異例の全校集会
グレートマーベラススタンダード部──聞き慣れないその部活名に、静寂を保っていた体育館内が突如ざわめき始める。
が、それも長くは続かなかった。元々かったるい学園長の話も静かに聞き入るほど真面目な生徒達が大半であることに加え、壇上にいるのがあの義経院円佳だったことで体育館内には静寂が戻っていた。
「さて、たった今わたくしが申し上げました部活……略してGMS部について説明致しますわ。このGMS部の活動目的、それは……''学園における皆様の恋愛の一助となること''ですわ」
再び、ざわわっと体育館内がどよめく。
''円佳様のことだから、きっと崇高な目的があるに違いない''……そう考えていた生徒達の予想を裏切り、遥かに俗っぽい目的であったが為に。
しかし、円佳は動じない。堂々とした立ち姿を保ち、表情も凛々しさ以外には一切何も混じってはいなかった。
「今、このMGK学園に求められるのは、一体なんでしょうか? 勉学に励むこと? 部活動で切磋琢磨し、全国大会を目指すこと? 群雄割拠のこの学園内にて誰とも対立し合い、心を許さずに恋愛をしないこと? ……答えは否っっっ全部違いますわっっっ!! わたくし達がすべきことはそうっっっ!! 恋愛一択なのですわっっっ!!」
円佳の叫び声が体育館内に反響し、まるで稲妻が走ったかのように轟く。
ぽかんとする教師陣とは異なり、数秒後には生徒達からは歓声が上がった。
「うおぉぉおおおそうだそうだーーーっ!!」
「OBOGの先輩方の話でも''高校時代に一切恋愛出来なかったせいで、恋人の作り方が分からなくて未だに独身だよトホホ……(´・ω・`)''って言ってたし、やっぱり俺達は恋愛すべきなんだーーーっっっ!!」
「そうよ! 恋愛のない高校生活なんてタコのないタコ焼き……ただのお好み焼きに過ぎないのよっ!! あたし達は恋愛するんだーーーっ!!」
円佳に呼応し、生徒達は皆が思い思いに叫ぶ。これまで恋愛禁止という暗黙の了解から正式に解き放たれようとしている喜びに、皆が打ち震えていたのだった。
「そうですわ皆様っっっ!! 学生の本分は勉強、それは否定しませんわ。ですがそれと同じくらいに大切なのが恋愛っ、イチャラブすることなのですわっっっ!! イチャラブせずして何が学生ですわーーーーっっっ!!」
スタンドからマイクを抜き取り、まるでファンを煽るボーカルのように豪快に叫ぶ円佳。生徒達も最早先程までのお行儀の良さは毛ほどもなく、ウェイウェーイとバイヴスアゲアゲ状態で円佳に賛同する。
「エヴィヴァディセイっ!! ノーイチャラブノーライフっっっ!!」
「「「「「ノーイチャラブノーライフっっっっっ!!」」」」」
「ノーイチャラブノースチューデントっっっ!!」
「「「「「ノーイチャラブノースチューデントっっっ!!」」」」」
「ノーイチャラブノーホープっっっ!!」
「「「「「ノーイチャラブノーホープっっっ!!」」」」」
今目の前で広がっている光景が現実なのかと呆気に取られる教師陣は除き、生徒達は心を一つにして叫んでいた。ボルテージは最高潮に達し、もうこれ以上に盛り上がることなんてないと思えるほどに。
しかし、生徒達は知らなかった。まだこの盛り上がりが、最高点に到達していないことを。
「皆様ご静粛にっ‼」
扇動していた円佳は突如そう叫び、皆を黙らせる。生徒達も流石と言ったところで次の瞬間には黙っており、円佳はそれに対し礼を述べると続きを話す。
「今回のGMS部設立に当たっては、様々な方のご協力を賜りました。特にお力添えをして下さったのは、我が学園が誇る”賢帝”……生徒会長の千頭従道会長、生徒会庶務兼書記兼会計兼副会長の九百九十九先輩、そして……もう一人」
円佳は紡いでいた言葉を一度止めると、後ろに振り返る。
そこには影に隠れてよく顔が見えないものの、確かに誰か立っていて。その”誰か”の姿を見ると、円佳は顔を綻ばせていた。
「その方は、わたくしにとっては自分の命よりも大切であると言っても過言ではない方ですわ。……いえ、少し大袈裟過ぎたかもしれませんわね。訂正致します。ではもっとシンプルに、そして……素直に、その方のことを紹介させて頂きますわ」
正面に向き直った円佳を目の当たりにした生徒達は思わず言葉を失う。
頬が朱に染まった恋する乙女を全開にしたような表情を、円佳がしていたからだった。
「では、紹介致しましょう。わたくしの一番大好きな人──武蔵進七郎さんですわ」
円佳の紹介と共に歩き始め、彼女の隣に立った進七郎。
真剣な顔をした進七郎は控えめに言ってもかなりのイケメン、故に生徒達の中でも女子は見惚れたり男子はギリっと歯軋りをしたりする者がいたりしたのだった。
「どうも皆様。まだ入学したてのピッカピカの一年生という若輩者でありますので、まずは軽く自己紹介をさせて頂きます。俺は壱年壱組に所属している武蔵進七郎と申します。身長177cm、体重77kg、好きな食べ物は肉類全般、得意科目は日本史、趣味は自己鍛錬です」
クソ真面目に自己紹介をする進七郎。本人は知らないが、実はそんな必要がないくらい進七郎は既に有名人である。それこそ誰も知らないほどに。
何せ、義経院円佳の従者というだけでもかなりのネームバリュー。加えて進七郎は入学直後に運動部系の全部活の部長全員を相手取って瞬殺したこと、そして公衆の面前での熱すぎる円佳への告白など、逆に知らない方が無理があるというレベルのことをやってのけていたのだから。
「こうして皆様の前でお話をする機会を設けて下さった千頭生徒会長、九百先輩、そして円佳様に最大限の感謝をしております。その恩に報いるべく、今からほんの少しの間ですがお話をさせて頂ければと思います」
深々と頭を下げる進七郎。
見た目通りの真面目さとお手本のようなお辞儀に、期せずして拍手が沸き起こる。歓声はないが万雷の拍手を一身に受けながら、顔を上げた進七郎は第一声を放った。
「皆様は──好きな人とイチャラブえっちをしたいですかッッッ!?」
……しかし、進七郎はやはり非常識だったのだった。




