ユーリスと闘ってみた
ついに決戦です。
ポチが小さすぎて、戦わせるのが難しい!
想像しようとしても、ポチが見切れちゃう。
両ブロックの全試合は終了。勝ち残ったのはユーリスとポチだ。
開場はダークホース(キャット?)の登場に大盛り上がり。
「はいはーい♪ もうすぐ決勝戦だよ。参加選手の一人と一匹はリングに来てくださーい。観客のみんなは……」
呼び出しのアナウンスが流れた。
ポチたちの間に緊張が走る。
「あたしたちの手を借りたんだ、絶対に勝ってこいよ」
「ポチに猫神様の御加護があらんことを」
リオンとローズの言葉に一声鳴いて、ポチはリングを目指した。
***
「よく来たね。ここまで君が来られるとは思ってなかったよ。ただのモンスター如きの敵討ちのために結構なことだ」
もうリングの上にユーリスは来ていた。普段と変わらぬ金ぴかの鎧が目に痛い。
「ああ、俺もお前が前の試合で負けてしまわないか心配したぞ」
ポチはケットシーの姿を取っていなかった。黒猫の姿で人の言葉を話す。ポチは自分の定めたルールを破ることで、この瞬間の戦いへの覚悟を表していた。もし、自分が他のプレイヤーに秘密を話していたら、この事態は避けられていたはずなのだ。
二人の間のただならぬ雰囲気に、リコはおろおろとしている。
「それだけ減らず口を叩ければ十分だ。あとはこの場の戦いで身の程を分からせてあげよう」
ユーリスは剣をさっと抜き放つと、切っ先を上にして顔の前に立てる。
「その言葉そっくりお前に返してやる!」
ポチは威嚇する。
「え、えっと、そ、それでは『第十二回始まりの街バトルカップ』決勝戦、前回大会優勝者『聖騎士』ユーリス選手vs正体不明、本当にプレイヤーなのかと疑問爆発ポチ選手の試合を始めます!」
お互いの大切な物を賭けて、二人の間に決闘が交わされた。
ゴングが鳴る。
***
「この試合、刹那さんはどう見ますか」
中央リングが良く見える位置に、ローズと刹那は陣取っていた。他のメンバーは念のために逆サイドに陣取っている。
今まさに試合は始まり、中央にどんと構えたユーリスと、猫の敏捷性の高さを活かしてヒット&アウェイを繰り返すポチという構図が出来上がっている。
「まずポチ殿に勝ち目は薄いだろうね」
そう言っている端から、盾で攻撃を受け止められたポチがからくも剣によるカウンターを避けきったところだった。ポチは猫らしくくるりと一回転して着地すると、一旦距離を取る。そして攪乱するように、ユーリスの周囲を回り始めた。
「ユーリスは騎士と呼ばれるだけあって普段の戦いは堅実で手堅い。今のだって深追いしなかったのは、この先いくらでも攻撃できるチャンスがあると知っているからだ」
「でも、あんな陰険な人が騎士と呼ばれているなんて……。ポチにひどいことして。本当なら私がボコボコにしてやりた、あっ、ポチ。気を付けて」
ユーリスの悪口を言ったかと思うと、ポチが気になるのかローズは心配そうな声を上げた。
その様子を刹那は楽しそうに見ている。
「まあ、もしポチ殿が勝てる要因を上げるとするなら、ユーリスがポチを甘く見ているというその油断をつくことだね」
私の無念まで背負わせる形になってすまない、ポチ殿。
刹那はその雄姿を逃しはしないと、真剣な目をリングに向けた。
***
(思った以上にやばいな)
ポチはもう幾度攻撃しただろう。その速さを活かして背後へ背後へと回るのだが、点で動くユーリスと、円で動くポチではそれほどその有利を活かせない。さらに、
「《レイ》」
足を止めようとした瞬間に、盾の後ろから光魔法で作られた光弾が飛んでくる。猫という小さな的に当てる為か、収束率を緩め威力を下げる代わりに、その攻撃は広範囲になっていた。一般的なアバターなら当たったところでそれほど大きなダメージにはならないだろうが、HPが少ないポチには避けなければならない威力を持っている。
このままでは何もできずに体力ばかり削られていく。ゲーム内であるからそれほど多くはないが、それでも体を動かすという動作から経験的に疲れを感じ取ってしまうのだ。
ポチは背後を狙って何度目かの突撃を行う。
「このままでは僕は倒せませんよ。仇を討つのでしょう?」
その攻撃は盾でしっかりと受け止められた。金属と爪が触れ合う耳障りな音の影で、盾の裏から小さな笑い声が響く。耳のいいポチしか聞こえない。わざわざそんな声量で挑発してきているのだ。
「ああ、そうだ。あの毛皮は私の家の玄関に飾りましょう。毎回しっかりと踏んで上げますよ。ボスモンスターの敷物なんて、誰も使っていないでしょうね!」
「ニャーーーーーーー」
挑発する言葉にキレたのか、大きく鳴いたポチは距離を取らず、再度ユーリス目がけて飛びかかる。その切り返しの速さは本来人では決して追いつけない。猫の俊敏性の高さを最大限発揮していた。
「ははは、やっぱり獣だな。こんな言葉でキレるなんて」
即座に構えられたユーリスの盾は無慈悲にもポチの爪を受けきった……ように見えた。
『猫、舐めるなよ!』
この大会までの短い間、ポチは『死出誘う乙女』と何度も模擬戦をした。それはプレイヤーとの戦いを学ぶためだ。
その時に言われた刹那の言葉を思い出す。
油断を誘え。相手が思い通りだと思った瞬間こそが勝機だ。
(流石はオリハルコン製の盾。時間がかかったな)
ポチの爪は、ユーリスの盾を易々と切り裂いた。
「何っ!」
『その驚く顔が見たかったぜ!』
更に左の爪が追い打ちのように盾を切り裂き、ユーリスの守りが消える。身体を捻り一回転することで振り下ろした腕で再度繰り出した爪撃は、何が起きたか分かっていないユーリスの首元に突き刺さった……ように誰の目にも見えていた。
「ちょ、ちょっと、一体何が起きちゃってるんですか! ユ、ユーリス様の盾が真っ二つに。ユーリス様、大丈夫ですかー」
緊張感のないリコの声が流れた。まだ観客たちは何が起きたか分からず茫然としている。
分かっているのは『死出誘う乙女』と、もう一人だけだ。
「……あのジャッジ、ユーリス贔屓が過ぎますね。ポチの雄姿を讃えるべきです。それにしても、ポチやりましたね。考えていた通りの展開です」
「あんなスキルがあるとは驚きでしたが、こうも上手くいくとは」
戦いの結果にローズははしゃぎ、刹那は唸っている。
刹那が驚いているポチのスキルは【爪とぎ】。爪を砥ぐことで爪での攻撃の威力を増す。ただそれだけのスキルだが、最大値まで砥ぐと、砥石として使用した物体を切り裂くことが可能となる特殊効果を持っていた。
それはあの森の洞窟内でゴーレムを倒した時と同じ能力である。
盾で受けられると知りながら何度もポチが攻撃していたのは、このスキルの能力を発動させるために盾で爪を砥ぐためだったのだ。
「だが、ここで勝負を決めきれなかったのはまずいぞ、ポチ殿」
刹那は苦々しい口調でそう言うと、リング上の一人と一匹を見つめた。
やったかのように見えたユーリスは、何事も無かったかのようにマントを靡かせて立ち上がっていた。
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