MGK学園生徒会
「はーはっはっはっはっ! さぁ遠慮なく入りたまえよ我が王国へ!」
「これはっっっ……!?」「これはッッッ……!!」
生徒会長・千頭従道に誘われるがまま、生徒会長室へとやってきた進七郎と円佳。
目の当たりにしたその部屋に、二人は絶句するしかなかった。何せ1億円を投じて作られた円佳専用のプライベートルームに匹敵──など絶対にしないほどの、あまりにも簡素な造りだったのだから。
たった六畳一間、畳で出来た部屋の中央には昔ながらの背の低い丸テーブル。それ以外には書類をまとめるフォルダーであったり、簡単な仕事用の道具などのみ。要するに、”ボロい”造りであった。
「い、一体これはどういうことなのですの千頭会長……!? あなたは千頭グループの御曹司ですわよね!? 勘当でもされたのです!?」
「はっはっは心配ご無用だとも円佳様っ! 僕は現役バリバリの千頭グループ御曹司さ! この部屋は僕自身の意向でこうなっているのだよ!」
「どういうことですか? ドМなんですか千頭会長?」
「その指摘は当たらずとも遠からずだ武蔵君っ! ではここで千頭クーイズ第一問っ! ”王とは何か”30秒あげるから答えてごらん!」
突如始まった千頭からのクイズに二人は困惑しつつも答えを考える。なおその間に鼻歌交じりに千頭はお茶を淹れたりなどして待っていた。
円佳が真剣な顔をして答えを考える隣で進七郎も同じように頭を捻る。だが頭の中にはクイズの答え以外のこともあって。
(千頭会長……”超絶クソ迷惑魔霊”の消滅後に体に異変がないかどうか心配だったが、あの様子だともう大丈夫そうだな)
進七郎は千頭の身を案じていた。何せ、”超絶クソ迷惑魔霊”に取り憑かれていたのだから。
取り憑いていた”超絶クソ迷惑魔霊”を倒した直後、告白もしてイチャラブの雰囲気に飲まれつつあった進七郎と円佳はすんでのところで千頭のことに気がついた。
最初こそ、”超絶クソ迷惑魔霊”が粉々に砕け散ったので依り代となっていた千頭も粉々になって死亡した、と二人は大慌て。進七郎は自首をしに行こうとすらしていたのだが……。
『おや、どうしたのかな二人共? 何か困り事があれば、生徒の王たる僕が聞こうじゃないか!』
そんな声が聞こえ、後ろを振り向けばそこには何事もなかったかのように千頭が立っていて、彼は無事だったのだ。
(”超絶クソ迷惑魔霊”に取り憑かれた人間は、奴らを倒せば無事に解放される。そして、”超絶クソ迷惑魔霊”に取り憑かれている間の記憶もない……か)
千頭の様子を伺いながら、進七郎は改めて、”超絶クソ迷惑魔霊”と奴らに取り憑かれた人間のことを再確認していた。
次にまた奴らが現れた時に、何の躊躇いもなく倒せるという安心を覚えながら。
「3、2、1、0っ! さぁ時間だ、君達の答えを聞かせて貰おうとしよう! まずは武蔵君っ!」
「はいッ。王とは国のリーダーであり、人々の上に立ちます。なので一挙手一投足に責任を求められる重要な存在です」
「なるほどっ! では続いて円佳様っ!」
「はい。王とは人々の規範足るべき存在、その行動の一つ一つが人々の見本となり、国民が安心してついていけるような存在であるべきですわ」
「なるほどなるほどっ! 良い答えだねっ! では一息も置かずに答えを発表しよう!」
ドゥルルルルと自分の口でドラムロールをしながら、二人に答えを告げようとする千頭。
このクイズに何の意味があるのか、という発想自体が頭から抜け落ちた進七郎と円佳は、正解発表の時を固唾を飲んで見守った。
「デデンッ! 二人ともブブブーブ・ブーブブでーーーすっ!」
「なっ……!? どうしてですの!? 納得がいきませんわ!!」
「それが残念ながら不正解なんだよ円佳様。この間一年生に実施された学力テストで見事満点を取ってみせた君であろうとも、今回は不正解だ」
「ぐっ……! では、是非とも教えて頂きましょうか千頭会長っ!? あなたの仰る''王''というものをっ!!」
「いいとも! 僕が考える王とは……
奴隷さ!」
発された答えに二人はキョトンとした顔となるも、千頭は相変わらず自信に満ちた笑顔を浮かべていた。
「ど……奴隷……ですの?」「ど……奴隷……ですか?」
「そうだとも! 王は玉座に座ってふんぞり返り、国の隆盛を見守るものか? 否! では国民に重税を課し、至福を肥やした挙句に痛風になるものか? 否! どちらも違う! 王とは常に先頭に立って国民の為に尽くし、自分よりも国民を優先すべき存在なのだよ! 王には確かに責任や品格が求められる、だがそれ以上に国民への献身性や奉仕の心が大切なのさっ!!」
「なっ、なるほどっっっ!!」「なッ、なるほどッッッ!!」
いつの間にかスポットライトが当てられ花びらがヒラヒラと舞い散る中で輝く千頭の姿に、進七郎と円佳は感嘆する。
と、それと同時にその演出を担当している一人の生徒にも気がついた。
「──って、あなた誰ですの!? いつの間にかそこに!?」
「あ、どもっす。生徒会庶務兼書記兼会計兼副会長の3年生、九百九十九って申しますっす」
「なんと……! 先輩とは知らずに無礼な尋ね方をしてしまい申し訳ございませんでしたわ!」
「いえいえお気になさらずっす。よく存在感ないって言われるっすからね〜」
(……確かに、全く気がつけなかったな)
円佳が丁寧にお辞儀をして謝っている中、進七郎は異様な感覚を九百に対し抱いていた。
部屋に入ってくる音も気配と一向にしないまま、気がつけばそこにいたのだ。驚異的な存在感のなさだった。容姿的にはのほほんとした雰囲気を放ちつつも、円佳にも匹敵するほどの美少女ではあるのだが。
「こうしてお二人に会うのは初めてっすね、円佳様にべ……武蔵君。千頭会長の戯れに付き合ってくれてどうもありがとうございますっす」
「戯れとは失敬だな我が右腕よ! だがそんな不敬を許してこそまた王というものだ! さて、話はさておき、円佳様に武蔵君っ! 悩み事は一体何かな?」
「何なりと相談してくださいっすね〜。この人とウチがいれば大概のことは解決出来るっすから〜」
存在感がありすぎる生徒会長の千頭
存在感がなさすぎる生徒会庶務etcの九百
たった二人だけの生徒会ながらも、自信を漲らせる千頭達に対し、進七郎と円佳も目を合わせた後に面と向かって叫んだ。
「新しく部活を創りたいですっ!!」「新しく部活を創りたいですッ!!」
「駄目だっっっ!!」「駄目っすね」
「えぇーーーっっっ!?」「えぇーーーッッッ!?」
しかし、あまりにも予想外な即答に、進七郎と円佳は盛大に生徒会室に叫び声を轟かせたのだった。




