部活動や委員会に所属してこそ王道であり規範
「しまったですわわたくしとしたことがーーーーーっっっ‼」
「円佳様どうなされたのですかーーーーッッッ!?」
ミシュランガイド星3つにも認定されたMGK学園が誇る学内食堂”リストランテ・マウパ”にて。
生徒達の規範として高貴に優雅に食事をしていた円佳が品の欠片もクソもない叫び声を上げ、進七郎も従者スイッチ全力ОNでそれに続いていた。
「わ、わたくしとしたことが……なんという失態をっ……!」
「落ち着いてください円佳様ッ‼ 一体どうなされたというのですッ!?」
「わたくし、やらかしてしまいましたわっ‼ 生徒の皆様の規範としてあるべきこのわたくしがっ、こんな基本的なことを失念していただなんて……この義経院円佳一生の不覚ですわっ! 今わたくしは深い不快を覚えておりますわっ‼」
「な、なんとそこまでとはッ……!? 一体どのような不覚をなさったのかお教えくださいッ‼ この武蔵進七郎ッ、円佳様の従者としてそして彼ピとして全身全霊で解決に尽力致します故ッッッ‼」
頼んだ”グレイトフル長崎ちゃんぽん(2600円)”が伸びるのを若干気にしつつも、進七郎は円佳の役に立つべく食欲をねじ伏せて彼女に叫ぶ。
円佳もまた「それでこそわたくしの自慢の従者、そして彼ピッピですわっ! 好きピですわっ‼」と返し、いつものエキセントリックさに拍車をかけながらもようやくやらかしたことを告白する。
「わたくし達──まだ部活動や委員会などに入っておりませんわっ‼」」
「な、なんですってーーーーーーーーーーーーーッッッ!!」
進七郎は机を思わず叩き付けるほどにまで衝撃を受けていた。なおちゃんぽんはひっくり返って台無しになっていた。
(部活動や委員会は高校生活における花形……王道ッッッ!! そこに所属しないということは、生徒達の皆さんの規範であらせられる円佳様にとってはまさに致命的過ぎる……完璧的な致命的案件だッッッ……!!)
進七郎は盛大にショックを受けていた。
円佳とイチャラブ出来る幸せを堪能するあまり、部活動や委員会に入るという発想自体が頭の中から抜け落ちていた。本来であれば従者である自分が真っ先に気づいて、円佳に伝えておくべきはずだったのに。
部活動や委員会に所属してこそ高校生活の王道であり規範。そこから円佳を逸脱させかねなかった己自身に自責の念を向けざるを得なかったのだった。
「申し訳ございません円佳様ッッッ!! 俺は従者失格ですッッッ……!! 円佳様とイチャラブすることが幸せ過ぎて嬉しすぎてッッッ、視野狭窄を起こしてしまっていましたッッッ……! あなや迂闊ッッッ、この大罪は俺の命を以て償わせて頂きますッッッ!!」
「何を言っているのですかこの大馬鹿あんぽんたんてやんでえバーローチキショーっっっ!!」
「ぶっふへぇぇぇッッッ!?」
叫んだかと思えば次の瞬間に円佳はおもいきり振りかぶったビンタを放って来て。進七郎は反応出来ずにまともに喰らい、華麗なトリプルアクセルを決めながらテーブルの上にぶっ倒れた。
頭にはちゃんぽんを盛大に被りながらも進七郎はその気持ち悪さなど全く意に介さず、全ての意識を目の前の円佳へと向けていた。
「わたくしの命令なしに勝手に切腹をするなどということは断じて許しませんわっ‼ それに罪の重さから耐えられなくなって責任から逃げるということは誰にだって出来ますわっ‼」
「ッッッ……!!」
「あなたは一体何者ですの!? 自らの責任を投げ出し腹を切って詫びた気になるだけの落ち武者ですの!? 否っ、否っっ、否っっっ!! 断じて否ですわっっっ!! ではあなたは一体何者なのか、どうかお聞かせ願えませんことっっっ!? さんはいっ!!」
「俺……はッ……」
「ええい歯切れの悪いっっっ!! 高貴で優雅で華麗なるこのわたくしにも我慢の限度というものがありますのよっっっ!! 次は必ず絶対マストっっっ自分が何者なのかを言いなさいですわっっっ!! 参《3》っ、弐《2》っっ、壱《1》っっっ──」
「俺は武蔵進七郎っっっ!! 円佳様の従者にして彼ピですッッッ!! 自らの責任から逃げずに立ち向かいッッッ、人々の規範であらせられる円佳様のお役に立てるように死力を尽くす男でございますッッッ!!」
円佳からの愛の鞭で全身をビシバシ叩かれまくった進七郎は、見事に立ち上がり己が何者であるかを高らかに宣言する。先程のような情けなさは微塵もなく、雄々しさと意志の強さを全身から放つその姿に食堂レストランにいた者は全員スタンディングオベーションで彼を讃えた。
それは円佳も同じで、拍手をしながら彼女は微笑んでいた。
「それでこそわたくしの従者、いや……彼ピですわね」
(まるちゃんクッッッソ可愛いーーーーーッッッ!! というかマジ尊すぎるんだがその微笑みッッッ!! 尊みが深すぎマリアナ海溝かいッッッ!!)
先からの勢いそのままに高らかに称賛するのではなく、周りの様子とは真反対とも言える淑やかな微笑み。それを見た瞬間、周りの歓声がサイレントモードになったかのように途端に聞こえなくなるほど、進七郎は円佳に心を奪われていた。
「さてっっっ!! そうと決まれば善は急げ、最善はリニアモーターカーと言いますわっ!! 早速わたくし達が入るべき部活動もしくは委員会を選びに行きますわよーーーっっっ!!」
「委細承知にございますッッッ円佳様ーーーーーッッッ!!」
進七郎は頭に被ったちゃんぽんもSDGsの側面からしっかり完食すると、高らかに笑いながら前を行く円佳の後を追って行ったのだった。




