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進七郎と円佳、いざ初デート!!


「ッッッ……!!」


 進七郎(しんしちろう)は周囲の人々が思わずSNSに晒しそうなほど、見事なロボット歩きを披露している。カクカクとした手足を何とか動かしつつ、人生でこれまで味わったことのない圧倒的に凄まじくえげつない緊張に襲われながら、円佳(まるか)との待ち合わせ場所である''忠犬ゴールデンハチ公像''に向かっていた。


(こッ、これが初デートッッッ……!! まさかこんなにも緊張するなんて……ッッッ!!)


 小学校の時の劇の時にやった木の役が可愛く思えるほどのド緊張。昨晩から眠れず目が充血しまくり、緊張も加わってガンギマリしているかのような顔つきに進七郎はなってしまっていた。


(い、いや落ち着け俺ッ……! 確かに今日は初デートではあるが、GMS部に寄せられた悩み相談を解決するためのものにもしなければならない。''ゴールデンウィークのお勧めスポット''が何なのかをしっかりと示さねばッ……!!)


 汗だくの顔を手で拭った後に、進七郎は勝負に挑む時であるかのような真剣な顔を見せる。

 面白半分で見ていた人々が圧倒される迫力と、女性陣が何人も一目惚れするほどのかっこよさを放っていたのは露知らず。

 

「待ってて下さい円佳様ッ……!! 俺は必ず従者としてッ、そして恋人としてあなたのお役に立ってみせますッッッ!! うおおおぉおぉおおぉおおぉおおおおッッッ!!」


 全身に重くのしかかっていた緊張を吹き飛ばすと、進七郎は駆け出す。一陣の風と化すほどの猛烈な速さで、進七郎は待ち合わせ場所へと向かっていったのだった。




「……ふぅ」


 忠犬ゴールデンハチ公像の前にたどり着き、安堵の溜息を漏らす進七郎。念の為に1時間前に着くようにしておいて良かったと思いつつ、円佳を探す。目が充血しているので文字通り血眼(ちまなこ)なって。

 

(……流石にまだいらっしゃらないか)


 しかし、その高貴なる彼女の姿はない。昨日の夜の話し合いの時には「分かりやすいようにわたくしはパーティ用のドレスで行きますわ」と言っていたので、そんな格好であれば一目で彼女だと分かるのだが。

 周囲にいるのは学生服の少年少女、オフィススーツを着込んだサラリーマン、私服の大学生らしき青年など、どう見ても円佳の姿はない。まぁそもそも待ち合わせ1時間前だから来てるはずがないのだが。


「よし、円佳様をお待ちするとしよう。連絡はすると円佳様に要らぬ罪悪感や焦燥感を抱かせてしまうかもしれない。となれば円佳様がここに来たら、お決まりの『俺も今来た所でございます。いやぁ〜こんなことってあるんですねわっはっはっはっ!!』とお伝えして……」


「あ、あの……進七郎君……?」


「そうして円佳様とのアイスブレイクも果たしつつ、自然な流れでデートに……ん?」


 デートのシミュレーションをしていたところで、進七郎は自分が声を掛けられたことに気がつく。

 振り向くとそこには、少し頬を朱に染めて照れ臭そうにしつつも嬉しそうな表情をした……円佳がいた。しかし、その格好は絢爛豪華なドレスなどではなく、シンプルでありふれたワンピースタイプの服であった。

 確かに目の前にいるのは円佳ではあるのだが、進七郎は頭の理解が追いつかず宇宙のド真ん中で悟りを開いたようなとぼけ顔をしていた。


「……円佳様……ですか?」


「うん。そうだよ私だよ、進七郎君」


「あっ、その話し方はまるちゃんの……?」


 コクリと頷く円佳を見て、進七郎の疑問は深まった。今回は確かに自分と円佳の初デートではあるが、それは同時に悩み相談の為ということを兼ねている。

 となれば、円佳は''義経院(ぎきょういん)円佳(まるか)''としてこの場に立つ……そのはずだからだ。


「まるちゃん、ちょっと聞いても良い?」


「うん、どうしたの?」


「まるちゃんはその……''円佳様''として今日はデートはしないの?」


「もちろん、それも考えたよ。今回は部活動の一環だった訳だし……でも」


「でも?」


「進七郎君との初めてのデートだから、私はありのままの私で進七郎君とデートしたいなって……」


 静かに微笑みも交えながらそう話す円佳。

 対し、進七郎はまたも深い衝撃に襲われていた。つい昨日の放課後にアールグレイをキメた時と同じか、それ以上にまで──。


「まるちゃんッッッごめんッッッ!!」


「ええっ!? きゅ、急に土下座してどうしたの!?」


「俺は義経院円佳として在ろうとする君のことばかり考えてッッッ、肝心のまるちゃんとしての君のことを蔑ろにしてしまっていたッッッ!! 本当に本当に本当にッッッ、ごめんッッッ!!」


「い、いやそんなに謝ることじゃな──」


「だから俺もッッッ!! 今日は従者としてではなく俺としてッッッ!! ありのままの武蔵進七郎としてまるちゃんとのデートを楽しむッッッ!! 見ててくれまるちゃんーーーッッッ!!」


「ちょ、ちょっと進七郎君ーーーっ!?」


 円佳の叫びも虚しく、進七郎は全力で叫んだまま全力でその場を後にした。

 進七郎が戻ってきたのは結局1時間後で。二人のデートは波乱の幕開けをしたのだった。



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