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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第八章 竜を崇める部族、あるいは子づくりを求める少女
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竜神様

「あらあらまあまあ、そんな大変なことがあったの」


 そうのんびりほんわかした口調で言ってきたのは、人間形態での見た目は三十代中頃ぐらいに見える、美人のお姉さんだった。


 糸目とウェーブのかかった若草色の髪が特徴的で、白のワンピースドレスを着たその姿は、なかなかに魅力的なものがある。


 なお俺がいまいる場所は、キッカの村から一時間ほどえっちらおっちら山を登ってきた先にある、山の中腹の大洞窟の中だ。


 その赤土の洞窟の一角には、カーペットにテーブルと椅子、果てはティーセットまで置かれた部屋があって、俺たちはいまその部屋にいた。

 どうやらこの部屋は、この洞窟を訪れた人間をもてなすためのものらしい。


 で、この洞窟の主というのが、いま俺の目の前にいるお姉さんなのだが──


 このお姉さん、その正体はドラゴンである。


 人間形態というのがあるらしくて、いまはその姿をしているが、さっきまでは緑色の鱗を持った体長十五メートルぐらいあるドラゴンの姿をしていた。


 それがぺかーっと光って、あれよあれよと小さくなって、いまの姿である。

 服とかどうなっているんだろうと思ったりもしたが、まあ野暮は聞くまい。


 ちなみにこのドラゴンのお姉さん、強さの区分としては老竜オールドドラゴンに該当し、御年おんとし千二百歳ぐらいだとか何とか。

 老竜オールドドラゴンっていうと、フェリルが勝てるかどうか分からないって言ってたランクだな。


 そして、もちろん彼女こそが、キッカが言っていた「竜神様」である。

 俺はキッカに連れられて、ちょっと顔を出しに来たという次第だった。


 なお、あまり大人数で押しかけても何だしってことで、ティトたちには洞窟の外で待ってもらっている。

 なので、いまこの場にいるのは、俺とキッカ、それにこのドラゴンのお姉さんだけだ。

 三人でテーブルを囲みながら、のんびりお茶をしていた。


「でもキッカちゃん、そんなに大変なことがあったなら、私に知らせてくれないと~。その悪い子にみんな殺されちゃってからじゃ遅かったんだから~」


「ぶー。だってじぃじが、竜神様には言いに行かなくていいって。オミミに入れるまでもない、自分たちの身は自分たちで守るんだって」


「あらあら、バトゥがそんなことを? あの子もちょっとカッコつけのところがあるから困ったものよね~。いい、キッカちゃん、そういうときはね、あの子も一緒に私のところに連れてきて。そうしたら私が、あの子にメッて叱ってあげるから」


「ん、分かった。じゃあ今度、じぃじも一緒に連れてくるね」


 ……うん、まあ、なんか色々とアレな会話だな。

 キッカの部族の長老を「あの子」呼ばわりとか、さすが千二百歳のお婆ちゃんは言うことが違う。


「それで~、あなたがキッカたちを助けてくれた、カイルくんだったかしら? どうもありがとうね~。──あ、ちょっと待ってて。いま良い物持ってくるから」


「あ、はい……。えっとお気になさらず」


「そう言わないで~。私たちドラゴンにとっては、自分が集めた宝物を誰かにあげるのは、親愛の証なのよ~」


 そう言って、お姉さんはとてとてと奥の部屋へと入って、しばらくすると戻ってきた。


「これなんかどうかしら~? 『投影対話の水晶球』っていうんだけれど、過去に行ったことのある場所の誰かと、いつでも交信ができる魔道具マジックアイテムなの。私が持っている宝物の中でも、秘宝中の秘宝なのよ~?」


 そう言ってお姉さんは、赤い布にくるまれた青い水晶球を、俺に差し出してくる。

 その大きさは両手で包み込めるほどで、持ってみると、いい感じの重量感がある。


「えっ、でも……そんな大事なもの、もらっちゃっていいんですか?」


「いいのよぉ~。私の大事なお友達を助けてくれたんだもの。このぐらいはさせてもらわないと~」


「はあ……」


 何と言うか色々とペースが狂うのだが、まあくれると言うなら貰っておこう。

 俺はありがたく、そのアイテムを頂戴することにする。


 ちなみにこのアイテム、チートポイント1ポイントを支払えば手に入れられたりもするのだが、それがチートポイントを支払わずに貰えたと考えると、わりとお得感ある。


 効果は、映像と音声で任意の場所の誰かと対話できるビデオチャット的なツールで、しかも相手方が媒体を持っていなくても使えるとあって、なかなかの優れモノだ。


「えーっと、それでカイルくんたちは、いったい何をしにこの竜の谷を訪れたのかしら?」


 お姉さんが話題を変えるようにそう言って、可愛らしく小首を傾げる。

 ああ、はいはい。その話があったね。


 あー、でも、どうしよう。

 この竜の谷を街の人間が安全に通れるようにするために、そこにいる竜とかそれを崇める部族を退治するなり何なりして、危害を取り除くっていうのが本来の趣旨だったんだが……。


 ……しかし何というかこのひとたち、通りがかる人たちを捕らえたり殺したりって感じじゃあ、とてもなさそうなんだよな。

 一体何がどうして、街ではあんな噂になっていたのか。


 そう言えば、キッカの部族の男たちが、何か変なこと言ってたな。

 外の世界の人間が、部族の人らを騙して、竜神様にまで危害を加えようとしたとか何とか。


「えっと……竜神様、十何年か前だと思うんですけど、部族外の人間から何かされたことあります?」


「んん……? あ~、あるある。私に毒の入ったお酒を呑ませようとした人たちがいたわね~。私を殺して、私が持っている宝物を自分たちのものにするのが目当てだったみたいだけど──私もさすがに怒って、毒のブレスで殺しちゃった☆」


 頬に手を当てて、可愛らしい様子で言うドラゴンのお姉さん。

 ……えっと、やっぱりこのひとも、それなり凶暴といえば凶暴なのね。


 でもまあ、その話が本当なら、悪いのは外の人間側だな。

 そしてこのひとや部族の人たちが嘘をついているとも思えない。


「でも一人だけ殺し損ねて、逃げていった子がいたわね~。まあいいかなって、放っておいたけれど」


「……なるほど」


 つまり、その逃げていった一人が、腹いせか何か知らんが、偽の情報を街で流したってことか。

 それが長年を経て、事実のように語られるようになったと。

 まあ、ありうる話だな。


「えーっと、本当はこの竜の谷の危険を取り除いてくれって依頼を受けてきたんですけど……アレですよね、別に外の人間が谷を通ろうが、危害加えてこようとしなければ、襲って殺したりはしないですよね?」


「それはそうよ~。私こう見えて、もう殺すだの殺さないだのには飽き飽きしているのよ。降りかかる火の粉や、友達をいじめる人たちは許さないけど、そうじゃなければ別に、ねぇ?」


「ですよねー」


「──でも」


 そう一言つぶやいて、お姉さんがスッとその糸目を細く開く。

 同時に、俺の隣に座っていたキッカが、ビクッと跳ね上がった。


「──カイルくんみたいな強そうな子とは、ちょっとやってみたくなるかも」


「…………やめましょうよ。どっちが勝っても、何のメリットもないですよ」


「うふふ、冗談よ冗談~。カイルくんの言う通り、お互いに何のメリットもないものね~」


 お姉さんは、再びのんびりほわわんとした様子に戻っていた。

 ……ったく、食えない人だ。


 ちなみに『ステータス鑑定』を試みても、当たり前のように「UNKNOWN」だ。

 どことなく気配で、フェリルよりも格は上という気がするので、実際にやり合ったら一筋縄では勝たせてもらえないかもしれない。


 でもそれこそ、彼女と戦うことにメリットがない。

 俺も格付けのためだけに暴力を振るおうとしない程度には、文明人であるつもりだ。


「──ふふっ。でも男前ねぇカイルくん。キッカが交尾したくなるのも分かるわぁ。……お姉さんも、別の意味で食べちゃいたくなったかも」


「…………。……意外と節操ないんですね、ドラゴンっていうのも」


「あらやだ、外にあんなに可愛い子たちをあれだけ侍らせている、カイルくんほどじゃないわよぉ~」


「俺はいいんですよ。男だから」


「あらあらまあまあ。いいわね~男の子って」


 俺の口からふと出たよく分からない反論に、お姉さんは頬に手を当てて楽しげにそんなことを言う。

 いかんな、このひとにはペースを崩されっぱなしだ。


「えっと、じゃあそろそろお暇しようと思います。……で、あの、申し訳ないんですけど、竜神様に一つお願いが」


「あらあらなぁに~? お姉さんにできることなら、何でも言ってちょうだい」


 そして竜神様には、一緒に洞窟の外に出てもらって、外で待っていたティトたちにドラゴンになった姿を見せてやってもらった。

 ティトやパメラが、ドラゴンを一目見たい、会いたいってミーハーなこと言うもんだからね……。



 ***



 さて、これでだいたい、この地で行うべきことは終えたように思う。


 ただ、この冒険がこれで終わりかというと、そんなことはない。

 随分と面倒な厄介事を、保留にしたままだった。


 俺が戦って倒したあの少年。

 その気絶した少年を帝国兵たちに渡して、国まで連れて帰るように言うと、帝国兵たちは俺に怯えるようにして、少年を担いでそそくさと立ち去っていった。


 だが、これで帝国とやらがこの竜の谷への侵攻を諦めるかというと、はなはだ怪しいだろう。

 帝国軍が新たに戦力を整えてきて、俺が見ていないうちにこの地が攻め滅ぼされたとかあったら、どうにも寝覚めが悪い。


 ちょっとばかり敵情視察をしに行ってみたい。

 何らかの手出しをするかどうかは、そのとき考えるとして──


「──ってわけで、ちょっとこのまま帝国ってトコまで行ってみようと思うんだが。ちなみに、もうお家に帰りたい奴には帰ってもらってもいいが、どうする?」


 俺は竜神様の洞窟から山道を下る途中、一同に向かってそう聞いてみる。

 キッカは先行して帰り道の先導をしており、一同というのはティト、パメラ、アイヴィ、フェリル、アルトの五人ということになる。


 すると、


「今更何言ってんのダーリン? ダーリンが行くところが、あたしたちのいるところだろ。な、ティトっち」


「うん、パメラちゃんの言う通りです。ホント今更何言ってるんですかカイルさん? 私たちがカイルさんのもとを離れられるわけありません。もう私たち、カイルさんなしじゃ生きられない体になっちゃってるんですから。ねー、パメラちゃん?」


「そ、そ。そういうこと」


 なんて言って、二人して俺の腕に抱きついてきた。

 うちの嫁二人の破壊力は、相変わらず凄まじかった。

 俺は二人のタッグ技によりノックアウトされ、ふらふらになった。


「うう、いいなぁ……ボクもそこに混ざりたい……。──ん? あ、もちろんボクも一緒に行くよ。あとフェリルとアルトは強制参加だよね」


「……ふん、勝手にすればいい。どうせ今の私に、身の振り方の自由なんてないんだから」


「ぼ、僕も別にいいぞ。街に戻っても、何かいいことがあるわけでもないからな」


 残りの三人もついてくるのにやぶさかではないようで、結局六人全員で、帝国へと向かうことになった。



 ちなみにこの後、キッカとの子づくりの件に関しては、丁重にお断りした。

 今日会ったばかりの女の子といきなりウェーイしてウェーイしつつウェーイするようなパーリーピーポーになるのには、さすがに抵抗感がある古い地球人の俺なのであった。


作者の遅筆にもかかわらず、いつも読んでくれてありがとうございます。

このたび皆様に一つ、ご報告がございます。


本作『RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する』が、書籍化いたします!

一迅社様より、8/2発売予定です。


イラストは、こうましろ先生です。

書影などはまだ公開できない段階なのですが、ヒロインズがめちゃくちゃ可愛くて、超素晴らしいです。

このあたり、公開できる画像などができましたら、活動報告などで追ってご連絡できればと思っております。


また内容のほうも、4万文字以上(Web版の話数換算で15話以上ぐらい)の加筆を含めた大改稿を行っておりまして、一冊の書籍として楽しんでもらえる作品を目指して作りました。

Web版をすでに読んでくれている皆様にも、自信をもってお勧めできる一冊となっておりますので、よろしければお手に取っていただければ幸いです。


どうぞよろしくお願いします。

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