第483話 ディナー③ ~お待ちかねのスイーツタイム~
怜と桜彩は何度もビュッフェコーナーへと足を運び、特にローストターキーは何度もおかわりをした。
少しずつお腹が満たされつつも、二人にとってスイーツを外すことはできない。
まだ満腹にならないタイミングで足を運ぶと、目の前のスイーツコーナーに思わず息を呑んだ。
広々としたスペースにはまるで小さなクリスマスマーケットのように、色とりどりのスイーツが並んでいる。
「わぁ……凄い……!」
本日何度も繰り返された桜彩の驚きの声に怜も頷く。
カラフルなクリスマスカップケーキは、赤いベリーや緑のピスタチオで飾られ、星形のチョコやシュガーが煌めいている。
「見てるだけで楽しくなるな」
「うん。リュミエールとはまた違って……」
雪化粧したチョコレートブラウニーや、カラメルソースがかかったクレームブリュレ。
表面のカラメルはガリッと音を立てそうなほど焼かれ、甘い香りがふんわり漂う。
「うわあ、クレームブリュレもある……。焦げ目が綺麗」
「焦がされたカラメルの香りって、なんか良いよな」
「あ、それ分かる」
桜彩は嬉しそうに小さく笑うと、怜の肩に軽く触れた。
奥には、チョコレートファウンテンがあり、苺やバナナ、パイナップル、マシュマロが串に刺されて並んでいる。
温かいチョコがゆっくりと流れ落ち、光に反射してきらきらと輝く。
「見て、怜! フルーツもいっぱいだよ!」
「ほんとだ……。チョコレートファウンテンは普段食べないからなあ……」
向かいの棚には赤や緑のクリスマスゼリー、ラズベリーソースがかかったチーズケーキ、ホワイトチョコのムースカップ等が並ぶ。
それぞれに小さな飾りやシュガーで模様が施され、見ているだけでも夢中になる。
「わぁ……。ゼリーの色も鮮やかだし、ツリーの形に見えるのもある!」
「このチーズケーキ、上に雪みたいに粉砂糖がかかってる……。まるで雪景色みたいだな」
「まさにクリスマスだよね」
小さなトレーに並ぶミニパフェは、カップの底にチョコソースやベリー、スポンジが層になっており、上にはホイップクリームと金色の星型チョコがちょこりと乗っている。
「これも可愛い……。食べるのもったいないくらい」
「だけどせっかくだし、全部少しずつでも味わいたいよな」
更にパンナコッタやモンブラン、ピスタチオのロールケーキ、キャラメルナッツのタルトなど、さまざまな種類のケーキがぎっしりと並ぶ。
ビュッフェということで一つ一つは小さいのだが、それでも全種類食べるとなればかなりの量になるだろう。
「これ全部一度に取ったら、皿が大変なことになりそうだね」
「うん、でも少しずつ取れば、二人で分け合って楽しめるな」
桜彩は怜を見上げ、にっこり笑った。
楽しくスイーツを選び、皿に載せていく。
「このモンブラン、しぼりたてだって」
「ピスタチオのロールケーキも美味しそう……。色合いがクリスマスカラーだ」
「パンナコッタは、表面に雪の結晶の砂糖がかかってる」
「ほんとだ……。こういう細かい演出もいいな」
デザートコーナー全体には天井からライトの光が反射し、ガラスのプレートやクリアカップに入ったスイーツをきらきらと照らしている。
窓の外には舞い落ちる雪と街のイルミネーションが見え、特別なクリスマスの世界が演出されている。
「ねぇ、怜……。こうして選んでるだけでも幸せだね」
「そうだな……。二人で選ぶ時間も含めて、特別な思い出になるな」
「うん」
桜彩は小さく頷き、皿を抱えてゆっくりとスイーツを選ぶ。
怜も桜彩と並んでスイーツを盛り付けて行き、次第に二人の皿はスイーツでぎっしりと埋まってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
席に戻りトレーをそっとテーブルに置くと、桜彩は嬉しそうに頬をほころばせた。
「どれも可愛すぎて、選ぶの大変だったね」
「ほんと。どれから食べるか迷っちゃうよな」
「うん。まあ、あとで全部食べる予定だけどね」
いたずらっぽく笑う桜彩。
怜も苦笑しながら、湯気を立てるティーポットを手に取った。
二人が選んだのは特製のフレーバーティー。
カップに注がれる琥珀色の液体から、柑橘とハーブが混ざった甘い香りがふわりと立ちのぼる。
「わぁ……良い香り。ちょっとオレンジっぽい?」
「うん。多分シトラスティーだな。ほら、ミントも少し混ざってる」
桜彩はカップを両手で包み込み、ゆっくりと口を近づけた。
一口含むと、ほっとしたように目を細める。
「温かい……。なんか、体の中までぽかぽかするね」
「うん、美味しい。ケーキと合いそう」
二人の前には取り分けたデザートが美しく並んでいる。
苺とラズベリーのタルト、ピスタチオのロールケーキ、ホワイトチョコのムース、しぼりたての小さなモンブラン。
皿の上でそれぞれのスイーツが、まるで宝石のように輝いている。
桜彩はフォークを手に取り、目を輝かせながらタルトを一口。
「……うん、美味しい! ベリーが甘酸っぱくて、下の生地がサクサク」
頬を緩める桜彩の表情を見て、怜もつられるように笑みをこぼす。
「こっちはチョコムース、食べてみるだろ?」
怜が皿を少し傾けると、桜彩がスプーンを伸ばした。
ふわりとした舌触りが広がり、すぐにとろけて消えていく。
「わ……、これ、凄く滑らか。甘いけど、くどくない」
「ホワイトチョコだから優しい甘さなんだろうな」
怜も一口食べ、軽く頷く。
桜彩は今度は小さなモンブランに手を伸ばす。
栗のクリームの上にフォークを入れると柔らかく沈んだ。
「これも……上品な甘さ。中にちゃんと栗のかけらが入ってる」
「こっちはフルーツのタルト。ちゃんとナパージュされてて綺麗だよな」
タルトの上に盛られているフルーツは、専用のシロップで光を反射し輝いている。
「ねえ、怜。これ、半分こしよ。はい、あーん」」
そう言って桜彩は自分のフォークで一口分を掬い、怜へとそっと伸ばす。
怜は一瞬だけ照れたように笑い、素直に口に運んだ。
「あーん。……うん、確かに。甘すぎないのがいいな」
「でしょ? こういうの、凄く好き」
「それじゃあ今度はこっちだな。あーん」
「あーん」
タルトを差し出すと、桜彩は嬉しそうに笑って口を開ける。
続いてピスタチオロール。
緑のクリームの中にベリーソースが差し込まれていて、フォークで切ると中から赤が覗いた。
「これ、すごい綺麗……。ツリーみたいな色合いだね」
「まさにクリスマス仕様って感じだな」
桜彩は一口食べて、ふわりと目を細める。
「ピスタチオの香ばしさに、ベリーの酸味が合ってる……。怜、これ好きそう」
「お、よく分かってるな。じゃあ一口もらう」
「それじゃあ、あーん」
「あーん」
ティーポットからもう一杯ずつ注ぎ足しながら、二人でスイーツを少しずつ分け合い、温かい香りに包まれた静かな時間を過ごしていく。
周囲のテーブルからは低く穏やかな話し声とカトラリーの小さな音が混じり合い、心地よいBGMのように響いていた。
「怜、見て。窓の外……。まだ雪が降ってるよ」
桜彩の言葉に怜が顔を上げる。窓の外では、白い粒がライトに照らされてゆっくりと舞っていた。
「ほんとだ。ホワイトクリスマス、だな」
「ね……。なんか、今日一日が夢みたい」
「夢じゃないよ。ちゃんと現実。俺達のクリスマスだ」
「恋人として初めてのクリスマス。こんなに素敵だなんて……。本当に良いのかな……?」
怜が微笑むと、桜彩の顔も自然とほころぶ。
「良いんだって。ほら、桜彩。あーん」
「あーん……。美味し~い! はい、お返し。あーん」
「あーん」




