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圧倒的超絶七大神魔霊──”ネタマ”──


「好きな者ノ為に、戦イますか。なるほドなるほド。何と気高いことなのデしょう……そしてそれダけに妬ましいィ……」


「そんなの知るかッ‼ 勝手に嫉妬しておけッ‼」


 進七郎は相手の出方を探るのではなく、自分の方から仕掛ける。

 

(距離を離さねばッ、まるちゃんから出来る限りこいつを遠ざけるッ‼)


「はあぁああぁああああああッッッ‼」


 進七郎は超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)に疾風の如く突撃する。

 コンクリート製の地面を抉り飛ばすほどの脚力は人間離れした加速力を発揮し、初速が最高速(・・・・・)に達するという離れ業をやってのける。

 超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)からすれば、つい先ほどまで円佳の傍にいたはずの進七郎が──突如自分の目の前にワープしてきたかのように見えた。


「ぐっ、ヌオォオオォオっ!?」


 反射的に濁流を自身の周囲に展開し全方位への攻撃に対処する超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)

 だがそれを予測していない進七郎ではなく。


「はあッ‼」


「ぐぶふぇ!?」


 濁流の展開の直前、進七郎は超絶クソ迷惑魔霊マッド・デーモンよりも高く跳躍しており、そのまま落下の勢いを利用して踵落としを喰らわせていた。何度も回転することによる遠心力も加えて。


「ぐウっ……おヲっ……!」


「はぁああぁああぁぁあああッッ‼」


 怯んだ隙に鳩尾みぞおちに拳を打ち込み悶絶させ、さらにそこから容赦の一切ないハイキックを顔面に喰らわせる。アクション映画のように面白いほど超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)は吹っ飛んだ。


「ぐ……フぅ。あ、あなたは老人を労ワるという考エはないのデスかっ!?」


「あるに決まっているだろうッ! 荷物が持てなさそうな時は代わりに持って差し上げたり、道が分からなさそうな時は目的地まで一緒に向かって差し上げたりしているッ! おかげで中学時代はめっぽう遅刻や欠席をして先生から怒られたがなッッッ‼ だがその質問をお前が投げかける権利はないッ‼ 学園長に取り憑いてその身体をほしいままにしているお前にはなッ‼」


「がべふっ‼」


 身体を起こした超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)に地面スレスレのアッパーカットを抉るようにぶち込む進七郎。再び身体が宙を舞い、超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)は顔面から地面に激突していた。

 

「ぐぶっ……がふィ……」


(……おかしい。こんなに圧倒出来るはずがないんだが……)


 既に虫の息にも見える超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)

 しかし、進七郎はどこか違和感を覚えていた。戦う前に感じた悪寒から、こんなにもあっさりと圧倒出来るはずはなかった。

 それでも、進七郎は弱った隙を見逃すことなどせず、次の攻撃でトドメを刺すつもりでいた。 


「何といウ膂力……何という強サ……。これがあの忌まわしき”武蔵むさしボーン流格闘術”の継承者か……。なるほド……()()()()()()()()()には倒せない訳ですネ……」


「……何?」


 超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)の発した意味深な言葉に、進七郎はピタリと足を止めた。


「どういうことだ? 名前を持たない雑魚とは?」


「おヤ、ご存知なイのですか? 私達超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)も、名前を持っているんですヨ。最も、その条件ハ”人間社会に長く溶け込めル程度の知性を持つコと”、そして他の雑魚とは比較しようもなイ──”圧倒的ナ強さを持つこト”でス」


「ッッッ……‼」


 瞬間、進七郎の脳裏に過ったのは、()()()()()()()()()()()

 自身の身体が串刺しにされる未来、銅が真っ二つにされる未来、全身の骨を砕かれる未来、首から上をね飛ばされた未来。いずれも凄惨と言う他にない未来の数々が、あまりにも鮮明リアルに見えてきたのだ。


「あァ……そう言えば自己紹介がマだでしたね、”武蔵むさし進七郎しんしちろう”さん。失敬失敬、では改めましテ。私の名は……”ネタマ”。”圧倒的超絶セブンスゴッ七大神魔霊ド・デーモン”の内の一体デす」


 ぬるりと立ち上がった超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)、もといネタマは圧倒されていた時とはとても同じ存在とは思えず、進七郎の瞳にはその老体がとてつもなく巨大に映りさえしている。


「”圧倒的超絶セブンスゴッ七大神魔霊ド・デーモン”……だと?」


「おヤ? その反応を見ルに初耳だったのデすかね? あの忌まわしき技の使い手でありながラ……まぁそれは置いとキましょう。我々はそレこそ、あなたが先日に倒したアレ(・・)とはマるで比べ物にならないでスよ。いや比較されるのも腹が立ちますけどネ」


「お前達が超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)を統率しているのか?」


「いやァそういう訳ではありまセん。群れる人間達とは異なり、我々は基本的に個別に行動をしテいます。”圧倒的超絶セブンスゴッ七大神魔霊ド・デーモン”はただ単純に生存期間・知能・戦闘力が突出しているだけデすし。それゾれの主義や考え方、そして”好みの味”も個体によって全ク違って来ますから、他の個体とハ基本的に気が合いませんしねェ……」


「好みの味? なんだそれは?」


 気持ちを落ち着かせるべく、ネタマに話を切り出した進七郎。

 単なる時間稼ぎのつもりではあったが意味深なことを言ったネタマに対し、その質問はほぼ反射的になされていた。ネタマの方は「それすらモ知らないのですか……」と半ば呆れ気味ではあったが。


「我々超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)は人間の抱く”恐怖”を栄養源としてイます。それはドのような個体においても共通しているコとです。ですが、個体によって好みの味があるノです。人間の抱く”負の感情”に対応した、好みの味ガ」


「負の感情……」


「それらは大きく分けて七種類に分類サれます。強欲、傲慢、憤怒、怠惰、色欲、暴食、そシて……嫉妬です」


 嫉妬

 その言葉を聞いた途端、進七郎の中で散らばっていた欠片が一つになった。

 それまでの言動を振り返っていけばいくほど、そうとしか思えない。たまらず、進七郎は叫んでいた。


「ネタマッ‼ お前の好みの味は”嫉妬”だなッ‼?」


「ご名答でス。実に聡い方ですねェあなたは……故にそれが──妬まシい」


 再び寒気を覚えるような声を発したネタマは、両手を広げると上空に濁流の塊を出現させる。

 荒れ狂う濁った水はまるで竜のように唸り、いつしか完全に周りを取り囲んでいる。


「妬マしい……妬まシい……妬ましイ……妬マしい妬まシい妬ましイ妬マしい妬まシい妬ましイ妬マしい妬まシい妬ましイ妬マしい妬まシい妬ましイ妬マしい妬まシい妬ましイ妬マしい妬まシい妬ましイ妬マしい妬まシい妬ましイ妬マしい妬まシい妬ましイ妬ま──死良い。若く才能に溢れたイケメンのあなたは今こそ、私によって殺されるのデぇぇぇええぇえええぇえええええすっっっ‼」


 ネタマの嫉妬と狂気の入り混じった叫び声が響くと共に、濁流が進七郎に一斉に襲い掛かった。



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