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チンピラ界のアイドル

 パメラの子分が言っていた「奴ら」というのは、パメラたちが対立していたチンピラグループのことらしい。

 グループの構成員はかなり多く、二十人を超える。


 複数のチンピラグループを吸収合併することで、最近になって急速に拡大したグループだそうで、パメラたちのことも支配下に収めようとしたらしいが、パメラがこれを拒否したため、ちょっとした対立状態みたいになっていたんだとか。


 ちなみに、長い物には巻かれろ主義のパメラがなぜこれを拒否したのかを聞くと、


「だってなんかザコっぽいんだもん」


 という答えが返ってきた。

 パメラの世界は、だいたい「なんか~~っぽい」という価値判断で構築されている気がする。


 で、そんな話を聞きながら、パメラが呼び出しを受けたという場所まで到着。

 そこは街でも比較的貧しい人たちが居住するスラム街の一角で、路地裏のどん詰まり、ちょっと広めといった感じの場所だった。


 そんな場所に、チンピラ風の男たちが十人ほど、へらへら笑いを浮かべながら待ち受けていた。

 そしてその足元には、ロープでぐるぐる巻きにされた、パメラの子分の一人が転がされていた。

 その子分はやはり、顔やら全身やら、青あざだらけのボコボコ状態である。


「──いよぉパメラ、よく来たなぁ」


 その声は、路地の奥から聞こえてきた。

 チンピラたちの人垣が割れ、一人の男が前に出てくる。


 出てきたのは、ちょびっとだけ知性のありそうな、でもやっぱりチンピラっていう感じの男だった。

 ちょっとガタイが良くて、ちょっと筋肉ムキムキな感じの、まだ若いあんちゃんである。


 ステータス鑑定をしてみると、周りのモブが総じて1レベルなところ、こいつだけ2レベルだった。

 なるほど、チンピラ界は総じて人材不足のようだ。


「おう、来たよ。──で、何の用だ?」


 パメラが前に出て、チンピラリーダーと対峙する。

 両者の距離は、五メートルほどか。


 背後にチンピラの群れを従えたリーダーが、その口元を歪める。


「はっ、言わなくても分かってんだろぉ? なぁ、パメラ」


「分かんねぇよ。用があんならはっきり言いな」


「……ちっ、しょうがねぇな。もう一度だけ言ってやるから、耳かっぽじってよぉく聞けや」


 そう言って、チンピラリーダーは──なぜか、ちょっともじもじした。

 そして、口を開く。


「なぁ、パメラ……お、俺の女になれよ」


 …………。


 ……えっと、ごめん、よく聞こえなかった。

 いま、何だって?


 しかしそれに、パメラはやれやれという態度で答える。


「はっ、バァカ。前から言ってんだろ──だったらテメェの腕で、あたしを屈服させてみろ、ってな。──それによ」


 言ってパメラは、俺の横に戻ってくると、いつも通りに左腕にぎゅっと抱き着いてくる。


「もうあたし、ダーリンのものだから。残念でしたー。……な、分かったら、もうあたしにちょっかいかけてくんなよな。ばいばーい」


 そう言ってパメラは、俺を引き連れてその場を立ち去ろうとする。


 ……えっと、なんか聞いてた話とだいぶ違う気がするんだが?

 いや、支配下に収める、イコール俺のモノ、イコール俺の女、と考えると──ニュアンスはだいぶ違うが、間違ってはいない、のか?


「くっ──おい、待てよパメラ! ──こいつがどうなってもいいのか!」


 しかしチンピラリーダーは、諦めなかった。

 足元に転がっていたパメラの子分を、その服の背を引っ張り上げて立たせ、その喉元に、腰から引き抜いたナイフを突きつける。


「──ちっ」


 俺の腕に張り付いたパメラが、その足を止め、小さく舌打ちをした。

 うつむいていて、その表情は見えない。


 一方のチンピラリーダーは、形勢逆転とばかりに、くっくっと笑い始める。


「──分かるだろ、パメラぁ? 俺ぁなぁ、欲しいものは何でも手に入れんだよ。そのためには、手段は選ばねぇ。……さぁ、これでお前は俺のモンだ。こっちに来いよ、パメラ。可愛がってやるからよぉ」


 そう言って、高らかに笑うチンピラリーダー。


 うーむ……潔いと言えば潔い。

 生まれた世界が世界なら、こいつ物語の主人公になれた逸材なんじゃないだろうか。


 だけど、残念。

 実際の彼は、チンピラの星のもとに生まれたモブに過ぎず。

 その分際で、うちの飼い犬を勝手に自分のモノにしようとした、その罪はちょびっと重い。


「──パメラ、ちょっと離れてろ」


「えっ……ダーリン?」


 俺は自分の腕に張り付いているパメラを、そっと離れさせる。

 その俺を見て、怪訝そうな顔をするチンピラリーダー。


「──あん? なんだぁ、優男さんよぉ? 少しでもおかしな真似してみろ、こいつがどうなるか──って痛ででででっ!」


 俺はチンピラリーダーの、ナイフを持っている手の手首をつかみ、ちょっとだけ力を入れてひねり上げた。


 別に瞬間移動した、というわけでもなく、普通に駆け寄ったわけだが──チンピラクラスのステータスでは、目にも止まらなかったのではないか、と思われる。


 そして俺はそのまま、パメラの子分を救出して、唖然とするチンピラたちの視線を一身に浴びながら、歩いてパメラのもとに戻った。


 ……にしても、人質に取られてるほうもチンピラだと、どうも潤いに欠けるな。

 まったく、やる気が削がれるわ。


「て、テメェ……いま何しやがった……!」


 チンピラリーダーが、ナイフを取り落として力が入らなくなった風の手をぷるぷるさせながら、怒鳴りつけてくる。

 相手するのもめんどくさいな。


「──パメラ、あとよろしく」


「お、おう。……ありがと、ダーリン」


 パメラの手をパンと叩いて、バトンタッチ。

 ──ま、あとは頑張ってくれ。


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