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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第十章 アフターストーリー(冬:クリスマス)

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第486話 プレゼント、そして――

 私が投稿しているノクターンノベルズの方へifストーリーの投稿作業がありましたので、次回投稿は木曜日を予定しています

(ノクターンの方も本日12:00に投稿しています)

「……ただいま、怜」


「おかえり、桜彩」


 リビングへと帰って来た桜彩を、怜は優しく抱き寄せる。

 瞬間、胸の奥で鼓動が大きく跳ねあがる。


「えへへ……」


 腕の中で桜彩が上目遣いで見上げてくる。

 そんな桜彩に、怜は優しく唇を寄せる。


「ちゅ……」


「ん……」


 触れ合うだけのキス。

 しかしそれだけで、シャワーと暖房で温まった体が、更に一段階熱くなる。


「えへへ。暖房入れてくれたんだね」


「ああ。寒くないか?」


「ううん、とっても暖かいよ」


 怜の問いに桜彩は首を横に振り、頬を怜の胸に押し当てた。

 胸の中で幸せそうに微笑む桜彩に、怜の顔にも自然と笑みが浮かび、背中を撫でる。

 そこで怜は桜彩の髪がまだ湿っていることに気が付いた。


「髪、まだ濡れてるな」


「うん……。シャワー浴びたばっかりだからさ」


「そっか。それじゃあいつもみたいに……」


 怜が椅子を引くと、桜彩はゆっくりとそこへ座る。

 いつも通りの髪のケア。

 絡まった毛先を指先で丁寧にほぐしていく。

 いつも通りの桜彩の綺麗な髪。


「えへへ。いつも通りなんだけどさ、なんだか今日はいつもよりドキドキする」


「俺も」


 ブラシの音がリビングに静かに響く。

 桜彩は指先で怜の手に軽く触れて振り向く。


「いつもありがとね。こうやって怜にやってもらうの心地いい」


「それは俺だって。桜彩がいつも綺麗に整えてくれるの、好きなんだ」


 ここ数か月、毎晩のようにお互いの髪のケアをしている二人。

 もっとも今晩に限っては、怜は一人で終わらせてしまったのだが。

 怜の手が桜彩の首筋に触れる度、桜彩は小さく息を漏らす。

 その声が怜の耳に届くたび、胸が大きく跳ねる。

 ケアを終えた怜は、椅子の後ろからそっと桜彩の前面に手を回して優しく抱きしめる。

 怜の手に包まれた桜彩も、首を回してふふっ、と笑う。


「……怜」


「うん、桜彩」


 二人揃って顔を寄せ、そして二人の唇が重なる。


「「ちゅ……」」


 充分すぎるほどに唇を重ね合わせた後、そっと離す。


「えへへ……、幸せだよ」


「俺だって」


 再び見つめ合い微笑み合う。


「怜と一緒にいると、なんだか時間が止まったみたい……」


「俺だって。桜彩が隣にいてくれるから……」


 そしてまた唇を重ねる。

 唇を離し、怜は桜彩の隣へと腰掛ける。

 すると桜彩は怜にしなだれかかり、上目遣いでお願いするように口を開く。


「ねえ……、もう一回抱きしめてくれる?」


「もちろん。俺だって離したくない」


 体を預けてくる桜彩を、怜は優しく抱きしめる。

 桜彩も嬉しそうに身を委ね、甘い吐息を漏らす。


「「ちゅ……」」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく抱き合いキスを重ねる。

 そして一度身体を離した桜彩は、恥ずかしそうにしながら膝の上に置かれた包みを手に取る。

 橙のラッピングペーパーに、サテンリボンが結ばれているそれがどういったものであるのかは、当然怜にも想像がついている。


「……あのね、怜。渡したい物があるんだ」


 手に持った包みを顔の前に掲げ、恥ずかしそうに口元を隠しながら桜彩がそう口にする。


「クリスマスプレゼント、受け取って」


「うん。ありがとう、桜彩」


 少し震えた手で差し出された包みを受け取る際に手が触れ、ドキリとしてしまう。

 桜彩の顔を見ると、当然と言うか、真っ赤に染まっていた。


「えへへ……。喜んでくれるといいな」


「開けてみても良いか?」


「うん」


 不安と期待の混じり合った桜彩の視線を受けながら、怜は丁寧に袋のリボンを解く。

 指先に触れた布のような感触を感じながら、中からプレゼントを取り出す。


「これ…………」


「うん。テーブルクロス」


 広げてみると、そこには愛らしい絵が描かれていた。

 二匹の猫と一匹の犬。

 どちらも可愛らしくデフォルメされ、楽しそうに遊んでいる姿が生き生きと描かれている。

 そしてこれは、デフォルメされているとはいえ間違いなくクッキーとケット、そしてバスカー。

 二人の親友のペットである三匹の姿。


「……これ、桜彩が描いたのか?」


 テーブルクロスを撫でるように触れながら聞く。


「うん……」


 少し照れくさそうに俯きながら説明する桜彩。


「市販の物をそのままじゃなく、自分でも何かしたかったからさ。色々と調べたら、自分で描いた絵をテーブルクロスに印刷してもらうサービスがあったんだ」


「そっか……。凄く嬉しい」


「それにね……、これなら毎日、怜と一緒に使えるなって思って」


 恥ずかしそうに桜彩が告げる。

 怜はゆっくりと笑みを浮かべながら、布の上に目を落とす。

 デフォルメされたクッキー、ケット、そしてバスカーが、仲良く遊ぶ姿が生き生きと再現されている。

 絵のタッチは桜彩らしい柔らかさと温かさを帯び、まるで今にもテーブルクロスから飛び出してきそうだ。


「凄いよ、桜彩。本当に……」


「えへへ……。喜んでくれて嬉しいな」


「素敵すぎて、使うの躊躇っちゃうかも」


 そう言うと、桜彩はくすりと笑って、人差し指で怜の額を軽く小突く。


「ふふっ。そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、私にエプロンをプレゼントしてくれた時に怜が言ってくれたでしょ? 『エプロンってのは汚さないように注意するよりもむしろ汚れてこそ意義がある物だから』って」


「あ、ああ……」


「ふふっ。だからさ、一緒に使おうね。例え汚れちゃっても、飾っておくよりもその方が嬉しいからさ」


「ああ。それじゃあ早速使うか。手伝ってくれ」


「うんっ!」


 嬉しそうに返事をした桜彩が、テーブルの上に用意されていたお茶のセットをお盆に載せてどかす。

 そして怜はテーブルクロスを広げると、三匹が生き生きと遊ぶ姿が一層際立つ。

 怜は両端を丁寧に整え、しわが寄らないように気を配る。


「凄いな……」


「えへへ。自画自賛になっちゃうけど、可愛い」


 桜彩はお盆を置き直し、三匹の上をそっと撫でる。

 怜はその様子をスマホで撮影し、桜彩と二人で眺める。


「よし、これで準備完了……かな?」


「うん、完璧だ。三匹も喜んでるみたいだな」


 怜が笑いながらクッキー、ケット、バスカーを見つめると、桜彩も楽しそうに頷く。


「……じゃあ、まずはお茶を淹れようか」


「うん、私も手伝う」


 ティーポットからお茶を注ぎながら笑い合い、お茶を注いでお茶会の準備が完了した(お茶菓子については、先ほどビュッフェでたくさん食べた為にお茶だけ)。

 カップからお茶の湯気が香りと共に上がり、甘い香りがリビングへと流れる。

 布の上に広がる三匹の姿と、湯気と香りに包まれたリビング。

 その中で、二人は優しく笑いながら、お茶を楽しんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 二人でお茶の片付けを終える。

 時刻は間もなく二十三時。

 明日のアルバイトは午後からである為、就寝までにはまだ充分すぎるほどの余裕がある。

 そして――

 数か月前の約束。

 その時がもう寸前まで迫っている。

 お茶の片付けは終わり、後はもう寝室へと向かうだけ。


「クリスマス……イブだな」


「うん……。私、準備……できたよ…………。待っててくれて、ありがとう」


 桜彩の声は小さく、震えているのが分かる。

 怜はそっと肩に手を置き、柔らかく握った。


「私、怜と一緒に……」


「俺も、桜彩と一緒に……」


 互いに目を合わせ、深く頷き寝室へと向かう。

 外は雪がまだ舞っているが、二人の間には暖かな空気しかない。

 寝室の扉を開け、そっと手を取り合ったまま中に入る。

 柔らかな照明が二人を包み、甘く、緊張と期待が入り混じった空気が満ちていく。


「桜彩……」


「怜……」


 怜の胸に顔をうずめ、目を細めた。


「「ちゅ……」」


 優しいキス。

 唇を離すと、桜彩が小さく手を握り返して微笑む。

 触れ合う指先や温もり、吐息、体温。

 互いの手を握り直し、最後にもう一度軽く唇を重ねた後、ベッドへと向かう。

 これから訪れるであろう瞬間を前に、緊張と期待、そして深い幸福感に胸を震わせながら、二人は静かに目を合わせ、互いの存在を確かめ合う。

 部屋の中には二人だけの、甘く熱を帯びた時間がゆっくりと流れていく。

 外の雪が静かに舞い落ちるクリスマスイブ、二人だけの夜がゆっくりと始まろうとしていた。

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