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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第八章 竜を崇める部族、あるいは子づくりを求める少女
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部族の戦士たち

 キッカは俺たちを先導し、竜の谷をしばらく歩いていく。

 するとやがて、少し違った地形が見えてきた。


 左右を断崖に挟まれた竜の谷だが、その左側の崖がやや緩やかになり、どうにか歩いて登れるぐらいの傾斜になっている場所があった。


 その坂道が続く先の台地は、俺がさっきジャンプして上った岩棚から地続きになっている。

 その台地は、俺たちが今いる谷底の道からは、三階建ての建物の屋上ぐらいの高さになる。


「この上、私たちの村がある」


 キッカは俺たちのほうへ振り返って嬉しそうにそう言うと、先頭を切って目の前の上り坂を上っていこうとした。


 しかしそれよりも前に、その先の台地の上から、別の人影が数人、姿を現した。


「キッカ! そいつらは何だ!」


 そのうちの一人が、声を張り上げてくる。

 あまり友好的とは言えない声の響きだった。


 坂の上の台地に現れたのは、屈強でしなやかそうな肉体を持った男たちだった。

 みなキッカと同じような褐色の肌をしていて、やはり同じような羽根飾りやペイントをしている。


 数は俺の視界に入っただけで七人。

 全員、武器を手にしている。

 弓矢を持つ者と、槍を持つ者とがいた。


 一方キッカは、行く手を見上げて返事をする。


「こいつらソトの人間! 私こいつに襲われた! 私こいつと子づくりしたもがもが」


 俺は慌ててキッカの背後から腕を回し、手で少女の口をふさいだ。


 ……うん、嘘はないし悪気もないんだろうが、伝え方に知性がなさすぎる。

 しかも、「子づくりしたい」と言いたかったんだろうが、俺が口をふさいだせいで余計にまずい発言になった感ある。


 実際、キッカのいまの発言を聞いた崖の上の男たちは、どよどよと何やら相談を始めた。


 そして、しばらくすると、そのうち一人が奥に向かって駆けていった。

 応援を呼びに行ったんだろう。


「……あの、カイルさん。……これって、まずくありません?」


 ティトが笑顔を引きつらせながら言う。

 うん、俺もそう思うよ。


 一方、残った六人の男たちは、俺たちに向かって一斉に武器を構えて、臨戦態勢を整えてくる。


「キッカを──その娘を放せ、外道!」


 最初に声をかけてきたリーダー格らしき男が、弓矢を構えた男たちの前に立ち、そう声を張り上げてくる。

 まあ、うん、そんな感じになりますよね。


 ちなみに、男たちのレベルを『ステータス鑑定』で確認すると、リーダー格の男が5レベル、ほかが2レベルから4レベルだった。

 有象無象のチンピラは軒並み1レベルっていうのがこの世界の標準であることを考えると、これでもまあまあ粒揃いといった実力なんだろうが──


 とは言え、正直なところ、怖さは感じないよな。


 うちのパーティで一番レベルが低いパメラでも、いまや7レベルだ。

 仮に俺を抜きにしたとしても、彼我の戦力が違いすぎる。


「……雑魚が粋がっているのは、見ていて気持ちのいいものじゃない。……さっさと始末してしまったらいい」


「僕もそこの魔族に同意だ。弱者が強者に逆らえばどうなるか、思い知らせてやるべきだ」


 これまで後ろで大人しくしていたフェリルとアルトが、どうにも血の気の多いことを言いだす。

 ……こいつら味方にいると、わりとめんどくさいな。


 俺はその二人を制して、上の男たちに話しかける。


「人間同士の殺し合いは好みじゃない。キッカをそっちに送る。話をよく聞いてやってくれ」


 そう言ってキッカを解放してやると、上に行って説明してくるよう伝える。

 するとキッカは「分かった。セツメイしてくる」と言って、坂を上っていった。


 キッカはやがて男たちに合流すると、彼らと何やら話し合った。

 そしてしばらくすると、リーダー格の男が大きくため息をついて、キッカの頭に拳骨を落とす。

 涙目で頭をさするキッカ。


 リーダー格の男は、仲間たちに武器を降ろすよう指示すると、再び俺たちに向かって声をかけてくる。


「すまなかった、こちらの勘違いのようだ。──だがソトの世界の人間を、おいそれと村に入れるわけにもいかん。すまないが、このままこの地を立ち去ってほしい」


 そんなことを言ってきた。


 むぅ……。

 誤解は解けたが、外の世界の人間を村に入れることはできない──ってことか。


 俺はリーダー格の男に向かって、再び声を張り上げる。


「キッカも外の人間悪いヤツみたいに言ってたけど、どうして『外の世界の人間』ってのをそんなに嫌うんだ?」


 その俺の言葉を聞くと、リーダー格の男は顔をしかめた。

 そして俺から薄っすらと視線を外し、俺でない誰か──虚空を見つめて、怒りの感情をにじませる。


「……過去にソトの人間を迎え入れたとき、あいつらは我々を騙し、竜神様にまで危害を加えようとした。あのときの二の舞は御免だ」


 そう答えた。


 ……なるほど。

 何があったのか分からないが、とにかく過去に何かがあって、その際に煮え湯を飲まされたから、外の世界の人間に不信感を持ったってわけか。


 しかし……うーん、困った。

 村に招待すると言ったのはキッカだが、彼らが『竜を崇める部族』であるなら、こっちとしても「分かりました、ではさようなら」ってわけにもいかない。


 そう思ってどうしたものかと考えていると、部族の男たちの中に混じっていたキッカが、リーダー格の男の服の裾をくいくいと引っ張った。


「アグル、それおかしい。カイルたちはそいつらとは違う人。それに私たちの村にだって、いろんな人いる。いいヤツもヤなヤツもいる。ソトの世界の人も、きっとそうじゃない?」


「むっ……」


 キッカが言ったのは、純朴な少女らしい意見だった。

 リーダー格の男も、その少女の言葉に鼻白む。


 ただなぁ……。

 俺はそのキッカの意見が正論だとは思いつつも、通らないだろうなとも感じた。


 現実ってのは、そうそう正論通りには収まらないもんだ。

 どこそこの国民はクズだとか、そういう集団の構成員であることで個人を規定するレッテル張りってのは、いつの時代だって蔓延るわけで。


 しかも実際に危害を受けたとなれば、なおさらそうなる。

 実際に蜂に刺されたことのある人間は、蜂はこちらから危害を加えなければ刺してこないと聞いても信用しない。

 別の蜂もきっと刺してくるに違いないと考えるのも無理はない。


 でもそんな諦観もないキッカは、リーダー格の男に対して、なおも食い下がる。


「私カイルのこと、最初は悪いヤツかと思ったけど、本当は良いヤツだと思う。私カイルと子づくりしたい」


「子づくりはともかく、俺もあの男が悪人という気はしないが……しかし俺が納得しても、村のほかの者や、何より長老が反対するだろう。俺の一存では認められん」


「じぃじには私が言う! 私カイルたちにうまいご飯食べさせてもらった。村に呼んでお礼したい。あと子づくりもしたい!」


「そうは言ってもな……」


 キッカとリーダー格の男とのやりとりは、らちが明かなさそうだった。

 子づくりという単語だけが無駄なインパクトを放ちつつも、話は前に進みそうにない。


 だがそう思っていたとき──


「──アグル、大変だ!」


 キッカと部族の男たちが揉めていた向こうから、別の部族の者らしき男が一人駆けてきた。

 先ほど応援を呼びに行ったかと思った男だ。


 リーダー格の男が、駆けてきた男に向き直る。


「どうした、ニグ」


「そ、それが……また、帝国兵のヤツらが……!」


「何だと!? ──くそっ、こんなときに……!」


 リーダー格の男は、駆けてきた男の報告を聞いて、露骨に苛立ちと怒りをあらわにした。

 周囲の部族の男たちも、ざわざわと動揺し始める。


 それからリーダー格の男は、坂の下の俺たちに向かって、短く言い放つ。


「急用ができた。悪いが即刻この地を立ち去ってほしい。さもなくば、もはや友好的な態度は取れないかもしれん。──行くぞ、みんな」


 そう言って、リーダー格の男は、ほかの部族の男たちを連れて、奥へと走り去っていった。


 キッカだけが、最後まで名残惜しそうに俺たちのほうを見ていたが、


「キッカ、お前もだ! 早く来い!」


「う、うん。──ごめん、カイル。ご飯おいしかった。カイルと子づくりしたかったけど、村のみんなも大事だから」


 キッカはそう言って、仲間たちを追いかけるように走り去っていった。

 残されたのは俺と、俺の仲間たち。


「……さて、どうしたもんかね」


 俺はそう独り言ちながらも、あの男の言う通りにこの場を立ち去るって選択肢はないよなぁ、なんて思っていた。


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