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出現、二体目の超絶クソ迷惑魔霊!


進七郎しんしちろうさんっ……」


「はい、円佳様。今の気色の悪い合成されたような声、紛れもなく……奴ら《・・》が現れました。俺の後ろに回って下さい」


 神妙な面持ちになった進七郎は盾になるように円佳の前に立ちつつ、周囲に最大限の注意を払う。

 今しがた聞こえた奴らの声──超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)が至近距離にいることを確信しての行動であった。

 

(しかし、あの声はどこかで聞き覚えが……──)


 記憶を探っていた進七郎だったが、あることに気がついて目を見開いた。

 突如照明が消えたことで暗くなった体育館と、眠るようにして意識を失った自分と円佳以外の生徒。異変はそれだけだったはずが、もう一つあって。


ねたまシい……実に妬マしいですね」


 その陰と人々の中に、ただ一人誰かが立っていたことだった。

 その声は先程聞こえてきたものと同じで人間の名残がありつつも確実に異物が混ざっているような、そんな不快感を覚えさせてくる。あそこに立っているのは間違いなく人間に取り憑いた超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)だと進七郎は確信した。

 問題は、超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)が誰に取り憑いているのか、ということであったが……その答えは間もなく判明する。


「……あなたは……学園長……!?」


 その正体に言及したのは進七郎ではなく円佳で、声には驚愕が多分に含まれていた。

 まだ入学して間もない進七郎でも、その姿は一発で覚えられるほど印象的であった。何せ還暦の男性ながら立派すぎる白髭(しろひげ)が生えており、頭髪と反比例するその毛の量は床に着きそうなほど長かったのだから。

 ちなみに生徒達からは(もっぱ)ら「あの髭が髪の毛だったらなぁ……」と哀れみの目で見られてるのは秘密である。


「なるほど、聞き覚えのある声は入学式の際にあの長ったらしくてかったるいどうでもいい話をしてた学園長のものだった訳だ」


「ちょちょちょい……酷クないですか? こレでも私はうら若きアなた方の貴重な時間を一分一秒でも奪うべく頑張っテるというノに……」


 あの妙に時間のかかる話にそんな意図があったのかと若干腹を立たせながらも、進七郎は警戒は一切途絶えさせず一挙手一投足に全神経を注ぐ。


(取り憑いた人間の若さ、いや身体能力に比例して奴らも強くなるのか? となればこいつは千頭(せんどう)会長よりも弱いのか……?)


 頭の中で様々な仮説を立てながら、いつ戦闘になっても良いように気を引き締める。

 そんな進七郎を窪んだ瞳で見つめながら、超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)は不気味に沈黙を保っていた。が、唐突に「MGK学園は良い場所デすねぇ」と話し始める。


「若ク、才能や希望に溢れタ将来有望な子どもが集まリ、さらにそれラが競い合ウ環境が整っていル……。毎日毎日、このジジイに取り憑キながら私は見てイました。ここの学園生達の競走、争う様ヲ」


「それがどうしたと言うんだ?」


「競走にハ必ず勝者と敗者が存在しマす。私はどちラかと言エば敗者が好キでしてねェ、勝者は驕り高ぶルので嫌いなんですヨ。死ネば良いのにと思うほどに」


 一歩一歩、亀のように鈍いが着実にこちらに近づいてくる超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)に、進七郎は警戒を強めつつ構える。


「敗者は勝者ヲ羨む、自分にはないものを持っテいる者を恨む。それをなンと呼ぶノか……ご存知でしょうカ?」


「……嫉妬、だ」


「そう、嫉妬デス。嫉妬こそが、私の──大好物なンですよ」


 瞬間、黒い濁流が猛烈な勢いで迫る。

 進七郎は集中していたことで不意打ちとも呼べるその攻撃に難なく対処。円佳を抱き抱えてその場から跳躍して回避していた。


「……えっ? あれ? わたくしいつの間に進七郎さんにお姫様抱っこをされて……?」


「円佳様、俺から離れていて下さい」


「へっ?」


「どうやら、今回の超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)は……前の奴とは比べものにならない強さのようですので」


 着地し円佳を離した後、進七郎は未だに集中の糸を切らさないでいた。円佳からすれば気がつけば体育館を飛び出していたという、一瞬の出来事。

 だが、進七郎は体育館を出るまでの間も奴の黒い濁流が直接追いかけてくるような攻撃を躱し続け、ようやく逃げ出すことが出来たのであった。


(円佳様を守りながら戦う余裕がない……それほどまでの相手だあいつは。となれば、円佳様を物理的に遠ざけることで、円佳様をお守りするッ……!)


 進七郎は作戦を心の中で決めると、再び構えを取る。

 またいつ奴があの攻撃をして来るのか分からない以上、ほんの少しでも集中力を切るのは命取り。故に、他のことに気を回すことなど出来るはずがなかった。……が。


「進七郎さん。一つだけお願いがありますわ」


 ただ一人、円佳だけはその意識を自身に向けさせることが出来た。

 もちろん、それには円佳が進七郎の主人だからという理由がある。しかし理由はもう一つあり、それは円佳の声色が切実さを伴っていたからという理由だった。


「何でしょうか円佳様?」


「わたくしを守って下さるのは、本当に有難いことです。ですがわたくしは……もう二度と、あなたが傷ついた姿を見たくはありません。わたくしに力があればそれが出来たのかもしれませんが……今はこうして、あなたにお願いすることしか出来ません。不甲斐ない主人であるわたくしを、どうかお許しくださいませ。そしてどうか……無事に帰って来てくださいませ」


 不安と申し訳なさを滲ませながら、円佳は深々と頭を下げていた。

 円佳がしたのはただの”お願い”だった。ただの言葉であり、己の想いを伝えただけのことだった。

 それでも自身の無事を祈ってくれる人がいてくれる。その事実が進七郎の全身に力を漲らせ、同時に緊張で余裕のなかった心に、穏やかな温かさをもたらしてくれていた。


「……もちろんでございます。円佳様……いや、”まるちゃん”。俺は守るよ、まるちゃんと……俺自身を」


 微笑みを向け答えた進七郎は、円佳もまた同じように微笑みを返してくれた所を見る。

 その瞬間、油断した隙を狙い澄ました再び奴の攻撃が迫っていた……が。


「……ほウ! 今のを全てかき消しますカ! やはりやりマすねえあなタ!」


「当たり前だ。俺を誰だと思っている。俺は義経院ぎきょういん円佳まるか様の従者にして、武蔵むさしボーン流格闘術26代目継承者──武蔵むさし進七郎しんしちろうだッッッ‼」


 濁流を目にも止まらぬ拳の連撃でかき消すと、感心する超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)に自らの名を叫び、闘志をあらん限りに見せていたのだった。


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