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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第十章 アフターストーリー(冬:クリスマス)

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第485話 アパートに戻って

 温かい室内から一歩外に出た瞬間、夜の冷たい空気が二人の頬を包む。

 降り続ける雪はふわりと舞い、街灯の淡い光に反射してきらきらと輝いている。


「……寒っ」


「うん、寒いよね」


 桜彩も怜の言葉に頷き、首に巻いたマフラーをもう一度ぐるりと整える。


「でも、良い感じだな」


 怜は笑いながら手を差し伸べ、桜彩の手を優しく包む。

 桜彩も嬉しそうにその手に指を搦め、二人揃って踏み出した。


「こうやって雪が舞う夜のクリスマスに桜彩と一緒に歩くのって……」


「うん……クリスマスっぽいね。植物園も綺麗だったし、お食事も凄くて……」


 二人で過ごしたクリスマスデートを思い返す。

 装飾いっぱいの壮大なクリスマスツリー、窓の外の雪と明かりを眺めながらのディナー。

 間違いなく、これまでで最高のクリスマスイブだった。


「植物園も良かったな。あの温室の中の香りとか、暖かさとか、ツリーとか……。桜彩と一緒に回れたのが嬉しかった」


「私も……楽しかったよ。クリスマスのお花を眺めながら二人でお話ししたり、ツリーと一緒に写真を撮ったり」


 怜がぽつりと呟くと桜彩は少し顔を上げ、怜の横顔を見上げる。

 夜の街は穏やかで、イルミネーションや店先の小さな灯りが輝いている。


「それに、ホテルも凄かったね。雰囲気もお料理も」


 桜彩がぽつりと言うと、怜は頷きながら微笑む。


「うん。普段なら入らないような場所だし、こうして二人で楽しめるっていうのがいいよな。あのビュッフェも豪華だった」


「前菜も美味しかったけど、やっぱりターキーの香りが忘れられないな。切り分けてもらったときの湯気と香り……。あれを一緒に食べられたのが嬉しかった」


「日本だとクリスマスは七面鳥よりも鶏だからな」


「ふふっ。私、初めて食べたよ」


 桜彩の瞳がキラリと輝き、思い出に浸るように小さく笑う。


「スイーツコーナーも印象的だったな。見た目もクリスマスっぽくて、食べる前からワクワクした」


 怜も目を細め、少し頬を赤らめながら笑う。


「桜彩が喜んで食べてるのを見るだけで、俺も嬉しくなった」


「ふふっ……。私も怜が食べてるの見てるだけで楽しかったよ」


 雪が再び舞い落ち、髪や肩に軽く積もる。

 桜彩は手袋をした手で雪を払いながら微笑む。


「こうして街を歩くだけでも、なんだか特別な気分になるね」


「ああ。今日一日、いろんなことを一緒に経験できたな。リュミエールでのアルバイトも、植物園もホテルも、桜彩と過ごせて本当に良かった」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 二人がバス停に着くと、タイミング良くバスが滑り込んできた。

 ドアが開き、暖かい空気が二人を迎える。

 中はほどほどに空いており、二人揃って座席に腰を下ろす。


「寒かったから、温かいね」


 桜彩が嬉しそうに息を吐き、手袋を外す。

 怜もその手に指を搦め、手袋越しではなく、直に桜彩の手を感じる。


「ふふっ。怜の手、温かい。手袋越しに手を繋ぐのも良かったけど、でもやっぱりこうして直接繋ぐのは良いよね」


「ああ。桜彩の手も気持ち良いぞ」


 バスが発進すると、暖房が体がじんわりと温める。


「ほら、怜」


「ん。ありがと」


 桜彩がマフラーの一部を解き、怜の首へと優しく巻く。

 歩く時は危険だからできなかった、二人でのマフラー。


「ふふっ、温かいなあ」


「うん。暖かい」


 寄り添って一本のマフラーを使い、手を搦める。

 同じマフラーを二人で使っている為に、身体の距離がぐんと近くなる。

 こてり、と怜の方に桜彩の頭が載せられ、幸せそうな表情で見上げてくる。

 バスはゆっくりと道を進む。

 時折、通りのイルミネーションや店の窓に映る暖かい光が顔を柔らかく照らす。


「外の景色も綺麗だし、雪も降ってきて……」


「そうだな。今日の思い出、いっぱいできたな」


 怜が笑いながら言うと、桜彩も自然に笑顔になる。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 やがてバスがアパートの最寄り停留所に近づく。

 名残惜しいが、怜はマフラーを外して、再び桜彩の首へと優しく巻く。


「ありがと。もう少しこうしていたかったけどね」


「俺も。まあ、これからは何度でもする機会があるし」


「うん、そうだね」


 停車したバスから手を繋いで降りる。

 この辺りまで来ると喧騒は少し遠ざかり、住宅街の静けさが訪れる。


「……もうすぐ私達のアパートだね」


「そうだな。やっと戻って来たと言うのか、それとももう戻って来ちゃったと言うべきか」


「ふふっ、どうだろうね。長かったようにも短かったようにも感じるよ」


 アパートが見えてくると、足取りは自然にゆっくりとなる。

 雪にうっすら残る足跡を見て、桜彩はふふっと笑う。


「見て、二人の足跡」


「そうだな……。クリスマスにこの道を一緒に歩いた記念だ」


 怜は小さく笑み、肩越しに桜彩の髪を撫でる。

 桜彩は嬉しそうに笑いながらスマホを取り出し、足跡の残る雪道をスマホに収めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そしてアパートへと到着する。

 リビングの自動ドアを、お揃いのキーホルダーの付いた鍵で開けて中へと入る。

 寄り添ったままエレベーターに乗り、二人の自室の前へと到着すると、桜彩は怜に向かって軽く抱きつくように体を寄せた。


「楽しかったね……」


「ああ。桜彩と一緒だから、全部特別だった」


 二人の顔が近づき、鼻先に雪の粒がくすぐる。

 思わずくすくすと笑い合いながら、怜は桜彩の肩にそっと手を回す。

 桜彩も怜の背中に両手を回し、そして顔を近づける。


「ちゅ…………ん…………」


「ちゅ……はぁ……」


 二人でキスを交わし合う。

 最初はそっと、柔らかく。

 そして次第に互いの呼吸に合わせて重なり合い、唇が溶け合うような情熱的なキスへと変わっていく。


「ふぅ……」


 桜彩が小さく息を漏らし、手を怜の胸にそっと置く。

 怜も一度息継ぎをし、二人で見つめ合う。

 そして言葉を交わさず、再び唇を重ね合う。


「……………………」


「…………名残惜しいね」


 キスを離した後も、まだ唇が触れ合った感覚が残っているように感じる。

 頬が赤く熱くなり、心臓がまだ高鳴ったまま。


「でも……またすぐ会えるからさ」


 怜が優しく微笑むと、桜彩も微笑み返し、手をぎゅっと握り合う。


「うん、約束だよ」


 二人はそのまま小さく頷き合い、目をしっかりと合わせる。

 そして、お互いに贈り合ったキーホルダーの付いた鍵でそれぞれの玄関を開ける。

 防寒対策はしていたとはいえ、さすがに年末のこの寒さ。

 普段は二人共怜の部屋の浴室を使っているのだが、今日に限ってはそれぞれの自室のシャワーで体を温めることにする。

 桜彩を玄関で見送り、リビングのドアを閉めると、怜は自然に肩の力を抜いた。

 静かに流れる空気の中、暖房のスイッチを入れると、瞬く間に室内に柔らかな暖かさが広がる。

 外の冷たい空気で冷えた体が、少しずつ温められるのを感じながら、怜は浴室へと向かった。


「……それじゃあ、すぐに行くね」


「ああ。待ってるよ」


 玄関のドアを閉めると、怜は自然に肩の力を抜いた。

 リビングの暖房のスイッチを入れると、音を立ててエアコンが動き出す。

 リビングが温められるのを待つ間、冷たくなった体を温める為に怜は浴室へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 シャワーの温かいお湯が肌を伝わり、怜の体を温めていく。

 頭から肩や首筋、指先や足先、身体のいたるところがお湯に包まれるたびに、冷たさが徐々に温まっていく。

 しかし頭の中では、これから桜彩と過ごす夜のことがずっと渦巻いたまま。

 スポンジを持つ手を動かしながらも、思わず胸の奥が熱くなり、呼吸が少し早まる。


(……………………桜彩と)


 この後のことを考えながら、怜は震える手で体を洗っていく。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 シャワーを終え髪と体を拭き、リビングへ戻る。

 もう既にリビングの空気は温かくなっており、風呂上がりでも体が冷めることはないだろう。

 女性の桜彩は怜以上に時間がかかる為、桜彩が来るまでの間に温かいハーブティーを用意する。

 準備を終えるとスマホが震え、画面を覗くと桜彩からのメッセージが届いていた。


『もうすぐ行くね』


 短い文面に、怜の胸は一層高鳴る。

 指先で画面をタップし、すぐに返信する。


『待ってる』


 リビングに漂うハーブティーの香りが一瞬だけ緊張を落ち着かせてくれる。

 しかし胸の奥は依然としてざわつき、手のひらが少し汗ばんでいるのを感じる。

 ガチャリ、と玄関の鍵が開けられた音。

 怜は一度大きく深呼吸をして立ち上がる。

 数秒後、リビングのドアが開き、そこから桜彩が現れた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一度怜と別れた後――


 桜彩は自室のドアを閉め、軽く息をつく。

 肩に掛かるマフラーを解こうと指先を動かすが、ふと手が止まった。

 怜から貰った猫を模したマフラー。

 暖かくて、柔らかくて、ほんのりと怜の存在を感じてしまう。

 まるで、マフラーに怜が宿っているような。

 自然と笑みがこぼれ、頬がほんのり赤く染まる。


「……嬉しいな」


 指でマフラーを撫でながら、桜彩は小さく呟いた。

 少しの間その感触に浸り、深呼吸を一つ。

 とはいえいつまでもこのままではいられない。

 今頃怜はシャワーを浴びて、体を温めていることだろう。

 これから訪れる時間を想うと、心が甘くざわつく。

 そっとマフラーを外し、浴室へと歩を進めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 シャワーの温かいお湯が肌を伝わり、桜彩の体を温めていく。

 頭から肩や首筋、指先や足先、身体のいたるところがお湯に包まれるたびに、冷たさが徐々に温まっていく。

 しかし頭の中では、これから怜と過ごす夜のことがずっと渦巻いたまま。

 スポンジを持つ手を動かしながらも、思わず胸の奥が熱くなり、呼吸が少し早まる。


(……………………怜と)


 この後のことを考えながら、震える手で体を洗っていく。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 シャワーを終えると、タオルで髪と体を拭き、少し濡れた髪をまとめる。

 そしていつも着ている猫の着ぐるみパジャマに身を包む。

 ただし、髪がまだ湿っている為にフードはかぶらずに。

 そして初デートのネックレスを着用して。

 用意していた小さなプレゼントの袋を抱え、リビングへ向かう前にスマートフォンを手に取った。


『もうすぐ行くね』


 するとすぐに既読が付き、そして返信が送られてくる。


『待ってる』


 胸の奥に再び緊張と期待が混ざる。

 手に持ったプレゼントの袋の感触が、心の高鳴りを更に強くする。

 玄関のドアに合鍵を差し込み、静かに回す。

 そのままリビングへと続くドアの前に立ち、大きく深呼吸してノブを握る。

 リビングに足を踏み入れると、怜の姿が目に映った。

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