3-31. 竜王の所に来てみたが女神様は来ていなかった(1/3)
約1,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキが【テレポーテーション】でやって来た所は少し前に訪れた海だ。どこまでも青い空が続き、熱い日差しが燦々と照りつけ、白い砂と薄青色の海が眩しいビーチである。
「ユウ……。よくよく考えたら、【バリア】を意図的に解除してないから、まだ俺のことを必要としているよな……多分だけど。早く見つけてやらないと……」
ムツキは声を枯らすほど楽しそうに笑顔を振りまいていたユウを思い出し、彼女に何かが起こってしまったと考え、必ず探し出さないといけないと決意する。その後、彼は海に向かって、大声を出し始めた。
「おーい! レヴィア! いるんだろう? 俺だ! ムツキだ! ユウのことで聞きたいことがあるんだ!」
ムツキのその言葉が海へと消えていく。ムツキはそれから数分程度、何も言わずに待機していた。やがて、青かった空に局所的に暗雲が立ち込め、海が荒れ始め、大きな波が立ち始めている。海の沖の方から、世界樹の幹よりも太いものが連山の稜線を思わせるように海からいくつも出てきている。
「レヴィア! 久しぶり!」
ムツキがその声を掛けると、恐ろしいほどに大きな蛇の顔が現れる。竜王レヴィアだ。世界樹ならぬ世界蛇とも言われるが、竜族の王である。正確には女性体らしく女王だが、言いづらいこともあり王と呼ばれる。
レヴィアは全体的に鮮やかな緑色、エメラルドグリーンの輝きを放ち、光の加減によっては虹色に光っているようにも見えていた。鱗1つ1つの大きさでさえ、人族の大きさを遥かに超えており、その鱗がびっしりと生えている身体は世界の海の全てに這わされていると言われているほどに大きく長い。
彼女の鋭い牙から滴り落ちるのは強力な毒であり、毒蛇の王ニドとは系統の異なる毒を有している。
「…………」
レヴィアはそのルビーのような赤色の輝く瞳をムツキに向けて、ぱちくりとさせている。蛇のような顔つきだが、牙のほかに細かい歯といっても人族よりも大きな歯がびっしりと生えている。
彼女は彼をしばらく凝視した後に、大きな口を全開にする。
「あらま、ムツキはん、お久しぶりやねえ。この前、海まで来てくれはった時には、ユースアウィス様に先に言われとって、顔まで出さんかったからねえ。なんでも、蛇が苦手なお嬢さんがおらはったんかな? ウチ、蛇やないんやけど、見た目はたしかに蛇みたいなもんやからね。しゃあないから遠くから見守ってたんやんかあ」
「そうなのか。ありがとうな。ごめんな、ユウとちゃんと話せる機会がなくて」
「かまへんよ。ウチ、人見知りやから、あないなぎょうさんで来られても、よう顔出せんのよ。あ、別に嫌みで言うてないんよ? ところで、そんな楽しそうに大きい声張り上げんでもウチには聞こえますけど、どないしはったん?」
レヴィアはその大きさと威圧感からは想像できないほどに柔らかな物言いであった。その大きさや見た目から邪悪な存在に当てはめられることも多いが、実際はのんびりとした平和主義者である。
ただし、柔らかな物言いはそのまま解釈するのではなく、多少、裏の意図を読み取りながら話をする必要がある。ムツキは、レヴィアの言い回しが前の世界でも少し苦手としていたこともあり、気まずそうな表情をする。
「あ……うるさくて、すまなかった。ちょっと焦っていて。ってか、遠回しに言わなくていいから、普通に文句言ってくれてもいいからな?」
「えー、いややわ、文句なんて1つも言うてないんやんかあ。ムツキはん、何や知らんけど、気にし過ぎやねえ」
レヴィアはニッコリと笑顔を浮かべながら、ムツキにそう言う。この笑顔は、よく分かっていてよろしい、という相手を褒めている時の笑顔である。
「あ、あぁ……まあ、いいか。えっと、実はユウが一週間近く家に帰ってきてないんだ。何か知らないかと思って」
「えー、ユースアウィス様、おらんの? そら、かなんなあ……えっと、なんやったか、その、【コール】やったかモールスやったか? それは使えへんの?」
レヴィアはユウがいないということに少し心配を覚えたようで、ムツキが困っていることもあり、一緒に何か対応策を考えてくれる様子を彼に示していた。
「それがダメなんだ……出てくれないんだよ……理由が分からないんだ」
「そら、あかんなあ……まさか連絡もせんと一週間ものんびりと茶でもしばいているってわけないもんなあ……」
「その様子だとレヴィアもユウの場所とか分からないか?」
ムツキがそう訊ねると、レヴィアはここ最近のことを思い出しながら頭を少し揺らしている。その後、首を傾げつつもゆっくりと話し始める。
「せやねえ……まあ、強いて? 言うんやったら、どの海の近くもユースアウィス様は移動してないんとちゃうかなあ。前にみんなで来てくれはった時より後にユースアウィス様の気配を海の近くで感じてないんよね」
「ほんまか……じゃなかった……そうか、何かほかに気付いたことはないか?」
思わずムツキに訛りが移っていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




