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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第八章 竜を崇める部族、あるいは子づくりを求める少女
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ヒロイック

「竜を殺す、じゃと……? 不遜も大概にせい小童。かような児戯じぎの如き固有スキルで、竜神様に太刀打ちできると──」


「だ~か~ら~、そうじゃないんだってば」


 長老の言葉に被せるように、少年は呆れたという声をあげる。


「これはさ、こんな『針刃雨ニードルレイン』なんてのは、僕の固有スキルの一端でしかないんだよ。もっと言えば、一番の『外れスキル』。──僕は最初に言ったよ、僕は固有スキルを、三つ持ってるんだって」


 そう言って少年は、再び自身の周囲に『針刃雨ニードルレイン』を生み出す。

 そしてそれを、先と同じように、扇状に射出した。


 それから少年は、つぶやく。


「──ペネトレイション」


 少年のつぶやきとともに、透明の『針刃雨ニードルレイン』が、ほのかな輝きを纏う。


「──っ! アースシールド!」


 直観的に危機を感じた長老が、いまだ『金剛鎧ダイヤモンドアーマー』の効果中であるにもかかわらず、もう一枚の防壁を生み出した。

 前方へと突き出した手の平の前に、直径一メートルほどの岩の盾を作り出す。


 だが──


「ぐぅっ……!」


 ──ドシュッ、ドシュドシュッ!

 少年が放った『針刃雨ニードルレイン』は、長老の全身を、『金剛鎧ダイヤモンドアーマー』の上からことごとく貫いていた。


「あはっ! すごいねお爺ちゃん、とっさに致命傷だけは防いだんだ!」


「うぐっ……こ、小童……何をした……」


 長老が、たまらず膝をつく。

 『針刃雨ニードルレイン』の針が消滅し、あとには全身から血を流し傷ついた老体だけが残る。


 長老を貫いた刃は、岩の盾が守り切れなかった脚に特に深々と突き刺さっていたが、一方で盾に守られた部分すらも、針は『岩板盾アースシールド』と『金剛鎧ダイヤモンドアーマー』の二重の防御を突破して、長老の全身のあちこちを浅く傷つけていた。


「僕のもう一つの固有スキル、『装甲貫通ペネトレイション』の効果を『針刃雨ニードルレイン』に乗せたんだよ。『装甲貫通ペネトレイション』を乗せた攻撃は、攻撃対象の装甲を、熱したナイフでバターを溶かすように貫けるようになる。まあ完全に素通りするってわけじゃないから、二枚目の装甲を生み出したのは正解だよ。──それでも、防ぎきれるものじゃないけどね」


「おのれ……! ぬぅううううっ──ストーンシャワー!」


 それでも長老は、新たに魔力を練り上げ、少年に向かって魔法攻撃を仕掛けてみせる。

 少年の頭上上空に大量の大岩の群れが出現し、それが一斉に、少年が悠然と立つ地面へと降り注いだ。


 地鳴りの如き轟音ごうおんを立てて岩石の雨が大地へと降り注ぎ、もうもうと砂煙が舞う。

 少年の姿は砂煙の中に消え、まったく見えなくなった。


「はぁっ……はぁっ……どうじゃ、これで……」


 砂塵に包まれた竜の谷の谷底を、長老は体を引きずりながら覗き込む。

 少し離れた場所に集まっている帝国兵たちは巻き込まなかったが、かなりの広範囲を攻撃の範囲に収めていた。

 少年のあの常人離れした敏捷性でも、容易く回避しきれるものではないはずだった。


 しかし──


「──もうこれでネタ切れかな、お爺ちゃん?」


「なっ──!?」


 少年の声は、長老のすぐ近くから聞こえてきた。


 長老が慌てて振り向くと、長老や部族の戦士たちが立っている崖の上、それも長老からは目と鼻の先という位置に、少年の姿が立っていた。


「貴様……いつの間に……!」


「さっきも見せたし、今更驚くことでもないでしょ? 僕が持っている固有スキルの中で、一番の『当たりスキル』がこれってだけ。──じゃ、この後にはドラゴンも控えてるし、お爺ちゃんそろそろ死んどこうか」


 少年の周囲に、三度みたび針刃雨ニードルレイン』の煌きが現れる。


「じぃじ!」

「長老!」


 少し離れた場所にいるキッカと部族の戦士たちから、それぞれに悲鳴が上がる。

 彼女と彼らは、武器を手に少年を攻撃しようとし──


「──バカ者ども! やめんか!」


「あれぇ、サシの勝負じゃなかったっけ? ──まぁ別にいいけどさ。それならまとめて、殺すだけだし」


 少年が言うと、『針刃雨ニードルレイン』の矛先が、一斉にキッカたちのほうへと向いた。

 そしてそれが、射出される。


 長老は慌てて、『岩壁アースウォール』の魔法を発動する。

 だが、発動自体は間に合っても、大地から岩壁がそそり立つのに数秒がかかるその魔法では間に合わないことは、誰よりも長老自身が理解していた。


 射出された『針刃雨ニードルレイン』が、キッカや部族の者たちに襲い掛かる。

 大地の壁がその前に立ちふさがろうとせり上がるが、まるで間に合わない。


 時間がゆっくりと流れたように錯覚された、そのとき──


 まるで虹のような色合いの薄い光の膜が、キッカたちの前に張り巡らされた。



 ***



 それは、とても大きな光の器を、逆さ向きにして大地に被せたようだった。

 半径五メートルほどの半球状のお椀の端っこ寸前に、キッカたち部族の者たちがすっぽり入ったような、そんな様子。


 ──カンッ、カカカカン。


 少年が放った『針刃雨ニードルレイン』の刃の雨は、そのことごとくが光の膜に弾かれ、消滅していく。


「なっ……!?」


 当の『針刃雨ニードルレイン』を放った少年が、驚きの表情を見せた。

 そしてその場に、先ほどまでいなかった者が、介入してくる。


「あー、お取込み中のところ悪いんだが──俺と子づくりしたいって言ってくれた子を殺されたりとかは、ちょっともう勘弁願いたいんだわ」


 半球状の光の膜の中心地。

 そこで、何かを掲げるように右手を上げているのは、とぼけた表情を浮かべた金髪碧眼の美少年だった。


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