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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第八章 竜を崇める部族、あるいは子づくりを求める少女
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 昼前ぐらいに街を出て、荒野を歩くことおよそ半日。

 夕刻を過ぎた頃合いから、空模様が怪しくなり始めた。


「こりゃ一雨来そうだな」


 俺は襲い掛かってくるキラーボアの突進をとりあえずかわしつつ、空を見上げる。

 黒に近い色の雲がどよどよと、空一面を侵食しはじめていた。


「ねーカイルっ! こいつら、倒しちゃっていいんだっけ!?」


 二刀を交差させてキラーボアの突進を防いだアイヴィが、少し遠くから半ば裏返った声で叫んでくる。

 彼女の足元の地面は、突進を受け止めた勢いで少しえぐれていた。


 ……あー、さすがのアイヴィでも、ちょっとしんどそうだな。

 まあ、ちょっと太らせた馬っていうぐらいの大きさを持った、巨大イノシシの突進だから、無理もない。


 ──キラーボア。

 モンスターランクCの動物系モンスターだが、要はちょっと動きが俊敏で凶暴で図体が大きいという程度のイノシシである。


 ただ、こんなのが五体も同時に襲い掛かってきたのは、普通の冒険者パーティだったら相当ヤバい状況だったのかもしれない。

 俺たちで良かった、というところだ。 


「できればパメラとティトに倒させたい! でも無理だと思ったら、やっちまってもいいぞ」


「りょ、了解! 頑張ってみる!」


 アイヴィはそう答えると、スッと巨大イノシシの横手に回り込み、二振りの剣を素早く振るって斬撃を叩き込んでゆく。

 その剣士のまなざしは、真摯そのもの。

 俺の出した注文を、どうにか満たそうという意志が垣間見える。


 ……あいつ、いつも真面目に、一所懸命にやってくれるよな。

 アイヴィのああいうとこホント好き。


「お前たち、よくそんな余裕あるな……! ──くそっ、僕だって!」


「ぉわっ、あっぶね!? ちょっ、周り見ろよアルト!」


「ちっ……! パメラ、キミがのろのろしてるから!」


「んだとこの野郎……! ったく協調性のないやつだなホント!」


「二人とも、喧嘩してる場合じゃない!」


 アルト、パメラ、ティトの三人は、三人がかりで一体のキラーボアを相手にしていた。


 俊敏な動きで短剣を使いこなすアルトは、Bランク冒険者に匹敵するかそれ以上の実力を持っていて、ほかの二人よりは強い。

 なので、本当なら保護者の立ち位置をやってほしいところなんだが……どうも性格的に無理そうだな。


 あとパメラが協調性云々言っているのは、どう考えても今日のお前が言うな案件である。


「フェリルも! なるべく倒すなよ! 瀕死で止めとけ」


「ふんっ……面倒ね。加減が難しいっていうのに」


 魔族姿のフェリルは、十八番の氷錬真魔剣を出すこともなく、素手でキラーボアに応対していた。

 片手一本で悠々と突進を受け止め、そのキラーボアの鼻先を、ピキピキと氷で覆っている。


 ……まああいつは、どう転がっても大丈夫だろう。


「──おっと」


 一方の俺は、先とは別の一体が突進してきたのを、ひょいとかわす。

 そして横合いから、猛獣の首筋に『攻撃制御』による手加減を乗せた手刀を入れてやる。


 そのキラーボアは、大砲の砲弾を受けたような勢いで地面にめり込み、そこに小さなクレーターを作った。


 よし、まず一体。

 トドメはティトか──いや、なるべくなら一番レベルが低いパメラだな。


「おーいパメラ、こっち来れるか? こいつやっちまってくれ」


「ちょっ、ちょっと待ってダーリン! いますぐは無理!」


「パメラ、キミは邪魔だから向こう行ってろ! こいつは僕一人で十分だ!」


「んっだよテメェ! 一々腹立つなぁ!」


「だから二人とも、喧嘩しないで……!」


「おーい、仲良くしろよお前らー」


 ……うん、やっぱり問題児を預かっている施設の長の気分だな。

 微笑ましいというか、何というか。



 ***



「──あ、やっぱり降ってきたか」


 俺たちが全部で五体のキラーボアを倒し終え、一息ついた頃。

 空からぽつりぽつりと、雨が降ってきた。


「あっちゃ~、だから防水マント持ってこようって言ったじゃん、ダーリン~」


 パメラがそう愚痴を漏らす。


 この世界ではどうも「傘」というものが普及していないようで、屋外での雨対策は、防水性のあるフード付きのロングマントを身に着けるといった形になる。

 前に王都へ旅をしたときなんかは、それを使って雨風を凌いだわけなんだが──


 ただあれ、防水性があるって言っても、限界があるんだよな。

 大雨になると容赦なくずぶ濡れになる。

 それにマント自体の皮のにおいがキツくって、どうにも慣れなかった。


 だから今回の旅では、そのマントは家に置いてきた。

 フェリルとアルトの分まで買い揃えなきゃいけなくなるし、いっそ全員分置いてきちゃえという感じで。


 その代わり──


「まあそう言うなって、パメラ。良いモノ出してやるから」


 そう言って、『無限収納』の中をごそごそと漁る。

 あらかじめチートポイントを1ポイント支払って、それを手に入れておいたのだ。


「──ててててん♪ 快適万能傘プレザントシェルター~」


「……何それ?」


 俺が『無限収納』から取り出した光り輝く傘のようなアイテムを見て、パメラが怪訝そうな顔をする。

 ちなみに、彼女の言った「何それ」が、俺の言い方にかかっているのか、取り出したアイテムを見てのものなのかは定かではない。


「これはねパメラくん」


「ダーリン、喋り方が変」


「……こほん。これはだなパメラ、こうやって使うんだ」


 俺は設定された専用の合言葉コマンドワードを唱える。

 すると──


「うぉわっ!?」


 パメラの驚きの声とともにぐいんと伸びた傘が、頭上五メートルぐらいの場所でバサッと広がった。

 その傘は、薄い光の膜のようになって、その延長線上に降り注いでゆく。

 結果、俺を中心とした半径五メートルほどの半球ドーム状に、薄い光の膜が張り巡らされた。


 そして、広がった光の膜は、その色合いが徐々に薄くなってゆき、やがてまっさらな透明になった。

 同時に、俺が持っていた傘状のアイテムも、取っ手の部分を除いて透明化する。


「ん、これでよし」


 俺は取っ手の部分を『無限収納』の中にしまう。


「えっ、あれ、雨は……? って、嘘、何あれ!? ──すっげー!」


 パメラは自分に雨が降りかからなくなったことに疑問を覚え、次に上空を見上げて、驚きの声を上げた。


 透明化した光の膜。

 しかしそれは確かにそこに残っていて、半球状のビニールハウスがそこにあるかのように、降り注ぐ雨をはじいていた。


 ──『快適万能傘プレザントシェルター』。

 風雨などといった外部からの弱い干渉を防ぎ、その範囲内部の環境を快適に保つことのできるアイテムである。


 連続12時間までしか使用できないのが玉に瑕だが、使用していなければその時間分だけ使用可能時間がチャージされるので、使い切って12時間たてばまたフルチャージ状態になる。


 ちなみに、使用者が移動すると、それに合わせて効果領域も移動する。

 いつまでも手に持っている必要もなく、大変に便利な傘である。


「うわぁあ……!」


「ふえぇ……さすがカイル、何でもありだね」


「……人間ごときが、これほどの魔道具を……」


 ティト、アイヴィ、フェリルの三人もそれぞれ頭上を見上げてぽかーんとしていたが、一番驚いていたのはアルトだった。


「なっ……こ、こ、これはどういうこと……? うそ、夢を見ているみたいだ……。──これ、カイルがやったのか……?」


 頭上を見て、驚きのあまりにふらふらと後ずさっていたアルトの背中が、俺にぶつかる。


「……あ、すまない。僕としたことが、うろたえて……」


「別にいいよ。──気に入ったか?」


 黒ずくめの銀髪少女の頭にぽんと手を置きつつ、そう聞いてみる。


「うん……。これがあったら、家がなくても暮らせる……路上で雨にうたれながら凍えて寝るようなことがなくなるな……」


「……お、おう、まあそうだな」


 帰ってきたのは、ホームレス視点の言葉だった。

 侘しかった。


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