3-38. かわいいがそれだけじゃない!(1/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
「こんな山の中にアニミダックがいるのか?」
岩肌が目立つ山の中、ムツキはサラフェをお姫様抱っこして【レビテーション】で空からキルバギリーの魔力を探していた。
「……そのようです」
「そんなギュッと抱き着かなくても落としたりしないよ。それとも、コイハと同じで高い所が怖かったのか? いや、でも、前に空飛んでいたよな?」
サラフェは嬉しいような恥ずかしいようなで、顔を見られないように両腕をムツキの首にしっかりと回して、俯き気味に抱き着いていた。
「っ! 魔力探知に集中させてください!」
「あ、ごめん……」
ムツキは最初、コイハの方が適役かと思っていたが、どうやら彼女は高所恐怖症らしく、空だとガタガタ震えて縮こまってしまうことが分かった。ムツキも彼女に怖い思いをさせることはさせたくないので、サラフェに頼んだのだ。
サラフェは素直になれず少し不服そうな顔をしつつ、渋々了承するという形で引き受けたのである。
「あ、いえ、怒っているわけではありませんから……やはり、キルバギリーの魔力をあちらから感じます。ちょっとあの辺りに下ろしてもらえますか?」
ムツキはサラフェの指示に素直に従って岩山に降り立つ。そこはたしかにユウが見つけた場所と同じだった。
「やはり、この隙間ですね。中が洞窟のようになっているのでしょう」
ムツキはお姫様抱っこしたままのサラフェを自らギュッと強めに抱き締める。彼女は少し驚くも、嫌悪感なく仕方ないといった様子で受け入れていた。
キルバギリーがこの姿を見ていれば、サラフェが素直になる日も近いと感じたことだろう。
「ありがとう。たしかに、なんとなく分かるぞ。遠くから分かるなんて、サラフェは本当にすごいな! ちょっと戻って皆を【テレポーテーション】で呼んでくる。すぐに来るから待っててくれ」
「……分かりました」
ムツキはサラフェを下ろしてから、そのまま【テレポーテーション】を繰り返し始める。やがて、ナジュミネ、コイハ、メイリの姿になっているリゥパ、そして、猫や犬、ウサギで構成されている戦闘特化の精鋭が集うモフモフ軍隊が集結した。
ナジュミネはいつもの軍服に加えて、服とお揃いの帽子まで身に着け、完全に正装状態だった。
「よし、これで全員だな。それじゃあ、行こう」
ムツキは内心焦っているので、気持ちが急いでいた。それを危ないと見たナジュミネが彼を制止する。
「旦那様、待ってくれ。作戦を考えよう。まず、2つに分かれることにしよう。旦那様、サラフェ、メ……リゥパはアニミダックの所まで直接進んでくれ。妾とコイハとモフモフ軍隊は最初の部屋で露払いをしよう」
「ニャ!」
「バウ!」
「プゥ!」
ナジュミネはコイハとモフモフ軍隊の方へと寄り、サラフェとリゥパをムツキの方へと寄せる。
「……二手に分かれるのはいいが、最初の部屋とか言っているが、ナジュには中がどうなっているのか分かるのか?」
ムツキはモフモフ軍隊の活躍を目に焼き付けたかった気持ちを抑えて、ナジュミネに問う。彼の問いに彼女は手のひらを肩の高さまで上げて、「さあ?」といったポーズと表情をする。
しかし、彼女の表情はどこか自信を漂わせており、その作戦に変更の予定がないことを周りに思わせる。
「いや? だが、数自慢や力自慢の輩ほど、最初の部屋にバカみたいな戦力を置いて士気を下げようとするだろうからな。洞窟内を荒らされたり、ユウや自分に近付かれたくなかったりするなら、なおのことそうするだろう」
ナジュミネは腕を組み、右手の人差し指を振りながら説明を続ける。
「つまり、入り口付近をまず抑えれば、後はそれほどの戦力を置いていないだろうから奥まですっと行けるだろう。だが、途中にも触手はあるだろう。だから、その時はサラフェ、メイ……じゃなかったリゥパ、旦那様のフォローを頼んだぞ。アニミダックに勝てるのは、旦那様しかいない。旦那様に最短ルートで案内してほしい」
リゥパが少し肩を落としながら、怒るに怒れないといった表情でナジュミネの方を見る。
「それは分かったんだけど、ちょいちょいメイリって言いかけるのはどうにかならない?」
「すまぬ。どうしても、メイリにしか見えないから咄嗟にリゥパの名前が出てこない……」
ナジュミネとリゥパのやり取りにムツキが間に入る。
「ま、まあ、ともかく、行くぞ! まずは家の扉のお返しに入り口を吹き飛ばす! 【コンプレッシヴ】【トルネード】」
ムツキは両手を突き出して、掌から風魔法を放つ。拳大の大きさの竜巻が龍のように捩れうねりながら、目の前の岩々を吹き飛ばしていき、やがて、天へと消えていく。
岩々がなくなった所からは、誰もが異様な魔力を感じ取れるようになった。
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