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気を取り直したは良いものの、そもそも初デートが難しいことに気がついた15歳の4月。


「お待たせまるちゃんッ! この服なら問題ないだろうッ!?」


「う、うん。問題ない……と思うよ?」


「ヨシッッッ!!」


 円佳(まるか)からのお墨付きを貰い、進七郎(しんしちろう)はグッとガッツポーズ。

 その服装は黒のジーンズに白シャツにデニムジャケット、という常識の外に行きがちな進七郎からすれば比較的常識の範囲内の無難なものであった。円佳のドレスに合わせたフォーマルなタキシードスーツも似合っていたが、これはこれで普通のかっこよさを身に纏っている。芸能事務所のスカウトが声をかけてもおかしくはないほどだった。


「なんだかんだで10時になっちゃったな。ごめん、俺のせいで……」


「うぅん、私のワガママに付き合ってくれたんだから全然気にしてないよ。寧ろ、ありがとうだよ」


(ひょええええまるちゃん可愛いすぎるッ!! というか許してくれるなんて天使過ぎるッ!! あーこんなまるちゃんとデート出来るとか幸せすぎだろ俺ッッッ!!)


 微笑んだ円佳に対し進七郎も微笑みながらも、心の中でかなり騒がしくしていた。円佳の優しさが溢れ出した微笑みは進七郎のみならず、周囲の老若男女を問わず魅了するほどであった。


「じゃあ、行こうかまるちゃん」


「うん、進七郎君」


 進七郎は心のお祭り騒ぎからそっと意識を切り離し、円佳に全て注ぐ。

 見つめ合うだけで画になる二人。これから素敵な初デートを送ることになることは間違いなしであった。

 ……そのはずだった。


「「……どこにだっけ……?」」


 進七郎と円佳は同時にそう言った後に微笑みを浮かべたまま固まった。

 そう、何とも間抜けな話であった。なんとこの二人、あれだけアールグレイをキメて盛り上がっていたにも関わらず、肝心のデートプランの具体的な中身については一切決めていなかったのである。何が学園生の規範か、これではまさにバカップルという他にない痴態である。


「ど、どこに行こうかまるちゃん?」


「え、えっと……進七郎君の行きたい所で良いよ?」


「そ、そっか。なら俺の行きたい所は、まるちゃんの行きたい所だ」


「そ、そうなんだ。でも私の行きたい所は進七郎君の行きたい所だから」


 二人はそんなやり取りを延々と繰り返す羽目になる。それもこれも、お互いがお互いを尊重するあまりのことであった。進七郎も円佳もお互いのことを第一に行動することをモットーにしていることが、今この時はかえって裏目に出てしまっていた。


「よ……よし、まるちゃん。ならこうしよう。今から同時に、自分の行きたい所を正直に素直に絶対に言う! 3、2、1、ハイで言うようにしよう!」


「う、うんそうだね。分かった」


「じゃあ、いくよ。3、2、1、ハイ」


「──ショッピングモール……えっ!?」「──水族館……えっ!?」


 進七郎の提案で、現状が打開するかと思われたがそうはならなかった。

 二人が同時に驚きの声を出したのは、たった今口にした場所が()()()()()()()()()だったからだ。


「ど、どうして俺が水族館に行きたいって分かったんだまるちゃん?」


「進七郎君、昔から探索とか冒険とか好きだったでしょ? だから、今ここら辺でそういった経験が出来そうなのって水族館くらいかなって思って。進七郎君こそどうして私の行きたい場所が分かったの?」


「普段話してる時からまるちゃんは『あー豪遊したいですわー。ショッピングモールに行って店舗ごと買い取るブルジョワごっこしてみたいですわー』って言ってたじゃないか。まぁあれは”義経院ぎきょういん円佳まるか”として振る舞ってる時の冗談だったけど、でもまるちゃんの部屋の掃除とかをしてるとファッション系の雑誌とかがあるから、ブルジョワごっこじゃないにしても新しい服とかを買いに行きたいのかなって思って」


 理由を述べると、それらはお互いに大正解であった。

 しかし話がまたここで振り出しに戻ってしまう。何せ結局、行きたい場所に挙げたのは”相手にとって行きたい場所”である。場所が具体的になっただけで、進展はしていなかった。


「うーん……どうしよう。どっちに行くべきだろうか」


「私は水族館で良いよ? 服はいつでも買えるから」


「いや、服は今しか買えないものがいっぱいある。今はもう4月の中旬、春物を買うにしてもギリギリのタイミングだ。それにこれからは夏のことも考えて早めに夏物を買いに行っても良いし、水族館はいつでも行けるから」


「うぅん水族館の方こそ今行くべきだと思うよ。ほら今日は目玉のイルカさんのショーとかもあるし、期間限定の深海の生物展とかもやってるし、今だけだって言うならこっちもそうだよ」


 話は譲らないまま平行線の一途を辿る。

 お互いを想い合うあまりにお互いに譲れない、真面目で一本気な進七郎と優しく慈悲深い円佳という二人だからこその平行線であった。


「うーん……どうしようか」


「うーん……どうしようかな」


「まるちゃん、世の中にはレディファーストという言葉がある。紳士足る者、女性を第一に優先して意見を聞いたり願いを叶えたりするべきなんだ。だから、ここはまるちゃんの願いを叶えさせてくれ」


「確かにそうかもしれないね。でも進七郎君、今は男女平等を重視する世の中になってる。女性だけ一方的に叶えて貰うのは些かそれに反すると思うんだ。だから、レディファーストをを引き合いに出しても進七郎君の言葉を鵜呑みにすることは出来ないよ」


 進七郎と円佳、理論的に諭そうとしてもお互いに聡く賢いが為に結局は意味はなく。その後もジェンダー平等やら亭主関白やらと色々と議論を展開したが、結局水族館とショッピングモールどちらに行くべきなのかは決まらなかった。


「「うーん……」」

 

 初デートであるが故にそれを大事にしたいという気持ちが強く、慎重にならざるを得ない進七郎と円佳。お互いに考え込んだまま時間が過ぎようとしていたその時──。


「あの……円佳様と武蔵むさし君……ですよね?」


 背後から誰かに声を掛けられて。

 振り向くとそこにいたのは、派手な紅い髪の少女と茶色がかった黒髪の少年の二人組であった。


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