創部するにはやはりプレゼン、プレゼンは全てを解決する──!
「なっ、何故ですの千頭会長っ!? わたくしと進七郎さんの愛の巣ゲフンゲフン! じゃなくて新しい部活の創設を何故認めて下さらないのですわ!?」
「そうですッ! 納得がいきませんッ! 説明してくださいッッ!!」
「落ち着きたまえ二人とも。怒りや混乱は正常な判断力や理解力を奪う。ちゃんと説明してあげるからまずは落ち着きたまえ」
千頭の制止と共に、九百が「アールグレイっす〜。気分が落ち着くっすよ〜」とカップを手渡してきたことで、不満の言葉を止めざるを得なくなった進七郎と円佳。
思わず立ち上がってもいたが、アールグレイを一気に飲み干すと今度はしっかりと正座をし、腰を据えて千頭との話へと臨む。
「ふぅ、お見苦しい所をお見せ致しましたわ。では改めまして、何故わたくし達の愛の巣を認めて下さらないのですわ?」
「ふふっ、決まっているさ。それは……」
「それは……?」「それは……?」
「君達──その部活とやらがどんな活動内容なのか全然僕に説明してくれていないじゃないかっ!」
「しっ、しまったぁぁぁああああぁぁっっっ!!」「しっ、しまったぁぁぁああああぁぁッッッ!!」
千頭の最もな指摘に、二人は叫ばずにはいられなかった。そりゃあ内容が一切不明の部活を承認など出来るはずもなく、そんなことをしていたら千頭が''賢帝''と呼ばれているはずもなかった。
「僕と直々に話が出来る光栄に感激し、身を震わせているのは理解出来る。だが、本来の目的を見失っては本末転倒だよ?」
「も、申し訳ございませんでしたわっ! わたくしってばとんだお茶目な天然ちゃんでしたわ! ではそうと決まれば──進七郎さんっ!」
「はいッ!!」
円佳の呼びかけに返事と共に勢い良く立つと、進七郎は自らの鞄に手を突っ込み、ノートパソコンを取り出す。
「ではただいまからッ、俺とお嬢様の''模範的青春プロジェクト''のプレゼンを始めさせて頂きますッ!!」
いつの間にかプロジェクターもしれっとよういしつつ、鮮やかな手際で進七郎のプレゼンが始まる。
「まずッ、今回の''模範的青春プロジェクト''の概要ですがッ、主たる目的としては俺と円佳様によるMGK学園の生徒の皆様に青春の規範を示すことでございますッ!」
「MGK学園はその永き歴史において''恋愛禁止''という不文律がありましたわっ! ですがその悪法とも言えるルールを根本から覆しっ、ぶっ壊しっ、革命を起こした二人の男女がいますわっ! そう、それこそが……」
「学園の規範であるという理想を貫く義経院円佳とその従者にして常識の外にいるこの武蔵進七郎の二人に他ならないのですッ!!」
説明役は進七郎一人かと思いきや、円佳もそこに加わる。
スライドを変えるタイミング、説明をする順番、どれを取っても完璧と言えるクオリティを発揮し、抜群のチームワークを見せながら二人はプレゼンを進めていく。
「恋愛禁止という暗黙の了解がなくなりッ、生徒の皆様は自由に恋愛が出来るようになりましたッ!」
「ですがっ、自由とはそれ即ち全て自分達の意志や行動によって結果が左右されることでもありますわっ! そこでわたくし達は考えたのですわ……恋愛が解禁されたこの学園における、悲劇の数々をっ!」
「どんな状況で、どんなことをすればいいのか、どのようにすれば安心安全のイチャラブをすることが出来るのかッ、恋愛を謳歌する中でも生徒の皆様は日々不安を抱いていらっしゃいますッ! それは千頭会長ッ、あなた自身も感じておられるのではないでしょうかッ!?」
進七郎の突然の名指しにも、千頭は悠然とした微笑みを一切崩さずに無言で聞いている。
何を考えているのか、それを考える暇はなかった。進七郎と円佳はただひたすらに、自らの想いを叫び続けた。
「だからこそッ生徒の皆様の不安を解消し万全のイチャラブが出来るようにッ!!」
「わたくし達がっ、皆様が見ている前で熱烈な告白をした進七郎さんとそれを受けたこのわたくしがっ、お見せしなくてはならないのですっ!!」
「単なるプライベートとしてではなくッッ‼」
「部活動という公的な形でっっ‼」
「皆様の規範となれるようなイチャラブをっっっ!!」「皆様の規範となれるようなイチャラブをッッッ‼」
ラストスパートに交互に掛け合い、最後は同時に叫んだ進七郎と円佳。プロジェクターの画面にも”ご清聴ありがとうございました。”の文字が映し出されており、二人による熱のこもったプレゼンは終了していた。
「……ふむ、なるほど……ねぇ」
プレゼンを聞き終え九百の差し出した茶を静かに飲み干すと、千頭はそれだけを呟いて沈黙した。
鋭い瞳の奥では何を考えているのか、”賢帝”の異名を持つ彼が果たして次に何を口にするのか。進七郎と円佳は固唾を飲んで見守っていた最中に。
「実に──素晴らしいじゃないかっ‼ 全く以て見事だよ円佳様っ武藏君っっ‼」
次の瞬間、千頭は号泣しながら凄まじい速度で拍手をしつつ二人を讃えていた。その後ろでは九百がくす玉を割り、”部活動承認おめでとうございますっす~”の紙を垂らしていた。
「確かに恋愛が解禁となり学生の皆が自由な恋愛を出来るようになった……だがしかしっ! 学園史上初めての異例の事態でもあり、誰もが手探りで不安を抱えている。正直に言うと、学園の皆の奴隷として僕はその問題を解決しようとしたが……何せ僕はイチャラブする相手がいなくてね。だから、この問題に関しては諦めるしかないと思っていたのだが……君達が希望の光になってくれるとは……!」
「うぅ……実に感動的っす……よしよしっす千頭会長……」
涙ぐみ嗚咽を漏らす千頭と、そんな彼をよしよしと頭を撫でつつ同じように涙ぐむ九百。
二人の切実な様子を見る限り、よほど悔しかったのだろうと進七郎は静かに拳を握り締める。
(元から俺と円佳様の二人で皆様の規範となり、イチャラブの在るべき形を示すための部活だった。だが、その意義の大きさを改めて理解出来た。千頭会長達の分も、俺達は学園生の皆様の模範としてあらねば……ッ!)
「お任せくださいッ千頭会長ッッッ‼」
「進七郎さんっ!?」
「俺と円佳様が必ずッ、成し遂げてみせますッッッ‼ 学園の皆様に理想のイチャラブを示すことをッッッ‼ 一組でも多くのカップルの方々が笑顔に幸せに楽しくイチャラブ出来るようにッ、円佳様とイチャラブの神髄を追求し続けますッッッ‼ そして俺はッ、俺はッッッ──絶対にまるちゃんとイチャラブえっちしまくってッッッ幸せにしてみせるッッッ!!!!!」
気持ちが高ぶりまくり、部屋に何度も反響するほどの大声で思いの丈を叫んだ進七郎。
声が消え訪れた静寂の中、最初に口を開いたのは生徒会長としての威圧感を再び放つ千頭であった。
「その言葉、何が起ころうとも違えるんじゃないぞ。武蔵進七郎」
「もちろんですッッッ!!!!!」
「……ふっ、分かったよ。では、先程から手を熱く握り締めている彼女と共に帰りたまえ」
「へっ?」
千頭の言葉にハッとした進七郎は、自分の手の方に顔を向ける。
「──……っっっ」
そこにはプルプルと小刻みに震えながら、顔を真っ赤にしている円佳の姿があったのだった。




