゃニャいニャ。すっごい嫌ニャ奴だけどニャ!」
「ケットが嫌な奴と2回も念押しで言っているのは珍しいな……」
ケットはケットでアニミダックへの本音が漏れている。
「私は、キルバギリーときちんと名前を呼ぶのであれば、許しましょう。ただし、またラ……何とかと言ったら……決して許しません……マスターに何と言われようと元の場所に戻してきます」
「…………」
キルバギリーもまた、アニミダックを仔犬のように扱っている。
「僕は、まあ、すっごい嫌だけど……ムカムカするけど……でも、ダーリンに賛成する。こいつ、一人だと何をしでかすか分からないし、むしろ、ここで更生させた方が絶対いいと思う。ユウもいるから、滅多なことしないと思うし」
「…………」
ムツキはキルバギリーとメイリの言葉を聞いて頷き、アニミダックはどの言葉も無言で聞いている。
「そうか。キルバギリー、メイリ、意見をありがとう。ユウはどうだ?」
ユウは自分を抱えているムツキの腕をギュッと掴む。
「ムツキ、私にそれ聞くのってちょっとだけ残酷だよね……」
「ごめん、分かっている。でも、聞かないとダメなんだ」
ムツキは静かにそう呟いた。
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