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入れる部活動がないのなら、新しく部活動を作れば良いじゃない。そんな風にマリー・アントワネットが囁いたような気がした。


「ふむ、ふむふむふむ……ですわね」


「ふむ、ふむふむふむ……ですね」


 МGK学園に特別に作られた円佳まるか専用のVIPルームにて、共に考え込む進七郎しんしちろうと円佳。

 目の前の机には何枚もの紙が並べられていて、そこにはあらゆる部活動の名前が載っていた。


「この1週間とりあえずいろんな部活動に片っ端から体験入部をしてみましたが、困りましたわね……」


「はい。これは由々しき事態ですね。まさか、こんなことになるとは……」


 進七郎も円佳も共に深刻な表情を浮かべていた。

 部活動に所属するのに二人が直面した重大な問題──それは、二人自身の()()()()()()()()()()()()()ことだった。


「文化部系では円佳様が、運動部系では俺があまりに突出した活躍をしてしまうため、心が折れて部活動継続困難になる生徒が続出しています」


「えぇ、分かっておりますわ。生徒の皆様の規範となるべく全力を出した結果ですが、まさかこのようなことになるだなんて……。とりあえず部活動に復帰出来るようにメンタルケアはしておきましたが……」


「はい……。現状、俺と円佳が一緒に入れるような部活動はありません。まさか俺と円佳様の圧倒的な才能がこんな悲劇を生み出すとは予想だにもしておりませんでした……」


「よよよ……」


「ぐぬぬ……」


 二人はガックリと項垂れ、万事休すかとも言える絶望を味わっていた。


(クソッ……何とかならないのかッ……!? いっそのこと俺が手を抜いて部活動に臨めば……いやそんなことを円佳様が望むはずがない。生徒の規範であるべきなのに”実は全力を出してませんでしたてへぺろ~☆”なんて真似をしていいはずがない。一体どうすれば円佳様の役に立てる? 一体どうすれば俺は……ッッッ!!)

 

 項垂れながら、進七郎は歯をギッと噛む。現状を打開する案が思い浮かばず、円佳の為に何もしてあげられない自分自身の無力を呪いたくなる。

 しかし、そこで思考停止しては昼休みの円佳のあの叱咤激励それ自体が意味を失う。進七郎は眼球が充血するほど考えた。


(諦めるな俺ッッッ……! 考えろ……考えるんだッッッ……! なんだって良い、突破口をッッッ……!)


「ふぅ、一度休憩しましょう進七郎しんしちろうさん」


「あっ……はい。かしこまりました」


「根を詰め過ぎても良案は出ませんわ。視野も狭まりますし、一度息を入れるということも人間には重要ですわ。ですので、お茶の時間にしましょう」

 

「かしこまりました。では少々お待ちください」


 素直に円佳の言葉に従い、ティータイムの準備に入る進七郎。頭の中では未だに解決出来る方法を模索しつつも、手慣れた動きでカップにミルクココアを注ぎ、マカロンなどの甘いパン類を皿に乗せていく。

 その間は実に10秒足らず。元から器用ではあったが、円佳の従者として鍛え上げられた能力が為せる早業であった。


「お待たせ致しました」


「相変わらず速いですわね。それでこそわたくしの従者ですわ。では頂きましょう」


「お褒めに預かり光栄です。では、頂きます」


 仲良く手を合わせていただきますをすると、進七郎と円佳はティータイムに入った。しれっと進七郎はBGMの準備も済ませていて、部屋には格調高そうなクラシックが流れていた。


「はぁ、美味しい。いつもながら進七郎さんのれて下さるミルクココアは美味しいですわ」


「お褒め頂けて恐縮です。産地の質が良いのでしょう、俺が淹れただけではそんなに味は変わらないかと思いますが」


「あら、あなたはわたくしの言うことを否定するのですか?」


「もッ申し訳ございませんッ! 決してそのようなつもりではッ!」


「ふふっ、冗談ですわ。確かに進七郎さんの仰るように、産地は厳選に厳選を重ねたコートジボワールのドログンバ農場から最高級のカカオ豆を仕入れてますし、そりゃあ美味しいに決まっておりますわ。ただ、やはりわたくしはこう思わざるを得ないのです。進七郎さんが淹れて下さったから美味しいのだと」


「円佳様……」


「ふふっ、非科学的でしょうか?」


「いッ、いえッ滅相もございませんッ! 素敵ですッとってもッ‼ 今後も円佳様にそう仰って頂けるようにッ、誠心誠意ミルクココアをれさせて頂きますッッ!!」


「ありがとうございますですわ。まぁあなたのミルクココアはそれだけでも美味しいのですが、なんと言ってもこのマカロンとの合わせ技! おやつと言えばこれですわっ美味しすぎて手が止まりませんわパクパクですわっっ永久コンボですわ永久機関の完成ですわっっっ!!」


「あははは、そんなに急いで食べなくてもマカロンは逃げたりはしませんよ──」


 瞬間、進七郎は稲妻に打たれたかのような衝撃に襲われた。

 ミルクココアを自分が淹れたからこそ美味しいと言ってくれたこと。そして現在進行形でマカロンを吸い込むかのように食べていくブラックホールのような円佳。

 点と点として存在していた要素が線となって繋がり、進七郎の中に革命的な答えを出した──!


「それですッ円佳様ッッッ!!」


「きゃあああっ!? な、何をなさるんですの進七郎さんっ!? 食べるのを止めないでくださいましっ!! わたくしのマカロンタイムは何人たりとも邪魔してはならないのですわっ! はむっ、もぐもぐもぐっ!」


「無礼は承知の上ですッ! あと、出来れば俺の手ごとマカロンを食べるのは一度お辞め頂けませんかッ!? 痛くはないですし寧ろこそばゆくて気持ち良いのですがッ、今は俺の話をお聞き下さいませッ‼」


「もぐもぐもぐ……ふぅ。一体何なんですの? わたくしの至福の時間マカロンタイムを邪魔するのには、それなりのお話があるということですわよねっ!?」


「もちろんでございますッ‼ 実は俺ッ閃いたのですッ‼ 俺と円佳様が同じ部活に所属する解決策がッ‼」


「なんとですわっ! そりゃあマカロン食ってる場合じゃねえですわっ‼ それでその解決策というのは何なのですわっ!?」


「それはッ、俺と円佳様で新しく部活を立ち上げることですッッッ‼」


「なっ、ななななななんとっ‼ それは盲点でしたわっっっ……!?」


「俺と円佳様が所属することで部活のパワーバランスが崩れてしまうのなら、俺と円佳様だけの部活を作れば良いッ‼ 俺と円佳様しかいないため他の部員のモチベーションは下がらずッ、俺と円佳様は何の気兼ねもなく生徒達の模範としての姿を見せつけられるのですッッッ‼」


「素晴らしいですわっ‼ それでこそわたくしの従者ですわっ‼ 画期的な解決案ですわ~っっ‼」


(やった、やったぞッ‼ 円佳様に喜んで頂けたッッッ……!)


 喜ぶ円佳を見て進七郎もまた喜びを感じずにはいられなかった。

 従者として円佳の身を守る以外にも、自分には貢献出来る方法がある。このことを知り、進七郎は大きな自信を手に入れていたのだった。


「ではそうと決まれば早速どんな部活動にするのか、会議を致しましょうッ‼」


「ええっ‼ 作るのですわっ、わたくしと進七郎さんの愛の巣ゲフンゲフンっ‼」


「どうされたのですか円佳様っ!?」


「ゲフゲッフンゲッフンフンっ! 何でもありませんわっ!! ともかく考えましょうっ!! 最善は……?」


「リニアモーターカーでございますッッッ!!」


 円佳の問いに自信満々に答えた進七郎。

 こうして二人は、新たな部活動の創設に向けて熱烈な会議をすることになったのだった。

 そして──




「おや、これはこれは良くぞ来てくれたね。我が──生徒会室キングダムに!」




 その日の内に、生徒会長の千頭せんどう従道つぐみちを訪ねていたのだった。

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