常識外れの告白ッ‼
「なっ……にを仰ってやがりますのあなたはーーーーーっっっ!?」
その日、MBK学園の生徒達は初めて見聞きした。
家柄、容姿、気品、全てにおいて人々の上に立つまさしく女王にして全生徒の規範であり、崇拝とも言える憧れの対象でもある圧倒的美少女、義経院円佳の大絶叫を。
「申し上げた通りでございますッッ円佳様ーーーーーーッッッ‼」
その日、MBK学園の生徒達は初めて見聞きした。
言葉選び、タイミング、シチュエーション、全てにおいて規格外にありえないものであり、こともあろうに相手は義経院円佳という誰もが憧れるだけで告白など出来るはずもなかった存在に対して告白を敢行した圧倒的常識外れ男、武藏進七郎の大絶叫を。
「あっ、あなたという者はっ! こんな朝っぱらからよくもまぁいっ、いちゃラブえっちなどという破廉恥極まりないワードが口に出来ますわね!? 挙句の果てにはそれを公衆の面前でっ堂々とわたくしに迫るなどっ……非常識の世界チャンピオンか何かですのっ!?」
「円佳様の言い分はごもっともでございますッ!! しかしながらご安心をッ!! 俺は生半可な気持ちでは申し上げておりませんッ!! 冗談などでも遅めのエイプリルフールでもなく真面目も真面目大真面目でございますッ!! 改めましてどうかお願い致しますッ!! キャッキャッウフフして付き合ってイチャラブえっちしましょうッ‼ この通りでございますッ!!」
「っっっ……!!」
土下座してまで請願する進七郎に、円佳は赤面のまま言葉を失う。もちろん円佳の頬を朱に染めるのは照れなどではなく、恥ずかしさゆえ。こんなに人の目に留まる場であんなデリカシーの概念すら木っ端微塵に吹っ飛ばすような告白をされては。
寧ろ進七郎を含めた屋敷の者ぐるみでの盛大なドッキリだと思いたいほどだったが、そんな円佳の願いは叶うことはなかった。何せ目の前にいる男は武蔵進七郎、規格外の常識知らずである。
「わたくしにこんな恥をかかせてっ……あなた一体どういうおつもりですの!? 何がしたいのですかあなたはっっっ!!」
「無論、円佳様とキャッキャッウフフして付き合ってイチャラブえっちを致したく──」
「そういうことを聞いてるんではないですわこのおバカさんっっっ!! わたくしが聞きたいのはそのっ……」
そこから言い淀んだまま黙り込んでしまった円佳。彼女の異変に気づいたのか、土下座で頭を大理石製の通学路にくっつけていた進七郎も顔を上げた。
「私のことが……好きなのかどうかって……ことだよ……」
目にしたのは、耳まで真っ赤に染まった円佳の顔で。しかもそれは、ここでは見せることなど決してなかったはずの''まるちゃん''としての顔であった。
今にも泣き出しそうな潤んだ瞳と、庇護欲をかきたてられる弱々しい声は、それまでの怒声を遥かに超えるインパクトがあった。進七郎も周囲の取り巻きも、時間を忘れて固まってしまう程に。
(まるちゃんのことが……好き……俺が……?)
石のように硬直しながら進七郎は頭をしっかり動かしていた。
(いや……俺は”従者”として円佳様のお役に立とうと思ってあぁ言った。そこに俺がまるちゃんを好きかどうかということは関係ないはず……だが)
進七郎は意識を思考から円佳へと戻す。
今の円佳は”義経院円佳”としてではなく”まるちゃん”としての彼女。本来ならば高飛車ながらも高貴に優雅に人々の模範であらんとする義経院円佳としてこの場に立っていなければならない。
だが、それをかなぐり捨てて。皆に見られることを承知の上で、素の自分を知られるリスクを抱えてでも自分に質問して来たということは、それなりの覚悟を持っていることの証であった──が。
(なッ、なるほどッッッ……! まるちゃん、いや円佳様は敢えてまるちゃんとしての一面を利用しッ、俺がスムーズに告白出来るように配慮なさって下さったのかッッッ‼)
しかしこれを進七郎は盛大に勘違い! 全く別の方向性に突っ走ってしまう!
やはり進七郎は女心の分からない男であった!
「もちろんッ……好きでございますッ‼ 好きで好きでたまらないほどッ、四六時中好きと言いたいほどッ、あなた様のことが大好きでございますッ‼」
「っっっ~~~!?」
誤解したまま、円佳の厚意を無駄にはしないよう熱すぎる告白を行う進七郎。しかし円佳は好意の有無を気にしているのでその行為に意味がないことなど進七郎は知る由もなく……後に伝説としてMBK学園に伝説として語り継がれる告白は続く。
「あなた様のことが好きでなければッキャッキャッウフフして付き合ってイチャラブえっちしましょうッなどとは言いませんッ‼ では何故俺が今ッこの場でッ円佳様に告白をしたのかッ‼ そんなもの決まっておりますッ‼ あなた様への好き、LOVEが溢れ出したが故にでございますッ‼ 」
「は、はわわわ……!」
「さぁ円佳様ッ! レッツキャッキャウフフ&イチャラブえっちッッッ‼ どうかご一考下さいませッ‼」
「ふ、ふえええ……‼」
誤解は加速したまま、誓いを立てる騎士のように跪いて手を差し伸べる進七郎。真剣な表情で真っ直ぐに見つめるその瞳に迷うなどなかった。
言葉選びや状況はともかくとして人生初の告白を受けた円佳は”義経院円佳”としての自分を保つ余裕などなく、素の自分としてのありのままの反応を見せるしか出来ず。耳に至るまで顔を真っ赤にしながら、しばらく狼狽えていたが。
「 」
か細く聞き取るのもやっとのような声ではあるが確かに返事をすると、そっと静かに円佳は進七郎の手を握り締めた。
言葉、返事、そのどちらから鑑みても円佳の答えは告白を了承したもので。数秒間の沈黙の後、見守っていた生徒達からは盛大な歓声と拍手が溢れ出していた。
(やったッ‼ これでもっと円佳様のお役に立つことが出来るッ‼)
心の中で片手、いや両手を進七郎は突き上げる。勢いのままに行動してしまったとは言え、結果としては円佳に告白を受けて貰えたのだから。
(やったッ、やったッッ、やったぞッッッ‼ しかしながらお膳立てをして下さった円佳様にも感謝をしなければ──)
心の中で喜びを爆発させていた進七郎。
だが、次の瞬間には目の前の少女に意識を奪われていた。
今にも泣きそうに、しかしながら同時に優しく慈悲のある微笑みを浮かべた……”まるちゃん”に。
「……まるちゃん」
その名を呟くと共に、進七郎はまたも衝動的に身体が動いていた。
本能に突き動かされるように、進七郎は円佳の頬に手を添える。何をしようとしているのか分からない円佳はきょとんとしているが、進七郎は意識がないのも同然の状態でとあることをしようとしていた。
求めるがままに、望むがままに……──円佳と唇を重ねようと。
「──おやおや、聞き捨てならないね。今の話は」
それを止めたのは、ある男子生徒の声で。
その声が聞こえると同時に、周囲の生徒達は一斉に崩れ落ちていた。




