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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
41/83

決闘を見守ってみた

刹那の戦闘シーンを妄想するのが楽しかったです。

せっかくなのでじっくりと戦わせてみました。



 情報を手に入れてすぐに走り出したポチだったが、最初にユーリスに接触したのは刹那達の方だった。


「ユーリス、見つけたぞ」


 スラム街の奥。人知れず暗殺者ギルドや盗賊ギルドといった存在がある、このゲームの闇サイドだ。何にでもなれるのが『休日の楽園』。それは決して善の方向だけではない。現実では無理だからこそ、ゲームでは悪いことをしたいと思う者も多いのは当然だったのかもしれない。

 そんな闇が蔓延するスラムのさらに隠された場所に、ユーリスの隠れ家はあった。外からは入り口のないただの廃墟にしか見えないが、それはユーリスによる光の結界で映されたフェイク。猫の嗅覚と聴覚がなければ、発見は困難だったろう。


「ああ、これは刹那。久しぶりだね。おお、パーティー全員で僕の下を訪れるなんて、やっと僕の美しさを理解したのかな。それとも」


 ユーリスの姿が変わった。光り輝いていた鎧は、まるで闇を羽織っているのではないかと思うほど暗い服装になり、腰に提げていた聖剣は何の装飾もされていない武骨な刀へと姿を変えている。

 しかし、それ以上に変わったのは顔。ナルシスト色の強い自慢げだった美しい顔は、強い悪意によって歪み、歪な美しさを形成していた。

 その変わりように『死出誘う乙女』たちは刹那を除き皆が息をのむ。


「それともこっちの僕に御用かな?」


 そう言って、刹那を嘲るように笑う。


「てめぇ……。俺が潰してやろうか」

「リオン。気持ちは嬉しいですが……」


 笑われた刹那ではなく、リオンの方が鉄棒を取り出してユーリスに襲い掛かろうしたが、刹那がすっと手を出して止める。


「あれ? 襲い掛かってこないんだ? それで? 今まで僕の事を見逃していた刹那が、今日は何の様だい。あー、僕にエクスカリバーを渡してくれる気になっ……」

「私はお前を止めに来た。私はお前に決闘(フェーデ)を申し込む」


 調子に乗った言葉を吐き続けるユーリスを、刹那はまるで斬り捨てる様な言葉で遮った。

 決闘。それはこのゲームにおける正当なプレイヤー同士の戦いである。一撃勝負やタイム制などいくつかルールはあるが、最後に一つ設定が出来る。お互いにアイテムを賭けることが出来るのだ。そしてこの方法で刹那はユーリスから透過刀鎧通しを奪うつもりでいた。

 今回二人が設定したのはHP全損ルール。ただし、決闘の場合決闘終了後、敗者のHPは一割まで回復されることになっている。


「決闘か、なるほどなあ。僕からこの刀を取り上げようということか。いいよ、相手をしてあげる」


 普段の騎士らしい口調を軽口に変えてしまっているユーリスは、その条件をやすやすと呑んだ。ポンポンと腰に差した透過刀鎧通しを叩きながら、自信満々に言ってのける。


「ただ、一応お前は本当にあの剣を持っているのか、確認させてくれるかな」

「……分かった」


 刹那は頷くと、アイテムボックスから聖剣エクスカリバーを取り出して、大きく振る。その剣身の輝きは闇が覆い尽くすスラムを明るく照らすほどだ。誰が見ても分かる。それがデータでしかないとしても、確かにその剣は本物の威圧を放っていた。


「おお!」


 ユーリスは子供のように声を弾ませる。


「それは僕の剣だ。奪わせてもらうよ」

「元のお前だったら、それでも良かったのだがな」


 ユーリスの目は聖剣を見つめ、刹那の目は過去のユーリスを映しているようだった。目の前にいながら、二人の気持ちが昔のように交わることはない。


『決闘が認められました』


 そのアナウンスが響いた後、刹那とユーリスの戦いは始まった。

 刹那は居合切りの構えで待ち受け、ユーリスは鎧を脱ぎ捨てたままの姿で、腰の刀ではなく剣を取り出して構えた。


 ***


 ポチがその場についた時、戦いは中盤を迎えていた。


「はあっ!」


 刹那は気合一閃。鞘に収まっていた刀が、不用意に間合いに入り込んだユーリスのわき腹目がけて振り抜かれる。

 『休日の楽園』随一の剣捌きと恐れられた『剣姫』の居合切り。その切れ味と速さ以上に、間合いに踏み込んだものを逃がさない抜刀のタイミングが見事だった。

 誰の目にもユーリスが輪切りにされる未来が見えたことだろう。


「何度やっても、無駄だよ」


 しかし、ユーリスはその斬撃を意に返さない。彼が纏う装備の防御力の高さか、全ての攻撃が薄く見える黒衣を突破できていない。もう幾度目かの攻防でユーリスはその事を理解しているからか、防御を気にすることなく剣を振り下ろす。ユーリスが一撃を振り下ろすまでに、何度も剣閃が宙を舞うが、ダメージを与えた様子はない。


(何だこの奇妙な手ごたえは……。この黒衣に何か仕掛けがあるのか?)


 刹那は届かぬ攻撃を諦めてはいなかった。ユーリスは無防備に攻撃を受けてみせているようで、必ず黒衣で刹那の刀を受け止めていた。視認するのが困難なほどの速さに達した刹那の太刀筋を見切る目は、ユーリスの実力の高さを示していた。

 それが分かるからこそ、刹那は悔しかった。

 努力を怠らない昔の、まっすぐだったユーリスに戻れるのではないかという錯覚を持ってしまう。

 ユーリスの剣を半歩体をずらして横に躱すと、刀を跳ね上げる様にして刹那が狙ったのは黒衣がカバーできていない首筋。思い切り剣を振り下ろしたことでがら空きになった首を、刹那の刀が切り上げる


「なっ!」


 驚いたのは斬られたユーリスではなく、斬った刹那の方だった。首を斬り飛ばすつもりで放った一撃が、黒衣のない場所を狙ったにもかかわらず思ったほどのダメージを与えられなかったからだ。まるで力を吸収されたかのようだった。

 その隙をユーリスが見逃すはずもなく、振り下ろした剣を切り返して刹那の胴体を狙う。刹那は着ている着物でその攻撃を優雅に受け流すと、素早く納刀して距離をとった。


「はっはっは、流石だね、刹那。和服を刀のように扱って相手の攻撃を受け流す、特殊スキル【守単衣(かみひとえ)】。君レベルじゃなきゃ扱いきれないが、完全に使えるようになればこれほど頼りになるスキルも無い」

「……そう言うお前のあれは何だ。私の攻撃を止めているのは何かのスキルだろう」


 間合いを測りながらしゃべる二人のHPはほとんど減っていなかった。ユーリスは得体のしれないスキルを用いて、刹那は相手の攻撃を最適なタイミングで受け流すことで、互いにダメージを与えられずにいたのだ。その意味で二人の闘い方は似通っていた。どちらも相手の攻撃を懐で受けきり、自分の攻撃を届かせるギリギリの戦い方だ。


「ここまで戦えるだけの鍛錬を続けておいて、何故お前は卑怯な事をするんだ! 普段の騎士としての技量も、暗殺者としての技量も生半可に身に付けられるものではないはずだ!」


 刀を交えて刹那はユーリスの強さを知った。卑怯な事をする必要もないほどの力だ。騎士としての前衛としての真っ向からの闘いも、暗殺者としての静かな戦いも出来るプレイヤーなど彼しかいない。それは称賛されていいことだった。


「? 甘いね、刹那は。そんなの簡単さ」


 どうにか説得できないかと言葉を重ねようとする刹那を、ユーリスは不思議そうな目で見る。そして、にたりと笑う。


「楽しいからさ」

「楽しい……」

「ああ。強者が良く分からないうちに死んだ時の茫然とした顔を、ゲームでの居場所を無くした者たちの空虚な顔を、そして、何も知らず僕を騎士だと崇めているクソプレイヤーどもの顔を、見るのが快感なのさ」


 まるで正気じゃない。

 この場にいる者たち全てがそう思った。

 刹那はギリッっと奥歯を噛みしめる。


「お前はそこまで腐ってしまったのか……」


 刀の柄を握る力が増す。笑っているユーリスを見る目にはもう、迷いは見えない。


「私の知っている騎士はもういないのだな……」

「?」


 その言葉に首を傾げるユーリス目がけて、刹那は言い放った。


「やはりお前の首はここで刈り取らないといけないようだ。そして、その刀を奪う」

「はは、やらせるわけがないでしょ。僕が聖剣を奪うんだ。でも、聖剣を奪うんだから、この格好じゃ華がないね」


 ユーリスはここに来て鎧をまとった。いつも纏っている金色に輝く全身鎧に、体の半分を隠してしまっている大盾。その精神性からは考えられないほど、彼の姿はまさしく清廉な騎士だった。


「さあ、刹那。僕に聖剣を渡す準備はできたかい?」

「ああ、できたよ。ただし、お前を切る準備が、だが」


 まるで重みがあるかのように二人の間の空気が張り詰める。

 お互いが次の瞬間には相手を殺そうとタイミングを見計らっている。

 問題は刹那の能力をユーリスは知っているが、ユーリスの能力をこちらが知らないという事だ。手を出せずにただ見てることしかできない四人と一匹は、少しでもユーリスの能力を見極めようと目の前の戦いを睨みつけている。

 いや、そういう理由がなくとも目が離せなかっただろう。それほどに二人の戦いは高次元のものだった。

読んでいただきありがとうございました。

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