いざ馳せ参じるデート勝負!!
「どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか……」
「どうしてこのようなことになってしまったのでしょうね……」
5月5日、こどもの日。午前9時26分。
ゴールデンウィークの最終日であるこの日、進七郎と円佳は快晴広がる空模様とは正反対の憂鬱な表情を浮かべていた。
それもこれもこの日は──大和紅子と壬生束多喜雄とのダブルデートをすることになっていたからであった。
「大和さんに挑戦状を叩きつけられたかと思えば、まさかダブルデートをする羽目になるなんて予想もしていませんでしたわ」
「そうですね。一体、どういうつもりなのでしょうか大和さんは」
「……分かりませんわ。今回ばかりは乙女心とかそういった類の話ではありませんわね。分からないのも無理はないですわ」
(元から乙女心に疎い俺はともかく、大和さんと同じく女性の円佳様までもが意図を図りかねている……一体大和さんは何がしたいんだろうか)
溜息をつく円佳の顔を見ながら紅子の考えを看破しようと務める進七郎だが、いくら考えても答えにはたどり着けそうにない。
それでも記憶を思い返していくと、手がかりはあった。
『あたしが諦めた場所にいるあんたがそんなに不甲斐ないなんて……本当に許せない……絶対に許せないわ……!!』
(大和さんが言った中でも、これらの言葉は意味深だった。諦めた場所とは一体……?)
「あら、もう着いてたのね」
言葉の意味を追求しようとしていたまさにその時、聞き覚えのある声に進七郎は顔を向ける。円佳も続いて。
見覚えのある派手な紅い髪の毛に、服の上からでも分かる大きな胸、強気と勝気を併せ持つ可憐な顔つき。間違いなく挑戦状を叩き付けてきた紅子であった。
そして隣には変わらず落ち着き払った彼氏、壬生束多喜雄も立っていた。
「おはようございますですわ、大和さん壬生束君」
「おはようございます」
「おはよう。ふんっ、集合場所に一番乗り出来なかったのはちょっと癪だけどまぁ良いわ。それで今日の勝負の勝敗が決まる訳じゃないし」
若干納得がいっていない様子を見せながらも、紅子は闘志をギラつかせた目を向けながら今一度叫ぶ。
「そう、今日の──デート勝負にはねっ!!」
その声は、集合場所である【東京デズニャーランド】の門前に響き渡るほどであった。
紅子が円佳に叩き付けた挑戦状とは、デート勝負であったのだ。
「挑戦状にも書いたけど、改めて再確認よっ! 今回のデート勝負は①東京デズニャーランドで一日ダブルデートをする②乗るアトラクションは同じものを選ぶ③どちらがよりイチャラブしたかで勝敗を決める④あたし達が勝ったら、GMS部は活動休止⑤あんた達が勝ったら、あたしも壬生束もあんた達の従順な下僕になる。以上よっ!!」
「なぁスカーレッ子、やっぱり俺は除外してくれても良いんじゃないか……?」
「うるっさいわね壬生束! カップルは一蓮托生でしょっ! 武士に二言はないわっ!!」
やる気満々の紅子に対し、恐らく半ば巻き込まれる形となった多喜雄はガックリと肩を落としていた。
その様を見ながらも、進七郎と円佳は危機感を抱かずにはいられなかった。一方的且つ強引に決められてしまった、''負けた時のこと''。二人で創り上げたGMS部の活動休止。
(絶対に……負けられないッ……!)
進七郎はまるで超絶クソ迷惑魔霊との戦いに臨む時のように気を引き締めた。
円佳の理想を叶える為に、それを支えて共に目指していく男として、今回の勝負は何がなんでも負けられない。
(円佳様とのイチャラブ……絶対に見せつけてみせるッッッ……!!)
「進七郎さん、大丈夫ですわ」
「円佳様……?」
「この勝負、わたくし達が負けることなどありえませんわ。だって、わたくしと……あなたですもの」
緊張の面持ちでいた進七郎は、微笑みを向けてくれた円佳によって良い意味で気持ちが緩むと。
「……はい円佳様。ありがとうございます」
進七郎もまた笑顔を浮かべ、円佳へとそう答えて勝負に臨むことが出来たのだった。
「んで、最初はどこに行くんだよ?」
「そんなの決まってるわっ! ここは''ラージイナズマ・マウンテン''に行くべきよ!」
「なるほどです。円佳様は如何ですか?」
「大丈夫ですわ。進七郎さんと壬生束君に異論がなければ、行くとしましょうか」
進七郎と多喜雄も反対することはなく、最初に行くアトラクションはここでも1、2の人気を誇る絶叫系ジェットコースター''ラージイナズマ・マウンテン''に決定した。
既に一日を通して使えるパスポートもファストパスも購入し、進七郎達は他の来場者と同じように場内の雰囲気に溶け込んでいる。
だが、それでも普通とは異なることもあって。
「見ろよあの女の子、凄く可愛くね?」
「だよなー。清楚なドレス来てる白髪の子も、派手なドレス着てる赤髪の子もどっちもすっげー可愛いわ」
「隣にいる男の子達も一人は凛としててカッコイイし、もう一人も気だるそうだけどカッコイイよねー」
「お姫様とお姫様を守る騎士って感じ……あぁ尊い……観葉植物になって見守りたい……ふへへ……」
歩いているだけでも、周囲の人々の注目を集めてしまう。あまりにも絵になる美男美女の組み合わせであるが故にであった。
(……やっぱり、あたしよりもあいつの方が……)
その中で紅子は視線を最も集めているのが円佳であることを感じ取っていた。自らの美貌にも自信を持っているが、そのさらに上を行く円佳に歯をギリッと噛み締めつつ、それを表には出さないように先頭を歩いて行く。
だが……そこで早速紅子は仕掛ける。
「壬生束、手繋ぎましょう?」
「えっ?」
「ほらっ、早く!」
そう、このデート勝負はどちらがよりイチャラブしているかで勝敗が決まる。
ならば、具体的に行動して結果を示すしかない。半ば強引な形ではあったが紅子は多喜雄と手を繋いでいた。
「きゅ、急になんだよスカーレッ子?」
「別に、あたしが手を繋ぎたくなっただけなんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
「何を勘違いするんだよ……」
溜息をつく多喜雄はさておき、紅子はドヤ顔で後ろに振り返る。さぞ、円佳と進七郎は先手を打たれたことに衝撃を受けているだろうと。
「なっ……!?」
しかし、紅子は驚愕の声を漏らしてしまう。何せ──円佳と進七郎は、とっくに手を繋いでいたのであったのだから。
「ま、円佳様。痛くはありませんか? 俺は怪力ですからなるべくセーブしてはいますが、もしも痛ければ遠慮なく仰って下さい」
「いいえ、全く痛くはありませんわ。寧ろ、あなたの心遣いや優しさが感じられますわ。……こうして手を繋いだのは初めてですから、緊張しますわね」
頬を朱に染めながら初々しく手を繋ぎ合わせる二人。だがその様子はまさしくイチャラブと言う他になく、紅子は早速敗北感を植え付けられてしまっていて。
「ふっ、ふんっ! 勝負はまだ始まったばかりなんだからねっ!!」
負けん気で鼻息を強く鳴らした後、気持ちを切り替えてそう叫んでいたのだった。




