うちの子たちの無双
館にいるオークは、全部で八体。
はっきり言って、雑魚の一般オークたちは、まったく取るに足らない相手だった。
まずは一階の食糧庫でつまみ食いをしていた二体のオーク。
「ティト、パメラ。やーっておしまい」
「はい、カイルさん! ウィンドスラッシュ!」
「あいよ、ダーリン! ──てりゃあっ!」
「「ブヒィイイイイイッ!」」
食糧庫にいた二体のオークは、口元を肉の脂でべとべとにしながら振り返ったと同時に、片やティトの魔法で切り刻まれ、片やパメラの蹴りで吹っ飛んで、ともに動かなくなった。
ハイタッチをするティトとパメラのもとに行って、よくやったと褒めてやる。
するとパメラが、
「んっ」
「……何だよパメラ。頭差し出して」
「分かんだろ。ほら、いつもの」
「えっと……これか?」
催促するように頭を差し出してきたパメラに、とりあえず頭なでなで。
「えへへー」
パメラは嬉しそうにしながら、俺に身を寄せるようにしてすり寄ってきた。
いつもながらに、くっそ可愛い。
一方ティトは、その様子を「むー」っと唸りながら、羨ましげに見ていた。
「えっと……ティトもか?」
俺がそう聞くと、ティトはぶんぶんと頭を横に振る。
「い、いまは溜めてるんです。誘惑しないでください」
「誘惑……? いや、溜めてるって、何を」
「カイルさんとラブラブしたいゲージです。いま300%ぐらいまで溜まってます」
「はあ」
よく分からないが、そういうことらしかった。
溜めすぎて爆発したりしないといいが。
で、一階にいたオークは、それで終了。
次に二階にいる、四体のオークを倒しにいく。
階段を上って二階に出ようとすると、階下の様子を見にきた一体のオークと鉢合わせになった。
「ブヒィッ!? な、何だお前たちは! ──くそっ、死ねブヒッ!」
「えっと、邪魔」
俺はとりあえず、慌てて手斧で攻撃してくるそいつの一撃を片手で弾き飛ばしてから、もう片方の手でがら空きになったそのオークの腹にパンチを入れる。
オークは砲弾のような勢いで後ろに吹き飛んで、その先にあった壁に轟音をたててぶつかった。
そのまま崩れ落ちるそいつを尻目に二階へと上がる。
俺のあとをついて上がってきたパメラが、
「うへぇ……ダーリン怖ぇ……」
なんて言って、崩れ落ちたオークを横目に見てドン引きしていた。
まあさておき。
俺たちが二階へと上がると、その目の前のホールには、慌てて武器を手に取って戦闘態勢を整えたオークたちがいた。
「えっと、残りは三体か。ならティトとパメラ──あと、アルトも加勢してやってくれ」
「分かったよ。ただし僕は僕で、勝手にやらせてもらう」
俺の要請にそう答えたアルトは、さっそくとばかりに動いて、オークの一体に向かって滑るように疾駆していった。
「ブヒィッ!? は、速っ……!」
「──お前たちが遅いんだ」
アルトは俊敏なステップを駆使して戸惑うオークの背面へと回り込むと、逆手に持った短剣でそのオークの首筋を掻き切った。
それからすぐさま、バックステップで残りのオークたちから距離を取る。
犠牲となったオークは、血しぶきをあげて倒れてゆく。
「ったく、ホント協調性ねぇなあいつ。──ティトっち、あたしたちも行くぜ!」
「オッケー、パメラちゃん!」
ティトが残る二体のオークに向けて魔法による風の刃を放ち、それでひるんだところに、駆け込んでいたパメラが蹴りの連打を叩き込む。
「「ブギャアアアアアッ!」」
パメラの蹴りで吹っ飛ばされてごろごろと転がり、やがてぱたりと動かなくなるオークたち。
そうして、二階にいた四体のオークも、あっという間に倒された。
よし。
これであとは、三階にいる将軍と、別のもう一体だけだな。
──と、思っていたら、
「……あんまり騒がしくしたから、向こうからお出ましのようよ」
後ろで高みの見物を決め込んでいたフェリルが、視線を前へと向けつつ淡々と述べる。
彼女の視線の先──オークたちがいたホールの向こう側の扉からは、ひときわ大きな図体を持った武装したオークが、窮屈そうに入り口をくぐって現れていた。
そしてその後ろから、別の一体のオークも姿を現す。
このオークは、木の杖とローブを身につけていて、首には小さな頭骸骨の束ねられたネックレスを着けていた。
「……オーク将軍、それにあっちはオーク法術士だね。今までのオークとは格が違うよ、カイル」
フェリルと同じく様子見に徹していたアイヴィが、腰から双剣を抜き、現れた二体のオークを眼光鋭く見据える。
ホールの中央に躍り出ていたパメラとアルトも、風格のある二体のオークを前にして後ずさり、警戒をあらわにしていた。
「へぇ、ボスが向こうから出てきたか。──あいつらやっぱ、強いのか?」
俺が何気なく聞くと、答えたのはフェリルの涼やかな声だった。
「──いいえ、ゴミね。人間から見たらどうだかは知らないけど、私が出れば一瞬よ。ましてカイル、あなたにとって敵になるような相手じゃない」
「そ、そりゃあ、フェリルとかカイルから見たら、そうかもしれないけどさぁ……モンスターランクで言って、B+ランクとBランクだよ? 普通の感覚だったら、結構ヤバいモンスターだよ?」
「だからそれがゴミだと言っているの」
「なるほどな……」
フェリルとアイヴィの意見で、だいたい敵戦力の塩梅がつかめた。
アイヴィ級の凄腕冒険者でも油断できないレベルだが、魔族のフェリルぐらいになれば箸にも棒にもかからない相手ってことか。
だったら──
「よし、アイヴィ」
「え、何、カイル?」
「お前とティト、パメラ、アルトの四人で、あの二体倒してみてくれ」
俺がそう伝えると、アイヴィは二秒間ほどフリーズした。
それから、
「──えぇぇえええっ! ほ、本気!?」
「ああ、本気も本気。危なくなったら助けてやるけど、俺の手助け一回ごとにアイヴィにお仕置き一回な」
「えーっ!? ティトちゃんとパメラちゃんのときはご褒美だったのに、どうしてボクのときはお仕置きなのさ!」
「いや、なんかそっちのほうが好きそうかなと。アイヴィもご褒美のほうがいいのか?」
「う、うん。そりゃそうだよ、ボクのことを何だと……。……いや、お仕置きも気にならないっていえば嘘になるけど……」
「分かった。んじゃノーミスでご褒美、ワンミスからお仕置き一回ずつな」
「えっと……あはは、変なの。でも分かった、やるよ。──ティトちゃん、パメラちゃん、アルト。そんなわけだから、いまだけボクの指示に従ってくれる?」
そんな感じでアイヴィは、三人の少女たちをまとめつつ、二体のボスオークに向かって行った。
一方、その様子を脇で見ていたフェリルは、あきれ顔で俺に語り掛けてくる。
「相変わらず、聞くに堪えない狂ったやり取りね。……それにしてもお仕置きって、一体何をするつもり?」
「いや、まだ考えてないが……とりあえず、アイヴィが喜びそうなことかな」
「……はあ、意味が分からない」
「フェリルもお仕置きされたい?」
「断るわ」
「そうか、そりゃ残念」
そんなやり取りをしつつ、俺とフェリルの二人は見物客へと回った。
とりあえず、アイヴィたちのお手並み拝見といこう。




