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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
29/83

ボスに挑んでみた 前哨戦

おかしい。ダンジョン攻略しようと思ったのに、気付いたらショートカットしてた。

戦闘シーンだとあまり文字数が伸びないところを直したい。

意外と深かった穴から地面へと、猫のバランスと柔軟さで危なげなく着地する。リアルの猫なら降りることが出来ないほどの高さだったが、高レベルである恩恵を受けていたポチには何ともなかった。

 ゲーム補正ってやつか。一回転して綺麗に着地しながらそう思い、ポチは辺りを見回してみる。

 真っ暗闇も【猫の目】のおかげで見通すことが可能なので、人が洞窟系ダンジョンにもぐるときに必要な灯りのアイテムは必要ない。

 ポチが降り立った場所は意外と広い空間だった。少なくとも万代高校の小さな体育館よりはデカい……気がする。猫の体は小さい上に視点も人間より低いので、現実のものと大きさを比べるのが難しいのだ。


『別に何もないみたいだな』


 ここがボスの間ならそれらしい何かがあってもよいのだが、それらしいものはない。目に見える変わった物は、ちょうど穴から降りたところとは反対側の壁にある大きな扉。豪華な装飾がなされ、ヤバそうな雰囲気を醸し出している。

 向こうに歩いてみるしかないか。

 そう判断したポチが部屋の真ん中部分を通り抜けようとした時、上に気配を感じた。

 一瞬の判断で右に全力で跳ぶ。着地を顧みない跳び方をしたが、何とか倒れることなく着地を決めた。そして重い物が落ちてきた爆音がして、地面が大きく揺れた。


『おいおい。これは厳しくないか……』


 振り向いたポチの目の前には、巨大なゴーレムが立ちふさがっていた。


「洞窟を踏破せずして進もうとは、不届き者が。守護者たる我が力でもって、汝を殲滅する」


 野太い声が猛々しく放たれた。ゴーレムが降ってくる時に同時に点いた明かりの下で、ゴーレムの肌は金属的な光沢を放っている。体の形は金属塊を人型にくっつけただけでそう変わらないのだが、よく想起するような岩でできたものとは格が違う雰囲気を持つ。

 モンスター名はミスリルゴーレム。伝説の金属が使われたゴーレムだった。


「粉砕するのみ」


 茫然と見上げるポチ目がけて、高く掲げられた右腕が豪快に振り下ろされる。体育館並だと思っていた広い空間だったが、今はその巨体に圧迫されてかなり狭い。ゴ―レムからすればこの部屋内は、全て一足の距離である。ゴーレムの弱点である鈍重さも、この狭さではそれほど大きなデメリットではない。

 考えることなく体が動き、大きく開いた敵の股下をくぐり死角となった背後から攻撃する。

 強化された爪での攻撃は、


『やっぱり固いな。前足が痺れるぜ!』


 カキン、という音と共に傷をつけることなく弾かれた。


「笑止。その程度我が肌に傷もつかぬわ。ガハハハハハ」


 口もないくせに――顔は目の部分だけ何か赤い宝石が埋め込まれている――豪快に笑い声をあげたと思うと、死角に身を隠そうとするポチを嘲笑うかのように顔を180度回転させる。そしてそのまま胴体ごと回る形で腕が真横からフルスイングされる。天井に向かって高く跳んで避けたポチは、空中にいる所を狙ってきたもう一方の手を避けるために、天井を足場にしてゴーレムに跳びついた。そのまま乱れ引っかきをくらわせる。


「痛くもかゆくもないわ」


 負け惜しみでも何でもない言葉が吐かれ、その通りポチの爪は嫌な音を立てるばかりでダメージは与えられていない。


(これは厄介なモンスターだな)


 穴を抜けてここまで来られるのは体格に優れない種族ばかり。基本的に魔法か、ポチのようなヒットアンドアウェイの戦法だろう。魔法だと距離が取れない上、壁役がいないから魔法の詠唱が出来ない。よしんばできても、魔法に対して強い耐性を持つミスリル製である。太刀打ちできない。

 じゃあ、斬りかかれば勝てるかって言うとそれも違う。

 風を切る音を響かせながら振り下ろされる超重量の拳を避けながら、相手のいたる所を引っかいていく。手数で攻撃する以上単発の威力は低く、防御力の高いゴーレムとは相性最悪である。

 だからガハハハ笑いながらゴーレムが豪快に地面をえぐるパンチを出してきたのに対して、ポチはギリギリで避けては何度も引っかくを繰り返しているのだが、全くダメージの入った様子がない。

 ポチは巨大な手をかいくぐり、狙いづらい足元を走り抜ける形で爪を立て続ける。


「あがくがよいぞ、猫風情が。一瞬でも気を抜けばぺちゃんこだぞ」


 ただそれに対して、自分が負けるとは全く思っていないようで、ゴーレムはポチの攻撃を避けようともしない。ただ愚直に足元の黒猫に拳を振るっている。

 ゴーレムの攻撃。ポチが避けて引っかく。ゴーレムの攻撃。ポチが避けて引っかく。そんな単調な時間がどれだけ経ったろうか。

 最初は小さな違和感だった。

 少しだけ硬い物同士がこすれる嫌な音が変化した。

 ミスリルの肌の表面にうっすらと引っかき傷が残った。

 そんな違和感は蓄積していき、そしてある時ゴーレムは気がついた。いつの間にか自分の腕が大きくえぐられていることに。


「な、何をした、猫め!」


 痛みを感じぬが故に気付かなかったその変化。ポチの爪は既にミスリルを切り裂くだけの切れ味を手に入れていた。


『おまえが油断して、攻撃を受けてくれて助かったぜ』


 何が起きたか分からず気が動転したままの状態で振り下ろされたゴーレムの拳が当たるはずもなく、ポチは簡単に避けきると長く伸ばした両前足の爪でゴーレムの両腕を斬りおとした。


「こ、こんなはずでは……」


 無機物のモンスターとは思えぬ驚愕の声を聞きながら、腕を斬り落とした返す足で首を刈り取った。

 ぐらりとバランスを崩した頭部のミスリル塊が地面に落ち、盛大に音を立てるとともに死亡エフェクトの光がしてその巨大な姿は消え去った。


読んでいただきありがとうございました。

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